🎬「イニシェリン島の精霊」は★★★

 最近、ダムが決壊したかのよに、映画づいてしまいました。予告編を観て、いつか観ようか、観まいか迷っていたところ、新聞の広告で、「本年度アカデミー賞 最有力!」「主要8部門ノミネート」「ゴールデングローブ賞 最多3部門受賞」といった惹句に惹かれて、つい観てしまいました。

 「スリー・ビルボード」の監督マーティン・マグドナーの最新作で、コリン・ファレル主演の「イニシェリン島の精霊」です。予告編で、ファレル演じる主人公の気の弱そうで生真面目なパードリックに対して、その親友で、いかつい顔をしたコルム(ブレンダン・グリーソン)が急に、「お前とは友達をやめる」と言い出し、その理由について、「ただ嫌いになっただけだ」と言い放ちます。二人の間に一体、何があったのか?

 こりゃあ、本編を観たくなりますよね。

 でも、「予測不可能にして衝撃の結末とは?」と宣伝文句にある通り、サスペンスかミステリーの映画のようですので、結末は言えません。とはいえ、万人向きの映画ではないと思います。かなりグロテスクなので、私ならお薦めしないなあ…。怖いもの見たさに飢えている方なら丁度良いかもしれませんけど…。何で日本人的なわびさびの精神が分からないのかなあ?別に過激じゃなくていいし、あそこまでしなくてもいいじゃないか、と私なんか思ってしまいます…。

 と書きながら、この映画、フィクションとして割り切れば、かなり、練りに練られた考えられた作品になっています。奥が深いと言いますか、しばらく、この映画から頭が離れなくなり、色々と考えさせられます。友情という普遍的な問題についてだけではなく、人生とは何か、そもそも生きるとは何なのかと…。

 最初、観ている者は、いつの話なのか、何が何だか分からない世界に引きずり込まれていきますが、だんだんと、それは1924年4月1日に起きたことで、本土から少し離れたアイルランドの離島イニシェリン(架空の地らしい)で、住民同士がほとんど顔見知りの非常に狭い世界で物語が展開されることが分かります。樹木がほとんどなく、産業もほとんどないようで、あるとしたら、漁業か牧畜ぐらいです。この時代、テレビもラジオもなく、娯楽があるとしたら、辛うじて蓄音機のSPレコードとフィドルぐらい。男たちの愉しみは、村でたった1軒しかないようなパブで、昼となく、夜となく飲み明かすぐらいです。本土では内戦が続いているらしく、時折、砲弾の音が聞こえてきます。

 そんな狭い世界で人間関係がよじれると厄介なことになります。何しろ、道ですれ違わないことがないくらい狭い村社会で、隠れる所などほとんどありませんから…。

 この映画で応援したくなるのは、主人公パードリックの妹シボーンを演じているケリー・ゴードンです。彼女がいなければ、単なる怪奇映画になってしまいそうですが、シボーンを設定することで、映画に深みを増すことが出来、なるほどアカデミー賞候補になるのも頷けます。字幕なしで英語だけ聴いていると、どうも聴き取りにくい知らない単語が多く出てきましたが、恐らくアイルランド人がよく使う単語なのでしょう。調べたところ、コリン・ファレルは勿論、ブレンダン・グリーソンもケリー・ゴードンも、主役の俳優さんほぼ全員、アイルランド出身でした。凝り性のマグドナー監督のキャスティングだと思われます。

「ムーンライト」は★★★☆

うら若き桜

今年のアカデミー賞の最高栄誉である作品賞を獲得した「ムーンライト」(バリー・ジェンキンス監督作品)を近くの映画館で観てきました。

フェイ・ダナウェイがあの「ララランド」と発表を間違えた曰く付きの作品です。

で、感想ですが、うーん、でした。何とも言えない感じでした。

その時代を最も反映する最大の栄誉である作品賞だから、身銭を切って観たのですが、そうでなかったら、まず、観なかったことでせう。

カタルシスがない。まあ、ないからどうした、ということになりますが、現実に厳しい生活を強いられている人には、お勧めできませんね。

実は、この手の映画は個人的に好きではないというのが正直な感想です。

ただ、撮影編集の手法が斬新的でした。

ジャンキーの母親の女手一つで育てられた黒人のシャロンの成長物語で、大きく、幼年期、少年期、成人期の3部構成になっています。

普通、プロデューサーは似た容貌の俳優をそれぞれ配置しますが、何か、別人感がプンプン漂います(笑)。

あれだけ、ひ弱で痩せっぽちのいじめられっ子だったシャロンが、成人すると、筋肉モリモリの不敵なワルに容姿だけは激変しますが、心は救いようもないほど、幼稚で大きなトラウマを抱えている辺りはうまく描かれていました。

この映画のハイライトは、シャロンが子供の時に出会った黒人の麻薬売人フアンとの交流です。

差別と貧困に喘ぐ底辺の中で、腕力と違法行為でのし上がったフアンは、幼いシャロンに「自分の人生は自分で決めろ。他人から指図されるな」と諭しますが、皮肉なことに、成人したシャロンが選んだ職業は…?

まあ、これから観る方のために、内緒にしときます。

アカデミー賞誤読騒動に於ける歴史哲学的省察とポスト真実

バチカン市国

昨日の米アカデミー賞当選者発表会で、最も注目される部門の作品賞で、間違えてアナウンスしてしまうハプニングがありました。

これも今流行りの「ポスト真実」「オルタナトゥルース」なんでしょうかね?(笑)

プレゼンターは、ウォーレン・ベイティとフェイ・ダナウェイ。おお、何と、懐かしの「俺たちに明日はない」の名コンビじゃありませんか!

お二人ともさすがにお年を召されました。数々の女性スキャンダルで浮名を流したベイティもすっかり好々爺になり、面影すらありません。

「俺たちに明日はない」は1967年製作ですから、何と、もう半世紀も昔の映画だったんですね。無理もないか。

バチカン市国

で、プレゼンターのフェイ・ダナウェイが、本来なら作品賞は「ムーンライト」のはずが、13部門の獲得を狙っていた「ラ・ラ・ランド」とデカイ声で発表してしまい、関係者も壇上に上がってスピーチしている途中にスタッフが割り込んで「間違えーた。これ、冗談ちゃうねん」と言って、スピーチを止めさせておりました。

私はこの場面をテレビではなく、ワシントンポストが配信している動画で見ました。

89年のアカデミー賞の歴史で初めてらしいですね。

伊太利亜ローマ

何で、フェイ・ダナウェイは間違えちゃったんでしょうかね?

確かに、ウォーレン・ベイテイが、作品賞名が書かれた封筒を開けて、隣りのダナウェイに渡して、彼女はその中身を見たような、見てないような…。

で、結局、見てなかったんでしょうね。

もう、前評判通り「ラ・ラ・ランド」が獲得すると固定観念に凝り固まっていた可能性もあります。

しかし、逆に言えば、あの当選発表会には全く演出はなく、プレゼンターでさえ、事前に知らされていなかったという証明にもなりますね。

これは素晴らしいオルタナトゥルースです!(笑)

糠喜びした「ラ・ラ・ランド」さんには気の毒ですが、こういうハプニングは大歓迎です。

※例によって電車内で記憶で書いてますので、ポスト真実の間違いは訂正致します(笑)。

【追記】プレゼンターには、間違って「ラ・ラ・ランド」の主演女優賞のエマ・ストーンが書かれた封筒を渡されたらしいです。

ということは、フェイ・ダナウェイが誤読したわけではなく、エマ・ストーンが主演した作品の名前を先走って、読んでしまったということになります。

でも、このブログを書き換えると論理的破綻してしまいますので、このままにしておきます。

それにしても、スタッフが手渡すのを間違えますかねえ?
封筒に「作品賞」と表書きしてないんでしょうか?

謎の謎です。

「レヴェナント」は★★★ second edition

杜甫草堂入口   Copyright Par Duc Matsuocha gouverneur

今年度のアカデミー賞主演男優賞(レオナルド・ディカプリオ)と監督賞(アレハンドロ・G・インタリトゥ)と撮影賞を受賞した「レヴェナント 蘇りし者」を近くのロードショウ館で観てきました。

IMAX(アイマックス)というものを今回初めて知りましたが、映像、音響とも一歩先に行く鮮明で迫力ある映画が楽しめる方式なんだそうで、一般1800円のところ、2000円とちょっと割高になっています。

あたしゃ、そこまで拘らないので、普通の映写で十分でした(笑)。

以下は、ネタバレの内容に触れますので、これからこの映画をご覧になる方は、お控えなすって。さようなら。

 杜甫像  Copyright Par Duc Matsuocha gouverneur

とにかく、疲れる映画でした。前触れの宣伝を含めて、拘束時間2時間55分と長過ぎます。最後の方でトイレに行きたくなってしまい、大変でした(笑)。

何と言いますか、汚いし、苦しそうだし、寒そうだし、飢え死にしそうだし、命を取られそうだし、何か、ゆっくり落ち着いて観ることができませんでした。映画館には結構ギリギリに着いたら、混んでいて、一番前の席しか空いていなくて、顔のアップがデカ過ぎました。

美人さんなら我慢できますが、泥んこまみれで、何か曰く因縁がありそうな、胡散臭いおっさんばかり登場しますから、疲れました。

でも、主演男優賞をやっと獲得したヒュー・グラス役のレオ様は、どこまでスタントマンを使っていたのか、よく分かりませんでしたが、とにかく体当たりの演技で、土の中に入れられたり、河から滝で落ちたり、馬ごと崖から落下したり(これはスタントマンでしょう)、そして何よりも、デカい大熊に襲われて瀕死の重傷を負ったり、観ている方も引いてしまうほどでした。(映画の中で大熊のことを、レオ様は、ハイイログマではなく、「グリズリー」と言ってましたが、本物だったんでしょうか?いや、本物だったら、本当に死んでしまいますよね?)

 杜甫草堂大雅堂  Copyright Par Duc Matsuocha gouverneur

大自然の凄さには圧倒されますが、人間の存在そのものが悪のような気になります。

でも、とんでもない極悪人や善良な人間が登場するわけでもありません。実際にあったことを元にした作品だそうですが、元々いたネイティブ・アメリカンが残忍そうで、良心的であったり、征服者の白人が、良心的そうで残忍だったりして、何か描き方も中途半端な感じがしました。

悪役ジョン・フィッツジェラルド(トム・ハーディ)も何処にでもいそうなワルで心底憎めない感じです。ヘンリー隊長(ドーナル・グリーソン)も何処か頼りない感じで、最後のフィツジェラルド討伐に連隊を率いて行けばいいものを、グラスと二人だけで行くのですからね。その先が想像できました。

厳しい大自然の中で、低音で流れるオーケストレーションは、映像の邪魔にならず、そう言えば、坂本龍一が担当していたんだな、と思い出して、注意深く音楽を後から聴くほどでした。映画の中で、音楽の存在に気付かせないことは、なかなかの手腕でしょう。

いやあ、我ながら、つまらんこと書きましたが、タダで観て、文句を言ってもお金をもらって、周囲から「先生、先生」と言われてふんぞり返っている評論家や記者さんよりマシでしょう(爆笑)。