函館 聖母トラピチヌ修道院
素晴らしい映画を久しぶりに観ました。
「歓びを歌にのせて」
スウェーデン映画です。2004年のケイ・ポラック監督作品。2005年の第77回アカデミー外国映画賞ノミネート作品です。ストーリーはこんな感じです。
8年先までスケジュールが決まっている世界的指揮者のダニエル(ミカエル・ニュクビスト)が、過労とストレスで心臓発作に襲われ、指揮活動を断念し、子どもの頃に住んでいた片田舎ユースオーケル(架空の村)にある廃校になった小学校を買って移り住み、隠遁生活を送ることになった。そこへ、彼の名声を知っている牧師スティッグ(ニコラス・ファルク)が聖歌隊の指導を頼みに来るが、音楽界から引退したダニエルは断る。しかし、熱心な村人の姿を見て、自ら「教師」として買って出て、この世のものとは思えないほど素晴らしい聖歌隊に育てていく…
と、ここまで書くと、陳腐な成功物語に聞こえてしまいますが、それは、それは、紆余曲折があって、とても複雑な深いストーリーなのです。最後は、オーストリアのインスブルックでのコーラス・コンクールにまで出場するが、再び心臓発作に襲われたダニエルは、トイレで倒れ、舞台に立つことができるかどうか…。あとは観客の想像力に任せる、といった感じで終わってしまいます。
私は何と、「悲劇的な終わり方をするなあ」と思ったのですが、一緒に観たHさんの解釈はまるっきり逆でした。「ハッピーエンド」でした。
ダニエルが移住を決意したユースオーケルは、7歳くらいまでに住んでいた村で、同級生たちからひどいいじめに遭って、立ち去った所でした。麦畑で一人でバイオリンの練習をしていたら、悪ガキどもに乱暴されたのです。その時の心の傷は、ずーと癒されることはありませんでした。しかし、映画の最終場面。ダニエルが、トイレで倒れて朦朧となっていた時に、その麦畑シーンが出てきて、バイオリンの練習をしている子どものダニエルを、大人になった今の自分が抱き上げて、解放するのです。この場面で、「心の傷を持ったインナーチャイルドが癒された」とHさんは解釈したわけです。
母親の手一つで育てられたダニエルは、少年の頃、その母親を交通事故で亡くし、人に対して心を開かなくなります。人を愛することができず、ずっと独身で過していました。そんな彼の心を開いたのが、聖歌隊のメンバーの食料品店の店員のレナ(フリーダ・ハグレン)でした。決して美人ではありませんが、笑顔を絶やさない若さに溢れた魅力的な女性です。そんな彼女も、両親を亡くし、男に騙されて、心に深い傷をもっていました。
そうなのです。素晴らしいソロを聴かせるガブリエル(ヘレン・ヒョホルム)はアル中の夫の家庭内暴力に悩み、牧師の妻インゲ(インゲラ・オールソン)も夫の偽善に悩み、聖歌隊に参加している老若男女、すべてのメンバーが、何かしら心の傷を背負っていて、あまりにも人間臭いのです。リーダー格の雑貨商のアーン(レナート・ヤーケル)も仲間をいじめる俗物に描かれ、スウェーデンの片田舎だけではなく、世界中のどこにでもありえてしまう物語に仕上がっているのです。ハリウッド映画に出てくるような美男美女が一人も登場せず、はっきり言って、映画なのにこんな不細工な人を出していいのかなあ、と心配してしまうほどの俳優も登場します(失礼)。
ダニエルの恋人役のレナも、美しい金髪の持ち主ですが、顔はどこか東洋的です。
映画を観ているというより、ドキュメンタリーを観ている感じでした。
そして、この作品では、人間の嫉妬が妄想を生み、いかに自分自身と周囲を駄目にしてしまうか、ということを残酷にも白日の下に晒しています。あんな人格者だった神父のスティッグが、村人の関心と賞賛がすべてダニエルに奪われたと嫉妬し、みっともないほど無様な醜態を見せるし、ガブリエラに暴力を振るう夫コニーも、ダニエルへの嫉妬心から身を滅ぼします。
これらの人間の業を救うのが音楽です。夫に殴られて顔に傷を作りながらもソロを歌うことを決心したガブリエラの歌声は、本当に天使の歌声でした。この映画のハイライトの一つでしょう。詩も素晴らしい。
「この世に生きるのは束の間だけど 私の人生は私のもの…」と謡いあげるのです。
ガブリエラ役のヘレン・ヒョホルムが随分歌がうまいなあ、と思ったら、スウェーデンでは有名な歌手だそうです。
スウェーデンがこんな身近に感じたことはありません。
映画は国境を越えるのですね。
歓びを歌にのせて
?
本年、映画館で見た11本目は「歓びを歌にのせて」。
ポスターをぱっと見た感じで、独自に
「ミュージック・オブ・ハート
」みたいなもんと判断し
じゃあ見なくていいや。と思っていた。
でも、それから暫くして、やっぱり見てみようと思った。
そのきっ