「ディス・イズ・ボサノヴァ」は必見ですぞ

もう、あまり物は買いたくなかったのですが、こればかりは買ってしまいました。

DVDです。

パウロ・チアゴ監督の映画「ディス・イズ・ボサノヴァ」です。

いつぞや、渋谷のシネマライズか何処かで見たのですが、一度見ただけでは人物相関図がつかめず、いつかDVDが発売されたら、買ってみようと思った作品だったのです。

これでも、私はボサノヴァの大ファンを自称しているのですが、結局のところ、アントニオ・カルロス(トム)・ジョビンとジョアン、アストラッド・ジルベルト、それにセルジオ・メンデスぐらいしかよく知らないし、聴いてこなかったんですね。

それは、私が小さい頃から聴いてきたラジオが、欧米偏重だったせいなのでしょう。ラジオでボサノヴァがかかるのは彼らぐらいしかありませんでした。逆に言えば、世界的なヒットを産んだ国際的なボサノヴァ・アーティストこそ彼らだったのでしょう。

ですから、この映画の主人公で案内役でもあるカルロス・リラとホベルト・メネスカルの二人については、正直、知らなかったのです。ボサノヴァの世界ではスーパースターだというのに、大ファンの自称は返上しなければなりませんね。

カルロス・リラもホベルト・メネスカルも現在70歳を過ぎていますが、いまだに現役として活躍しています。

映画の中では、この二人が、リオの街中を歩きながら、ボサノヴァの歴史を振り返ってくれます。まさに、生き証人です。ナラ・レオン、ジョイス、タンバ・トリオ、ワンダ・サー、ホナルド・ボスコリ、ジョニー・アルフ、トムの息子のパウロ・ジョビンらさまざまなアーティストが登場します。

私は、自称、ギタリストなので、演奏シーンにも惹かれます。ボサノヴァのギターのコードは普通と違って異様なんです。複雑なのです。メイジャー7とか♭5とか、add9とか多用します。画面で見たのですが、やはり、コード進行はコピーできませんでしたね。どなたか教えてください(笑)。

メネスカルの代表作に「小舟」という曲があります。この曲は、仲間と一緒に小舟で海に出た時、エンジントラブルで漂流してしまい、あやうく遭難しかけた出来事があり、その経験を元に作ったのですが、この曲には悲劇性も暗さもなく、青空のように澄み切って、ゆったりとくつろげる癒しの音楽になっています。

この曲について、メネスカルは「悲劇的なことを、明るく楽しい前向きな音楽に変えたのさ」と創作秘話を明かしていました。

何事も「明るく、楽しく、美しく」ですね。

この映画で、カルロス・リラの素晴らしさを知りました。声もいいし、作曲のセンスもいいし、ギターもうまい。ポルトガル語を勉強したくなりました。

「This is BOSSA NOVA」★★★★

 久しぶりに映画を見に行ってきました。ボサノヴァの映画です。そんな映画をやっていることを初めて新聞の記事で知って、居ても立ってもいられなくなって、渋谷の三業地帯にある単館にまで行ってきました。

故国ブラジルでは、2005年に公開された映画です。日本でも、ボサノヴァ・ファンが増えたとはいえ、わずか250席程度の小さな映画館での2年遅れの上映ですから、その程度かもしれません。

しかし、かなり熱心なファンも多かったですよ。私もそうですが、映画が終わって、プログラムとサントラ盤ではないのですが、この映画のコンピレーション・アルバムも買ってきました。今、それを聴きながら、ご機嫌なムードで書いています。

映画では、ホベルト・メネスカルとカルロス・リラの二人のボサノヴァ界の巨匠が、ナヴィゲーターになって、ボサノヴァ音楽のルーツやエピソードを語る、いわばドキュメンタリー・タッチで進行していきました。そう、キューバの映画「ブエノ・ヴィスタ・ソーシャル・クラブ」に近いのです。あれぐらい、ヒットしたらいいなあと思いましたが、ちょっと、残念ながら、あれほどのインパクトに欠けていました。

メネスカルとリラのことを知っていたら、あなたは相当のボサノヴァ通です。私はこの映画で初めて知りました。私が知っているのは、アントニオ・カルロス・ジョビン、ジョアンとアストラッド・ジルベルト、ニュウトン・メンドサ、ヴィニシウス・モライス、カルターノ・ヴェローゾ、ガル・コスタぐらいが顔と名前が一致するくらいで、それ程詳しくないのです。

何しろ、この映画で初めて、アントニオ・カルロス・ジョビンの動く姿を見たくらいですから。非常に知的で、エネルギッシュで、カリスマ性に溢れていました。ジョビンは、ビートルズに次いで、彼の曲は世界でカバー曲が多いそうですから。彼の曲で一番はやはり「イパネマの娘」になると思います。ジョビンは、もともとクラシック音楽出身で、ドビュッシーやラベルらの印象派の音楽に最も影響を受けたというエピソードには、成程と思ってしまいました。

この映画、見てよかったですよ。

ボサノヴァという音楽ジャンルは、偶然ともいえる自然発生的に生まれたものだから、ムーヴメントではなかった。だから、定義は諸説あって、これが正しいというものはない。1958年のジョアン・ジルベルトのデビュー曲「シャガ・ヂ・サウダーヂ~想いあふれて」(モラレス作詞、ジョビン作曲)がボサノヴァ曲の第1号だというのが通説。故国ブラジルでは1964年に軍事政権が樹立し、多くのアーティストが欧米に移住したり、ボサノヴァを捨てて、サンバに転向したため、自然消滅したという説もあり、本来、ボサノヴァは、中産階級出身の中産階級のための音楽で、それ程多くの人の支持を得たわけではなかったという説もあり、ジョアン・ジルベルトが囁くように歌うのは、最初は、大声でアパートで歌っていたら、隣近所から「騒音妨害」を注意され、仕方なく、小声で歌っているうちに、それがスタイルになったという説があり、この映画では色々と収穫がありました。

ただ、登場人物の人間関係が複雑で、一回見ただけでは、なかなか、よく分からなかったというのが、正直な感想です。ですから、もう1回見ようかなあと思っています。

何と言っても、メネスカルとリラのギターが惚れ惚れするほどうまかった。コピーしたいくらいでした。いや、この映画のDVDが発売されたら購入して、ギターのコピーに励もうかと思っています。

カエターノ・ヴェローゾ

公開日時: 2005年3月28日

◎日曜日はサウダージな世界に浸ろう
=カエターノ・ヴェローゾを知らなかった私=

北海道帯広市にある地元紙「十勝毎日新聞」の栗田記者から「日曜日の昼下がりに聴くのでしたら、ピッタリですよ」と言って薦められたのがカエターノ・ヴェローゾの「ドミンゴ」というCDでした。どこか1960年代のフラワームーブメントの世代を思わせるカバージャケット。それもそのはず、このCDは1967年に発表されていたのでした。
栗田記者はまだ20代後半だというのに、やたらとジャズやワールドミュージックに詳しい。何しろ私と音楽談義をしても一歩も引けをとらないからだ(笑)。
「渓流斎先生、カエターノ・ヴェローゾも知らないなんてもぐりですよ」。ありゃあ、一本取られた。ということで、インターネット通して密かに買い求めてしまいました。
調べてみると、カエターノはMPB(ブラジル・ポピュラー音楽)の第一人者で、トロピカリズモの創始者。まあ、簡単に言えば、同郷のバイア州出身のジョアン・ジルベルトに憧れて音楽を始め、ボサノヴァにロックを取り入れた革命児らしい。今年、63歳になるからあのポール・マッカートニーと同い年。音楽活動暦も40年にも及ぶ。
正直、知らなかったですね、彼のこと。日本のマスコミも欧米偏重だったからブラジル音楽といえば、「セルジオ・メンデスとブラジル66」ぐらいだったのです。
このCD。私もやはり文句なしにお奨めです。ジャケットの中央のカエターノの右隣が当時22歳のガル・コスタ。彼女のヴォーカルがまたいい。カエターノのメランコリックでサウダージ(哀愁)な世界によく似合う。カエターノの抑制の効いた囁くような声もしびれる。驚くことに、この時、まだ25歳の若さだ。
このCDの1曲目の「コラサォン・ヴァガブンド」がカエターノの芸歴で最も重要な曲の1つらしいが、私のように最初は何の偏見も持たず、聞き流したらどうでしょうか。好きな1曲が必ず見つかるはずです。それにしても栗田記者は何で「日曜の昼下がり」なんて言ったのだろう。そうかあ、タイトル曲の「ドミンゴ」が「日曜日」という意味だったのですね。