セレンディピティは経路依存性なのかなあ?

 先日、このブログで、お医者さんは、色んな症状や病気に名前を付ける名人だ、という話を書きましたが、お医者さんだけでなく、経済学者もそうですね。

 過日、テレビのドキュメント番組「シリーズ コロナ危機『グローバル経済 回復力の攻防戦』」を見ていたら、「経路依存性」なる用語が出てきました。ネットのウイキペディアでは、

 経路依存性(けいろいぞんせい)path dependenceとは、人々が任意の状況で直面する決定の集合が、過去の状況がもう関係なくなっているとしても、人々が過去にした決定や経験した出来事にどのように制限されているかについての説明である。

 ーなぞと小難しく書かれていますが、番組では「偶然に起こったことについて、因果関係を見い出して必然だと思い込んでしまう人間の性(さが)のこと」と説明してくれて、非常に納得しました。

 この用語が、どんな話の流れで出てきたかと言いますと、新型コロナの世界的蔓延で、不況となり、失業者が増大(米国では4000万人だとか)しているというのに、株価が値を取り戻し、わずか2カ月で昨年並みに回復し、今でも値上がりを続けている。それは、何故なのか?といった話の中で出てきたのです。

 結論的には、株価は実体経済を反映していない、といったものでしたが、新型コロナで需要が落ち込み、人々も消費を控えることになったことから、余ったお金は、将来の不安に備える意味でも貯蓄に回ることになった。米国では、FRBの政策で金利はゼロになり、銀行に預けても利子が付かないのなら、株でも買うか、といった動きが、株価上昇の原因の一つではないか、といった見方でした。(番組に出演していたノーベル経済賞受賞の米スティングリッツ氏も「私もゼロ金利なら、株に投資するね」と発言していました。また、独経済ジャーナリストのヘルマン氏は「実体経済で得られない利益を株に投資した」と発言していました。)

 人々が株に投資すれば、株価が上がる。上がれば、もっと株を買っておこうか、という心理が働く…。しかし、実体経済が伴わない株価上昇であることから、米大手投資銀行日本人初の部門トップである居松秀浩氏の口から「経路依存性」という言葉が飛び出してきたのです。つまり、今の株価は、偶然の重なりで値上がっているのに、そこに因果関係を見つけて、必然だと思い込んでいるという意味なのでしょう。

 なるほど。ケインズが言った「株価は美人投票みたいなものだ」といった言葉を思い出しました。(番組では、「経済学とは道徳学であり、自然科学ではない」というケインズの言葉も紹介していました)

 経路依存性の話を聞いて、10年以上前に日本でも一時期、爆破的に流行ったセレンディピティという言葉を思い出しました。「予測もしていなかった偶然によってもたらされた幸運」とか「幸運な偶然を手に入れる力」などという意味があるようですが、私の場合、「偶然によってもたらされた小さな幸せ」はあったかもしれませんが、どでかい幸運に恵まれることはありませんでしたね(笑)。

 セレンディピティも経路依存性なのかしら?

【お断り】

 記憶で書いたので、テレビ番組の内容を正確に反映したものではありません。悪しからず。番組では、トマス・セドラチェクさんという髭を生やしたチェコの銀行家が登場し、「考えてみれば、仕事なんて人為的につくられているんですよ」「あなたが生きていくためには私なんか必要がないでしょう」といった皮肉を込めた発言が、一番脳髄に残りました。

 このブログの読者の皆様も、生きていくためには、私なんか必要ないのです(笑)。

人間は恐怖と欲望で出来ている

WST National Gallery Copyright par Duc de Matsuoqua

トランクルームを借りて、死んでも天国まで蔵書を持って行くつもりの例の遠藤君が「これを見なさい」と貸してくれたのが、テレビ番組を録音したDVDでした。

 どうやら7月にNHKで放送された「BS1スペシャル『欲望の資本主義 特別編 欲望の貨幣論2019』」という番組で、あまり面白そうではなかったので、4~5日、ほおっておいたのですが、見てみたら吃驚。こんな凄い番組を見たのは本当に久しぶりでした。遠藤君、ごめんなさい。最近のNHKは、商業主義とは無縁のはずなのに、ジャニーズやバーニング系のタレントを多用して民放と変わらない実に下らない番組が多く、見るに値しない局だと断定していたのですが、これで少しは見直しました。

 前編と後編で2時間ぐらいの番組で、内容全て紹介しきれないのですが、中心的な進行係として、「貨幣論」(1993年)などの著書がある経済学者の岩井克人氏を据えたのが大成功でした。「講義」の仕方が非常に懇切丁寧で、学生だったらこの教授に師事したいくらいでした。岩井氏の奥さんは、「続明暗」などの著書がある作家の水村美苗氏です。私は彼女に30年ぐらい昔にインタビューしたことがありますが、後で、水村氏の御主人が岩井克人氏だと知った時驚いたことを覚えています。逆に言うと岩井氏については、その程度の知識しかありませんでした。30年前は経済学には全く興味がありませんでしたから…(苦笑)。

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 前置きが長くなりましたが、どうしても番組の内容を短くまとめることが難しいので遠回りしただけでした(笑)。いや、気を取り直して始めます。

 岩井氏によると、貨幣というのは、本来、モノとモノを交換する「手段」に過ぎなかったのですが、いつの間にか、貨幣を貯めることが「目的」になってしまったというのです。貨幣が通用するのは、他人が受け取ってくれることを前提にして、それに懸けているようなもので、貨幣そのものに根拠がない。「自己循環論法」によってのみ、価値が支えられているというのです。

 貨幣自体に本質がないということで、「貨幣商品説」と「貨幣法制説」を否定し、マルクスの「価値形態論」も批判します。まあ、こう書いても番組を見ていなければさっぱり分からないことでしょうが…(苦笑)。

 この番組では、世界的に著名な色んな経済学者、哲学者、歴史学者らが登場しますが、私が一番印象に残ったのが、かつて米投資銀行で10憶ドルを運用し、今は電子決済サービス企業戦略を担当しているカビール・セガールという人の発言でした。「私たち(人間)は、恐怖と欲望で出来ている」というのです。これほど、的確な言葉ありません。

 彼によると、人間は恐怖と欲望で出来ているからこそ、不確実な未来に備えて貯蓄する。お金が多ければ多いほど、未来は安心だと感じる。それでも不安なので、「もっと、もっと」とお金を貯め込む。人間は過剰に安心を求めるというのです。

 岩井氏の説明では、ヒトが、モノよりもお金が欲しくなると、デフレになり不況になる。逆に、ヒトがお金に価値がないから早く手放そうとすると、ハイパーインフレになり貨幣の価値が下がるというのです。

 他に、アダム・スミス「見えざる手」、マルクス「労働価値説」、ケインズの「流動性選好」(世の中が不安定だとモノよりも未来の可能性を高めるために貯蓄に走る)、ハイエク「通貨自由化論」ら錚々たる経済学者の理論が登場しましたが、私としては、このセガール氏の「人間は恐怖と欲望で出来ている」という話が一番、腑に落ちました。

 現代は、富がGAFAなど一部のIT企業に集中し、世界的に膨大な格差が広がっています。企業も国家も数字が全てで、企業は利潤、国家はGDPの数字が向上することばかり腐心します。資本主義社会では、こうして数字で成功した人のみが崇められ、それ以外の人間性は全く無視されます。それでは、如何にして人間の尊厳を守るのかー?

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 最終章で、岩井氏は、何と哲学者のイマヌエル・カント(1722~1804年)の「道徳形而上学原論」を取り上げます。

 カントは同書の中でこう書きます。「すべての人間は心の迷いと欲望を抱えているものであり、(何と、既に、カントは、さっきのセガール氏と同じことを言っていたんですね!)これに関わるものはすべて市場価格を持っている。それに対して、ある者がある目的を叶えようとする時、相対的な価値である価格ではなく、内的な価値である”尊厳”を持つ。”尊厳”にすべての価格を超越した高い地位を認める。”尊厳”は価格と比べ見積もることは絶対できない」

 これはどういうことかと言いますと、岩井氏の説明を少し敷衍しますと、モノは価格を持っているので交換できる。しかし、人間の尊厳は交換できない。だから、この人間の尊厳は、他人が入り込む隙間がないほど自由であり、最後の砦みたいなものだというのです。

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 繰り返しになりますが、岩井氏は「人間は他人に評価されない自分自身の領域を持つことが重要で、それが人間の自由となる。自分で自分の目的を決定できる存在は、その中に他の人が入り込めない余地がある。そこが人間の尊厳の根源になる」と言うのです。

 つまり、今のようなGAFAが世界中を席捲しているネット社会で、フェイスブックの「いいね」や、何かを買うと「あなたのお薦め」が次々と表示されるアマゾン方式などによって、本来、目的を選ぶのに自由であるはずの人間が、こうしたAI(人工知能)によって操作され、結局は人間の尊厳が失われる可能性がある、と岩井氏は警告するのです。

 これは慧眼です。

番組では、ノーベル経済学賞を受賞したスティングリッツ氏の「アダム・スミスの”見えざる手”は、結局存在しなかったんだよ」という断定発言には驚かされました。また、古代ギリシャのアリストテレス「政治学」や、「社会契約論」のジョン・ロックらも登場させ、利潤追求の数字の世界だけでない哲学までもが引用されているので、非常に深みがあり勉強になる番組でした。

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 恐怖に駆られる人間の性(さが)のせいで、強欲な人間が増え、格差社会が拡大しています。しかし、皮肉屋のスティングリッツ氏は「資本主義がもっているのは、お金に興味がない人がいるおかげ」と発言していたので、これも非常に目から鱗が落ちる発言でした。

 確かに、人間は恐怖と欲望で出来ているのかもしれませんが、私自身は、数年前に病気になった時に、睡眠欲も食欲も性欲も全くなくなったことがありました。欲望がないので、お金に興味がないどころか、禁治産者のように、お金が目の前にあっても、勘定することさえできませんでした。それでいて、毎日、恐怖に苛まれていたので恐ろしい病気に罹ったものです。

「貨幣論」から、随分違った話になりましたが、これも人間の自由、つまり、AIに操作されることなく、書きたいことを書くという「人間の尊厳」なのかもしれませんね(笑)。

ケインズ「雇用・利子および貨幣の一般理論」をついに読破=漫画ですが…

WGT National Gallery Copyright par Duc de Matsuoqua

1929年の大恐慌や、ナチスの台頭につながる第1次大戦後のドイツの賠償問題などを勉強していると、どうしても外せないのが、ジョン・メイナード・ケインズの経済理論です。

 いつぞやの話、国際金融アナリストの元山氏に、ケインズの代表作「一般理論」は難しい?と聞いたところ、彼は「君には無理だね。アインシュタインの『一般相対性理論』と同じぐらい難しいんじゃないかい」と断定するので、さすがに、心の中で「ムッ」としましたが、彼の忠告には従っておりました。

 あれから半年。彼から「君にふさわしい本があったから貸してあげるよ」と貸してくれたのが、漫画でした。

 ケインズの原作を漫画化した「雇用・利子および貨幣の一般理論」(イースト・プレス)でした。

 私は、漫画は中学生の頃までは熱中しましたが、それ以降はご無沙汰です。「えっ?漫画かい?」と思いましたが、これがなかなかよく出来ていて、原作を読む前の「取っ掛かり」というか、予備知識になることは確かでした。

 私自身、経済を専門的に学んだわけではなく、大学の教養課程の単位として「経済原論」を取った程度の知識しかありませんが、この原作の漫画化の中には、「有効需要」だの「限界消費性向」「流動性選好理論」だの、昔学んだ懐かしい用語がたくさん出てきて、易しく解説してくれます。ばかにできませんね(苦笑)。大変失礼致しました。

例えば、「債券の利率が購入時より下がれば、実質価格は上がり(この時この債権を売れば得)、逆に、利率が上がれば、債券の価値が下がる」といったややこしい文章も、数式と漫画で描いてくれるので、すっと頭に入りやすい。

 また、私なんかよく間違える「ブル(牛)とベア(熊)」理論も、漫画に出てくるということは、ケインズの「一般理論」の中に出てくる話だったんですね。牛と熊を闘わせたら、熊の方が強いから、ベアが強気、ブルが弱気と私なんか勘違いしてしまうのですが、ブル(牛)は下から上に攻撃することから、債券価格が上昇するということで「強気」。ベア(熊)は、上から下に攻撃することから、債券価格が下落するということで「弱気」と命名されたことが漫画で描かれ、この箇所を読んで分かり、これからは間違えることはないだろうな、と思った次第です(笑)。

 確かに、最初から無謀にも原作に挑戦して、途中で白旗をあげるよりも、無理をしないで漫画から入ったことは大成功でした。漫画とはいっても、内容は難しいことは難しいですからね。この漫画を貸してくれた元山氏には感謝申し上げます。

1929年の大暴落と大恐慌からの教訓…

スペイン南部ミハス

長屋の八つあん ご隠居さま、お暇なところ、お邪魔します。

ご隠居さま おお、ハチ公か。お暇とはいい挨拶だな。ま、上がれ。今日は何の用だ。

ハチ公 ま、聞いてください。最近、アメリカの大恐慌とやらに興味を持ってるんですがねえ。でも、阿部老中が勧める讀賣新聞を読んでもさっぱり分からねえ。ご隠居さま、簡単に教えてくれやしまいかと思いましてね。

ご隠居 おお、お前も最近、経済に興味を持っているらしいことは噂では聞いておった。1929年のニューヨーク株式の暴落に始まる大恐慌のことかい?それにしても、大した魂消たね。お前さんがそこまで嵌っていたとは。

ハチ はあ、そうなんすよ。あんまし、意地悪言わねえで、サクッと教えてください。

隠居 サクッとか?儂はスマホじゃないがね。これでも、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで、ミック・ジャガーと肩を並べてMBAを取得しようとしたぐらいだから、儂の得意分野じゃ。あの尾畠春夫さんを見習って、スーパーボランティアで教えてあげよう。

ハチ お、大統領! そう、こなくちゃね。

スペイン南部ミハス

隠居 世界的な大恐慌の始まりは「暗黒の木曜日」、1929年10月24日のニューヨーク証券取引所での大暴落のことだと言われておったが、そうではないというフリードマンらの学説もある。ま、ややこしくなるので、このまま進める。とにかく、翌週の「暗黒の月曜日」「暗黒の火曜日」などを経て、1920年代の株投資ブームで上昇傾向にあったダウ工業平均株価は29年9月3日に最高値381.17ドルを記録し、それが暴落に続く暴落で、1932年7月8日には41.22ドルと実に89%も大幅に下落したわけじゃ。(損失価値総額約840億ドル。米国の第一次大戦時の戦費の約3倍に相当)10年前のリーマン・ショックのときは61%の下落じゃったから、どれだけ凄いか分かるじゃろ。1929年のピークの水準を回復したのは、戦後の1951年。それまで22年も掛かったことになるのぉ。回復のきっかけは、1941年の日本の真珠湾攻撃っちゅうから皮肉なもんじゃよ。はい、これで終わり。

ハチ えっ?もう、終わりっすか?

隠居 もうええやろう。とにかく、経済学ちゅうもんは、口が裂けても「いい加減」とまでは言えないが、数学のようにはっきりと解答があったり、スポーツのように勝ち負けがはっきりするもんじゃないんだよ。いまだに、大恐慌の原因について、論争があるし、実は決着が付いていない。ああ言えばこう言う。ああ言えば上祐(古い!)未来永劫分からんじゃろ。経済学とはそんなもんじゃよ。

ハチ 何だ、随分、テキトーな学問なんですね。

 ま、儂の口からは言えんけどな。両論併記と言ってもらいたい。それより、意外なエピソードの方が面白いんじゃ。例えば、株が大暴落したときの米大統領は共和党のフーバーだ。この人は、無為無策で、不況対策を取らなかったと誤解されて人気がない。片や、民主党のルーズベルト大統領、有名なニューディール政策を行い、とにかく、25%、つまり4人に1人が失業というどん底から救ったという救世主のような扱い方をされてる。しかし、実際はその逆で、例えば、ニューディール政策の中でも最も有名なテネシー川流域開発公社(TVA)によるダム建設、電力開発も、大した雇用創出にはならず、経済効果もなく、失敗だったという説を唱える学者もおる。

ハチ へー、そうなんすか。教科書に書いてあったこととは違いますな。

隠居 ハロルド・フーバーは8歳で両親を亡くした孤児で、叔父に引き取られて、熱心なクエーカー教徒になるんじゃ。スタンフォード大学を卒業して、鉱山技師となり、世界中の鉱山を渡り歩いて、開発して巨万の富を築くのじゃ。フーバーの偉いところがこの先だ。第1次世界大戦で欧州から帰国できなくなった10万人以上の米国人に金銭的に支援したり、食料や寝る場所を確保したりしたんじゃ。また、周囲の反対を押し切ってロシア革命後の飢餓で苦しむソ連の人々を援助したりもした。そんな「偉大な人道主義者」という名声から、時のハーディング、及びクーリッジ大統領から商務長官に選ばれるわけだな。そして、株の大暴落の直後、何もしていなかったわけではなく、失業対策として復興金融公社をつくったり、「フーバーモラトリアム」を制定するなど景気対策はやってたわけじゃ。フーバーは劇場に行かず、スポーツ観戦にも行かず、散歩にもドライブにも出ず、人の噂もせず、日曜も休日もなく只管働いた。クリスマスでさえ、メリークリスマスと一言言っただけで、すぐ仕事に取り掛かった。儂のような超真面目人間。ただ、輸入関税を平均33%から過去最高水準の40%に引き上げた悪名高いスムート・ホーリー法を成立させたことは汚点だった言われておる。

ハチ あら、今のトランプさんみたいな保護主義っすね(笑)。

隠居 歴史は繰り返す、とはよく言ったもんじゃ。アメリカは「移民国家」だというのに、移民制限だって、今のトランプさんに始まったわけじゃない。1921年のジョンソン法とそれを改訂した 24年の移民法では、完璧に、排斥の狙いは日本を含めた東洋人だった。黄禍論が盛んに論議されとったからな。

ハチ なあるほど。

スペイン南部ミハス

隠居 だから、歴史を学べば、未来も手に取るように分かり、心配することはないっちゅうことかな。一つ付け加えれば、アメリカの大恐慌のお蔭で、ケインズに代表されるようにマクロ経済研究が始まった。だから新しい学問なわけ。ルーズベルト大統領は、ケインズの「雇用、利子および貨幣の一般理論」(1936年)は理解できなかったらしいけんど、スタインベックの「怒りの葡萄」(1939年)ぐらいは読んだんじゃないかな。お前さんだって、LM曲線だのIS曲線だのを説明しても分からんだろ。せめて、シュンペンターの「景気循環の理論」ぐらいは理解できるかもしれんけど。まず、この時代を知りたければ、フレデリック・ルイス・アレンの「オンリーイエスタデイ」が一番。20年代の繁栄時代はフィッツジェラルドの「華麗なるギャツビー」、それに「武器よさらば」などヘミングウエイなんかも面白いんじゃないかな。

ハチ さすが、博学のご隠居さまだ。

隠居 いや、実は儂は、まだ全部は読んでないんだ…(笑)。

▼参考文献=林敏彦「大恐慌のアメリカ」(岩波新書)など。