フランス第三共和政と大仏次郎

港の見える丘公園
▽Amazon
昨日、米通販最大手のAmazonのことを書いたら、偶然にもニュースが飛び込んできました。

アマゾンが、生鮮食品も扱う米大手スーパーのホールフーズ・マーケットを1兆5200億円で買収するというニュースです。アマゾンは、この買収額をすべて現金で支払うそうですが、凄いシンクロ二シティ。

バーチャルが現実に追いついたということなんでしょうか。

フランス総領事館

今日は、土砂降りの中、横浜まで遠出して、フランス文学者鹿島茂・明大教授の講演「大仏次郎生誕120年記念 今、民主主義は何かを問う 『フランス第三共和政と大仏次郎』」(神奈川近代文学館・1108円)を聴きに行きました。

日本の知性を代表する第一人者の大御所様がどんな背格好で、どんな声色で、どんな性格の方なのか、いつか、いっぺん謦咳に接したいと思っておりましたから、早めに並んで一番前のかぶり付きの席を確保してやりやんした。

やはり、風合いは写真でお見受けする人相に現れておりました(笑)。かなりの早口で漲る自信。非の打ち所がない学識の権威。天下無敵。博覧強記の人とはまさにこの人のために作られた言葉なのではないかと思わせるほど迫力がありました。

フランス山

何しろ、鹿島先生は、ナポレオン三世の第二帝政時代の首相格だったルエールの子孫から白羽の矢を当てられ、急に電話でパリでの講演を頼まれ、そこで先生が「今のパリは、第二帝政時代のオスマンが全て都市計画で作り直したもの。ですから、第二帝政がなければ今のパリはない!」と演説したところ、聴衆から拍手喝采され、講演後、多くの聴衆(実は、殆どが第二帝政時代に政権中枢にいた人の子孫)から「本当のことを言ってくれるのは貴方しかいない。有難うございました」と感激の握手攻めにあったといいます。

意外にも、現在、第五共和政のフランスではナポレオンは、一世も三世も人気がないのだそうです。国家の英雄ではないそうです。つい最近まで、全土でナポレオンという名のついた通りや橋はなかったそうです。それは後述しますが、理由があります。(ちなみに、フランスで最も人気がある偉人はビクトル・ユゴーで通りや橋に一杯名付けられてます。次は、ドゴール将軍。日本ではあまり知られていない急進共和派のガンベッタも人気が高いようです)

ナポレオンの代わりに、苗字のボナパルトの方は、既に通りに付けられています。それには、カラクリがあって、アンリ四世にしろ、ルイ十四世にしろ、最高の権力者である王様には苗字がありませんよね?

この伝でいくと、皇帝ナポレオンも、本来なら苗字のボナパルトは割愛されて、通りや橋にナポレオンと名付けられても不思議ではありません。ということは、ボナパルト通りと付けられた通り名は、皇帝ではなく、ボナパルト将軍の名前から取ったという苦肉の策になったというわけです。

何故、このような七面倒臭いことをしたのかと言いますと、第三共和政が第二帝政を否定(打倒)して成立した経緯があるからなのです。今も共和政(第五)が引き継がれているので、帝政はタブーになってしまったわけです。

だからこそ、「第二帝政時代にはそれなりに、良いことがあった」と鹿島先生がパリでの講演会で持ち上げたところ、帝政時代の支配者階級の子孫が大喝采したわけです。

フランス山

さて、私は大仏次郎に関しては全くの不勉強で、読んだことがあるのは「鞍馬天狗」ぐらいで、あと有名な「天皇の世紀」など単に名前だけ知っているだけで、読んだことはありませんでした。

大仏次郎の代表作で「フランス・ノンフィクション四部作」と言われる「ドレフュス事件」(天人社 ・1930年)、「ブウランジェ将軍の悲劇」(改造社 ・1936年)、「パナマ事件」(朝日新聞社・1960年)、「パリ燃ゆ」(朝日新聞社・1964年)もそうで、恥ずかしながら、今になって、慌てて読んでいるところです。

鹿島先生の講演は、これらフランス四部作が全て、1870年9月4日(ナポレオン3世がプロシアに敗れて捕虜に)から1940年6月22日(ナチス軍パリ無血入城でドイツ軍に降伏後、コンピエーニュの森で独仏休戦協定締結)にかけてのパリ・コミューン~第三共和政の時代であることに着目して、第三共和政とはどういう時代だったのか、政治的、文化的特徴を細かく講義して下さったわけです。

大仏次郎博物館

詳細は長くなるので書けませんが、久し振りの骨太の講義で、感動し、大変勉強になりました。

ところで、演題にある「今、民主主義とは何かを問う」というのは、先のフランス大統領選挙の結果を引き合いに出しての面白い分析結果でした。

哲学者のエマニュエル・トッドの学説を引用します。

トッドは、家族形態を大きく四つのパターンに分けます。
(1)「共同体家族」(共産主義、一党独裁型資本主義)(親子同居、兄弟相続)=ロシア、中国
(2)「直系家族」(自民族中心主義、社会民主主義、ファシズム)(親子同居、長男のみ相続)=ドイツ、スウェーデン、スコットランド、日本、韓国
(3)「平等主義核家族」(共和主義、無政府主義)(親子別居、兄弟相続)=スペイン中部、ポーランド、イタリア南部
(4)「絶対核家族」(自由主義、資本主義)(親子別居、長男のみ相続)=イングランド、北米、豪州

そして、面白いことに、今回の大統領選挙の第一回投票で、一番多くの票を獲得した候補と地域を見てみると、まず、(1)共産主義的「共同体家族」が多いフランス中央部では、極左のメランショ候補がトップ。(2)の親子が同居して長男のみ相続する直系家族の形態が多い北東のベルギー国境やドイツ国境のアルザス・ロレーヌ地方と南仏は、極右のルペン党首が一位を獲得。(3)の「平等主義核家族」が多いパリ周辺は、中道マクロン氏がトップだったというのです。

いやあ、この話も大層面白かったのですが、残念ながら、長くなるのでこの辺で。

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