久しぶりに映画を見に行ってきました。ボサノヴァの映画です。そんな映画をやっていることを初めて新聞の記事で知って、居ても立ってもいられなくなって、渋谷の三業地帯にある単館にまで行ってきました。
故国ブラジルでは、2005年に公開された映画です。日本でも、ボサノヴァ・ファンが増えたとはいえ、わずか250席程度の小さな映画館での2年遅れの上映ですから、その程度かもしれません。
しかし、かなり熱心なファンも多かったですよ。私もそうですが、映画が終わって、プログラムとサントラ盤ではないのですが、この映画のコンピレーション・アルバムも買ってきました。今、それを聴きながら、ご機嫌なムードで書いています。
映画では、ホベルト・メネスカルとカルロス・リラの二人のボサノヴァ界の巨匠が、ナヴィゲーターになって、ボサノヴァ音楽のルーツやエピソードを語る、いわばドキュメンタリー・タッチで進行していきました。そう、キューバの映画「ブエノ・ヴィスタ・ソーシャル・クラブ」に近いのです。あれぐらい、ヒットしたらいいなあと思いましたが、ちょっと、残念ながら、あれほどのインパクトに欠けていました。
メネスカルとリラのことを知っていたら、あなたは相当のボサノヴァ通です。私はこの映画で初めて知りました。私が知っているのは、アントニオ・カルロス・ジョビン、ジョアンとアストラッド・ジルベルト、ニュウトン・メンドサ、ヴィニシウス・モライス、カルターノ・ヴェローゾ、ガル・コスタぐらいが顔と名前が一致するくらいで、それ程詳しくないのです。
何しろ、この映画で初めて、アントニオ・カルロス・ジョビンの動く姿を見たくらいですから。非常に知的で、エネルギッシュで、カリスマ性に溢れていました。ジョビンは、ビートルズに次いで、彼の曲は世界でカバー曲が多いそうですから。彼の曲で一番はやはり「イパネマの娘」になると思います。ジョビンは、もともとクラシック音楽出身で、ドビュッシーやラベルらの印象派の音楽に最も影響を受けたというエピソードには、成程と思ってしまいました。
この映画、見てよかったですよ。
ボサノヴァという音楽ジャンルは、偶然ともいえる自然発生的に生まれたものだから、ムーヴメントではなかった。だから、定義は諸説あって、これが正しいというものはない。1958年のジョアン・ジルベルトのデビュー曲「シャガ・ヂ・サウダーヂ~想いあふれて」(モラレス作詞、ジョビン作曲)がボサノヴァ曲の第1号だというのが通説。故国ブラジルでは1964年に軍事政権が樹立し、多くのアーティストが欧米に移住したり、ボサノヴァを捨てて、サンバに転向したため、自然消滅したという説もあり、本来、ボサノヴァは、中産階級出身の中産階級のための音楽で、それ程多くの人の支持を得たわけではなかったという説もあり、ジョアン・ジルベルトが囁くように歌うのは、最初は、大声でアパートで歌っていたら、隣近所から「騒音妨害」を注意され、仕方なく、小声で歌っているうちに、それがスタイルになったという説があり、この映画では色々と収穫がありました。
ただ、登場人物の人間関係が複雑で、一回見ただけでは、なかなか、よく分からなかったというのが、正直な感想です。ですから、もう1回見ようかなあと思っています。
何と言っても、メネスカルとリラのギターが惚れ惚れするほどうまかった。コピーしたいくらいでした。いや、この映画のDVDが発売されたら購入して、ギターのコピーに励もうかと思っています。