実は、あまり触手が動かなかったのですが、統合幕僚参謀本部からの指令で、映画「ペンタゴン・ペーパーズ」を先ほど観てきました。
だって、監督がスピルバーグ、主演はメリル・ストリープとトム・ハンクス。あまりにも役者が揃いすぎて、手垢がつき過ぎている。そりゃ、ハリウッド映画ファンなら大喜びでしょうけど、極東の映画巧者にとってはむしろマイナス要因ですからね(笑)。
それに、私の世代にとっては、この事件は、教科書に載るような歴史物語ではなく、生々しい過去の出来事。「感動してたまるか」と上から目線で見始めたら、いきなり、ベトナム戦争の前線の場面から始まり、多くの若い米国人兵士が次々と生命を奪われていく。。。「あれ、もしかしたら凄い映画なのかもしれない」と思ったら、気が付いたら、すっかり映画の中の住人になっていました。最後まで観客を飽きさせなかったリズ・ハンナの脚本の力が大きかったのかもしれませんが。
くどいようですが、私の世代まで、ギリギリ、ワシントン・ポストの女性社主キャサリン・グラハムの名前や、最高機密文書を暴露したエルズバーグという名前、それに、メディアとニクソン政権との確執などを同時進行で見てきた世代でしたので、「ストーリー」は分かってました。
個人的ながら、「ペンタゴン・ペーパーズ」を大スクープしたニューヨーク・タイムズのニール・シーハン記者とは、後年、彼が「輝ける嘘」(集英社)上下2巻を1992年9月に日本で翻訳出版した時、その発売前の8月に来日した際、インタビューしたことがありました。この映画の中で、何度も何度もニール・シーハンの名前が出る度に(意図したことなのか、名前だけで本人役は登場しませんでしたが)あの時の感動を思い出したほどです。
映画では、時の政府権力者と新聞社の社主との癒着に近い親密な関係を事細かく描いてます。ワシントン・ポストのグラハム女史と国防長官のマクナマラが、ホームパーティーに呼び合うなどあそこまで親密な仲だったとは知りませんでしたね。
デイビッド・ハルバースタムの名著「ベスト・アンド・ブライテスト」の中では、当時、フォードの社長だったマクナマラが、ケネディ大統領によって「最も優秀で賢い人間」の1人として国防長官に抜擢された有様が描かれていました。
それが、先日読んだ宇沢弘文氏の著作で、マクナマラは、太平洋戦争で日本空襲爆撃の際、どうやったら最も効率良く死者を産み出すことができるかという「キル・レシオ(殺戮比率)」を考案した人間で、ベトナム戦争でも応用した人物だったと知って、彼に対する見方も大分変わりました。
あ、映画の話でした。とにかく、1970年代の米国の新聞社の内部が非常によく描かれていました。当時は鉛活字ですから、今はなき植字工さんも健在です。原稿を包の中に入れて、ダストシュートのように社内を飛ばすやり方も、見ていて懐かしかったですね。私が勤めていた会社にも昔、ありましたからね(笑)。
1971年、つまり今から47年前の出来事ですから、脚本執筆に当たり、当時を知っている存命中の関係者に可能な限り取材して反映させた、といった趣旨の話がプロダクションノートに書かれていました。
映画に出てくる車やファッションは、70年代を再現していて、それらしく見せておりますが、当時を知っている私から言わせれば、外見は70年代でも、中身はやはり21世紀の若者、もしくは俳優にしか見えない。こういうのが作りもの映画の限界なんだろうなあと、理屈っぽく考えてしまいましたよ(笑)。