杉田敏先生の2023年秋号「現代ビジネス英語」第10課にこんなフレーズが出て来ます。
Spending a lot of time sitting during the day is bad for our health.… And too much sitting on our posterior can lead to depression and anxiety.
(意訳)日中に長いこと座り続けていると健康に良くありません。… それに、あまり長く座り続ければウツや不安の症状になりかねません。
いやあ、この言葉は痛感出来ますね。私も仕事で、パソコンの前で長い時間座っています。毎日、昼休みの1時間を除くと、およそ7時間です。その間、運動もしません。
そうすると、つまり、長い期間、そういう習慣を続けていると、どうも、毎日、気分が優れないのです。どん底の憂鬱とか、どうしようもない不安神経症とまではいかなくても、明治の夏目漱石の小説に良く出てくるような「アンニュイ」状態が続いています。
座り過ぎが原因だったのかあ・・・?!
なるべく立って、歩いたりして、気分転換した方が健康に良いのですね。そう言えば、文豪ヘミングウェイは、書斎で立ってタイプライターで小説を執筆していたことで有名です。それでも、彼は自ら命を断ってしまいましたから、ウツ状態から抜けきれなかったのかもしれませんが。
anxiety は不安ですが、辞書を引くと、「(未来の)不安」とわざわざ断り書きしていました。そっかー、不安とは、これから予測がつかない「未来」に対して抱くのであって、既に終わった過去に対して、普通、不安になったりしませんよね? 「過去」については、不安ではなく、後悔とか自責の念とか、良心の呵責とかになるのでしょう。気分が冴えない不愉快さや抑うつ状態は「現在」感じる感覚ということになりますか。
こういう感情というものは、持って生まれた性格なのか、後天的に育まれたものなのか?
私の場合は、過去の後悔も現在のアンニュイも将来の不安も全て持ち合わせ、恐らく、普通の人より敏感に感じていると思っています。これは、生まれつきの性格、つまり遺伝だと諦めています。でも、何とか好転できないものか思案することもあります。
今、ウォルター・アイザックソン著の評伝「イーロン・マスク」上下(文藝春秋)が世界中でベストセラーになっているようです。主人公は、宇宙開発スペースXや電気自動車テスラ、最近ではツイッターを買収したCEO、起業家として世界的に知られ、恐らく、現在最も注目されている一人です。著者のアイザックソンは、アップルを創業したスティーブ・ジョブズの評伝も書いておりますが、彼はイーロン・マスクの方が、起業家としてはジョブズより上だと言っているようです。
素人の私から見ればジョブズもマスクも破天荒な人で、とても側にいたくない忌避すべき人物です。性格も私とは正反対に見えます。例えば、彼らは、野心の塊で大胆不敵、目的を達成するまでは手段を選ばず、カネに糸目をつけず、平気で大博打を打つ。協調性に欠け、人を人とは思わず、リストラという名の首切りも厭わない。まあ、大変失礼ながら、義理も人情もなく冷徹で冷淡な合理主義者といったところでしょうか。恐らく、自責の念も良心の呵責も、後悔もアンニュイも不安も、ないとまで言いませんが、それほど感じないタイプなのでしょう。少なくとも耐性力だけは強靭なはずです。
いや別に悪い意味で言っているわけではなく、そういう性癖な人間だからこそ、起業家として歴史に残るような偉業を成し遂げられたことをむしろ強調したいほどです。
高いイーロン・マスクの評伝は買って読む気がしませんけど、ネット上の版元のポッドキャストで、担当編集者が内容を紹介していたので大体のことは分かりました。
マスク氏の大胆不敵と協調性のなさはどうやら幼少期に育まれたようです。父親は強権的で威圧的、生まれ育った南アフリカでは、暴力が支配し、頭に刃物が刺さった死体を何度見たことか。自身もいじめられっ子で、顔が変形するほど殴られて入院する重傷を負ったりします。
そんな境遇に育った彼は、生き延びるために自分の感情をシャットダウンする術を覚えたといいます。それらが、大人になっての協調性の欠如や大胆不敵の行動に繋がるわけです。
壮絶な過去の体験によって、気弱な性格が大胆になった典型みたいなものなのかもしれません。