NHKドラマ 東京裁判は見応え十分

新京・偽満洲博物館 Copyright Par Duc Matsuocha gouverneur

 先週、4夜連続で放送されたNHKスペシャルの「ドラマ 東京裁判」は、大変見応えがあり、悔しいかな(笑)、こんな番組は、某お笑いと音楽事務所によって占拠されて、下宿の大家さんのように番組時間枠を丸投げして貸しているような民放ではつくれない骨太の作品でした。

 何しろ、カナダとオランダのTVプロダクションとの国際共同で、世界各国の公文書館から資料を再発掘して、8年の歳月をかけて制作したらしく、そりゃあ、私のような近現代史研究家(笑)が観ても、大いに心を動かされました。

 新京・偽満洲博物館 Copyright Par Duc Matsuocha gouverneur

 私は、東京裁判については、1983年に製作公開された小林正樹監督の長編ドキュメンタリー映画の高価なDVDを買ったぐらい、書籍も集めてかなり熱心に勉強したつもりでしたが、このドラマのように、世界から集まった戦勝11カ国の判事の内面にまで逼った話は知りませんでした。

 戦勝国の判事とはいっても、人間ですから感情があります。

 多数派工作したり、出し抜いたり、正義を貫いたり、妥協したり、人間的な、あまりにも人間的な場面が多く頻出します。

 新京・偽満洲博物館 Copyright Par Duc Matsuocha gouverneur

 小林正樹監督のドキュメンタリーは、もちろん、当時のフィルムを使った白黒でしたが、今回のテレビ用番組では、その実際の白黒フィルムを当時の資料を基にして、色づけカラー化しているため、70年前の裁判ではなく、ほんのつい昨日の裁判のように生き生きとしています。

 ドラマでは、A級戦犯全てを名前入りで詳しく紹介されていませんでしたが、あ、荒木貞夫だ、武藤章もいる、といったように、カラーになって甦った彼らを発見する愉しみもありました。

 2年半も掛かった東京裁判で、被告となったA級戦犯は、軍人のほか、首相、外務大臣経験者らで28人。このうち、7人が絞首刑、16人が終身禁錮刑、2人が禁錮刑、1人が精神鑑定処分、2人が病死しました。詳しい方は、それは誰だったのか、すぐ名前と顔が浮かぶことでしょう。

 このドラマといいますか、東京裁判の最大のポイントは、「平和に対する罪」で、国家の指導者に個人的に戦争責任を問えるかどうかといった点でした。日本側としては、自衛のためにやむを得ず戦争を遂行せざるを得なかっただけで、そもそも、国際法では戦争行為の犯罪はそれまでは規定されておらず(1945年8月8日、侵略戦争を犯罪と規定)、この東京裁判で初めて犯罪として認定することは、後から法をつくって裁く「事後法」ではないか、と問われたわけです。

 これは、清瀬一郎弁護人を始めとして日本の弁護側からの主張だけではなく、インドから選出されたパル判事の国際法学者としての立場でもあり、彼は、「被告人全員無罪」を主張したことで、今でも語り草の伝説になるほど有名です。

 ただ、パル判事は、日本が犯した侵略や残虐行為まで容認したわけではなく、あくまでも、法律にそぐわないと主張したということは付け加えておきます。

 指導者の戦争行為が個人的な犯罪になるのなら、なぜ、広島・長崎に原爆を落としたトルーマン米大統領の戦争犯罪は問えないのか、といった根本的な疑問も生まれ、矛盾するわけです。

 ドラマの主役の一人は、11人の判事の中でもオランダのレーリンク判事のような気がしました。39歳で最も若い判事だったようで、彼は、パル判事のように無罪だと考えたり、やはり、有罪だと考えたり、心が揺れ動きます。彼は、鎌倉に住む「ビルマの竪琴」の作家でドイツ文学者の竹山道雄とも交際したりします。史実でしょうが、ドラマとして脚色も入っている気がしますが、1941年に文化使節として来日し、ナチス嫌いでそのまま日本に滞在していたドイツの有名なピアニストのエタ・ハーリヒ・シュナイダーとも交流したりします。

 このシュナイダーは、ドラマの後の解説で、あのスパイ・ゾルゲと愛人関係にあったのではないか、と示唆する場面もありました。

 とにかく、世界各国でも放送するか、されたでしょうけど、その国によって、個人の思想信条によって、色んな見方があることでしょう。

 私は日本人ですから、やはり、戦勝国が一方的に裁く裁判には疑義を持ちましたが、判事らの心の揺れ動きや駆け引き等は新発見でした。

 オーストラリアのウエッブ裁判長が解任されたり、復帰して再任されたりしたゴタゴタも忘れていました。

 裁かれた日本側も毅然としていました。東条英機は軍人とはいえ、最前線で戦う兵士ではありませんから、あまり現場を知らない、自分の手は汚さない駒を動かすだけの超エリート官僚のように見えましたが、一部で言われていた風評とは違い、やはり、かなり頭の切れる明晰な人物に見えました。ただ、自分だけは大本営か作戦室か安全地帯にいて、あれだけの部下を戦死させ、近隣諸国に被害を齎したわけですから、裁かれるのは当然でした。

ニュンルンベルク裁判に隠れて、世界では極東国際軍事裁判(東京裁判)はあまり知られていないようですから、多くの人が関心を持つことはいいことだと思っています。最近、研究も進んでいるようです。

 再放送もあるので、見逃した方は是非ご覧になっては?

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください