「気分の落ち込みから守ってくれるのは歩数」=アンデシュ・ハンセン著「ストレス脳」を読んで

 徐々に健康も回復し、やっとビールも飲めるようになりました。さらには、恐々ながら高級アイスのハーゲンダッツも食べましたが、翌日、何ともありませんでした(笑)。

 これで、少しは生きる自信を取り戻しても良さそうなものですが、またまた、色々と御座いまして、すっきりしない毎日を送っています。

 それではいけないので、アンデシュ・ハンセン著、久山葉子訳「ストレス脳」(新潮新書、2022年7月20日初版、1100円)を読むことにしました。まさに、読むクスリです。ハンセンは、ちょうど1年ほど前に「スマホ脳」を読んで、大いに感心して、私がFacebookをやめるきかっけをつくってくれたスウェーデンの精神科医です。

 間違いないだろう、と、迷わず購入したのですが、体調の関係で読むのに少し時間が掛かってしまいました。でも、目から鱗が落ちると言いますか、逆説的ながら、脳の仕組みを明瞭に解明してくれて、生きる自信も回復しそうです。

 それほど難しいことは書かれていません。約20万年前に霊長類から進化した現生人類(ホモ・サピエンス)は、約1万2000年前に農業革命が起こして定住生活するまでに、狩猟採集生活を続けてきました。ですから、99%近く、現代人の脳には、狩猟採集生活時代の進化がそのまま残っているというわけです。それは、一言でいうと、脳は「生き延びる」ことを第一に進化していったということです。そのためには、ライオンや狼などの捕食者から一刻も早く逃げること、死に至る感染症に罹らないようにすること、餓死しないよう食物を確保すること、雨露を凌ぎ、暑さ寒さから身を守るーといったことを最優先に脳が進化していったというのです。

 「生き延びる」ことが最優先ということは、幸福感とは無関係で、残念ながら、脳は幸せになるように出来ていないというのです。これには驚きです。例えば、好きな人と結婚できても、直ぐに現実に直面して離婚したくなったり、豪華なプレゼントを貰っても、すぐその喜びは消え、もっと欲しい、と欲望にキリがないように脳がつくられているということか?

 著者によると、現代人の4人に1人がウツや強い精神的不安を経験しているといいます。とはいえ、人が不安になったり、気分が落ち込んでウツ状態になる、というのは、脳が正常に機能している証拠だと言える、とまでいうのです。不安信号は、これから何か危険が迫っているので警戒するように注意しているということ。ウツ状態になって外出を控えたくなるのも、感染症が蔓延していて、他人と接触を避けようとしていること、だと言うのです、ただし、これら危険信号は、狩猟採集生活時代の脳が過剰反応しているだけで、現代のような安心・安全世界ではあり得ず、まず当てはまりません(今の新型コロナやウクライナ戦争の話はおいといて)。つまり、免疫系の過剰反応や誇大妄想などが、精神疾患を引き起こしてしまう。脳はそういうメカニズムになっているというわけです。

 以上は私がこの本を読んで勝手に斟酌したものですが、著者の言葉をそのまま引用すると、以下のようなものがあります。

 ・脳は精神的に元気でいるように進化せず、常に最悪の事態に備え(不安)、場合によっては自分を守るために引きこもらせる(ウツ)ようにした。

 ・過去に体験したトラウマをわずかでも思い出せるものは何であれ、脳に記憶を取り出させてしまう。…あなたにも時々思い出すような辛い記憶があるかもしれない。それは脳が、同じようなことが起きないようにあなたを守ろうとしているのだ。時々再体験させることで、前回どのように対処したのかを思い出させる。思い出すことで精神が悪くなったとしても、脳にしては大したことではない。脳は生き延びるために進化したのであって、幸福を感じるためではないのだから。

 ・なぜ孤独はリスクなのか? 長く孤独でいると睡眠も途切れがちになる。…独りで寝ている人は危険が近づいても誰にも教えてもらえない。だから、深く眠り過ぎず、直ぐに目が覚めることが重要だったのだ。

 さてさて、現代人がウツにならないようにするにはどうしたらいいのか?ー著者はあっけなく、回答を出しています。「運動すれば良い」というのです。精神科医として多くの患者を診察した結果、運動をしていた人がウツになる例はあまり見られなかったというのです。「毎日じっと座っている代わりに15分間ジョギングするだけで、ウツになるリスクが26%減る。1時間、散歩しても同じだけリスクが下がる。つまり、ジョギングのように心拍数の上がる運動は散歩の約4倍も効率的だということだ。15分以上走ったり、1時間以上散歩したりすると、さらに防御効果が高まる。」(175ページ)

 著者のハンセン氏は「最終的に、あなたを気分の落ち込みから守ってくれるのは歩数なのだ」とまで言い切ります。狩猟採集時代、人間は1日平均、1万5000~1万8000歩は歩いていましたが、今の西洋諸国の現代人の平均は5000~6000歩と、昔の人のわずか3分の1しか歩いていないというのです。 

 世界はパンデミックとなり、私も映画館や博物館に行くことは減り、部屋に引き籠って、本ばかり読んでおりました。そして、いつの間にか、心身ともに不調になっておりました。

 これからは、一日平均8000歩は歩くことを目標にして、免疫系の「過剰反応」から我が身を守ることにしますか。                                      

人類の叡智で地球環境問題を解決できるか=「LIFE SPAN 老いなき世界」

東京・銀座の高級鰻店で

◇断スマホのすすめ

 ここ数年の「スマホ中毒」のお蔭で、視界がボヤけて、目の奥がズキズキ痛む眼痛がいつまで経っても治りません。「誰か止めてくれい」と叫びたくなるほど、まさに「中毒」です。通勤電車の中でも、7人掛けに座っている7人中5人はスマホとにらめっこしています。立っている人のほとんどもそうです。

 これは、何も日本だけの話ではなく、パリに行った時、メトロで、ロンドンでは、アンダーグラウンドで、そしてニューヨークのサブウエイでも皆、スマホと格闘しています。

 昨年から話題になっているアンデシュ・ハンセン著、久山葉子訳「スマホ脳」(新潮新書) によると、現代人は、10分に1回はスマホを手に取り、スクリーンタイムの1日平均は4時間。10代の若者ともなると、その2割は、スマホに1日7時間を費やしているといいます。1日2時間超のスクリーンタイムは鬱病のリスクや学習集中力の低下につながるともいわれています。

 スティーブ・ジョブズは自分の子どもにはiPadを触らせなかったらしく、「裏事情を知っている」世界のIT企業長者の多くは、子どもにスマホを与えないらしいですね。IT長者に知り合いがいないので、裏を取っていませんが(苦笑)。

 まあ、断酒じゃありませんが、たまには、1日、スマホを仕舞って、触れない日を作ってもいいのかもしれません。インターネットが出始めた頃は、メールチェックも1週間に1度程度でしたからね。あの時代は随分、牧歌的な時代でした。

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 ◇「LIFE SPAN 老いなき世界」

 今、先月末から読み始め、途中で「本能寺の変」関連の本を読んでいたため中断していたデビッド・A・シンクレア、マシュー・D・ラプラント著、梶山あゆみ訳「LIFE SPAN 老いなき世界」(東洋経済新報社)を再び、続けて読んでいます。

 このブログでは、1月28日にご紹介し、「実は、まだ半分ぐらいしか読んでいないのですが、できれば、この本を読むお仲間を増やして語り合いたいと思ったので、早々に御紹介しました。」と書きましたが、どなたか読み始めましたか? えっ? いない? 駄目ですねえ。

 世界的大ベストセラーになったらしく、なかなか良い本ですよ。分子生物学、遺伝学の難解な専門書なので、最初は専門用語に追いつくのが大変でした。しかも、著者の何処か自信満々のペダンチックな書き方が妙に鼻に付きましたが、後半では、わずかながら、挫折めいた感傷的になる記述も見られたため、浅はかな評価をやめました。もう1回ぐらいは再読するつもりですので、名著だと思います。

 前半では、「老化は病気の一種なので、NAD増強分子とメトホルミンや少量のラパマイシンを服用すると若返り、寿命が120歳、150歳になるのは夢ではない」といったバラ色の世界ばかり描かれています。

 これだけだと、単なる能天気な、現実を直視しない夢想家の発想にさえ見えますが、後半になると、著者の筆はちょっとネガティブになります。環境汚染や地球温暖化問題、人口増と食糧問題、そして貧富の格差拡大など統計を駆使して説明します。

 それは、著者が、実の息子から「パパの世代もその前も皆、地球が破壊されるのを黙って見ていたよね。その上、何?今度は人がもっと長生きできるようにしたい?世界をもっと傷つけられるように?」と批判されても、何も答えられなかったからでした。

 著者は、世界的なパンデミックの問題も警告していましたが、この本が出版された後、残念ながら、新型コロナウイルスが蔓延してしまいました。

 過去の歴史を振り返り、例えば、19世紀のロンドンで、3度にわたってコレラが大流行し、3万人もの人が亡くなった話に触れています。当時は、コレラは、沼などから立ち昇る悪い空気などから感染すると固く信じられていましたが、ジョン・スノウという医師が、そうではなく、公衆衛生の設備が整っていないからだということを突き止め、井戸ポンプの取っ手を取り外したり、上下水道を整備、改善することによって感染を収束させたといいます。その後、フランス人のパストゥールらのワクチン接種の研究などで、画期的な成果を挙げていきます。

 このように、著者は、先人たちが苦労したように、人類の叡智によって、地球環境問題にしろ、人口稠密問題にしろ、いつかは解決できると期待を込めているのです。

 やっぱり、難解な書物なので、1回読み終わったら、教科書のようにラインマーカーを引っ張って、再読するつもりです。