「状態の共存」と「量子のもつれ」を利用した量子コンピューター=Newton別冊「知識ゼロから理解できる 量子論の世界」

  ついに、と言いますか、やっとNewton別冊「知識ゼロから理解できる 量子論の世界」(ニュートンプレス)を読了しました。熟読玩味といった感じで味わいました(笑)。

 以前にもこのブログに書きましたが、私にとって、量子論というものは全く「未知の世界」でした。学生時代にほとんど習ったことがなく、現代の理論物理学では、この量子論が相対性理論と並ぶ最も重要な学問分野にまで「発展」していることも全く知りませんでした。

 量子論の発達のお蔭で、メンデレーエフが発見した化学の周期表の原理と意味が見事に解明されて「量子化学」(パウリの排他律など)となり、生命科学を証明する「量子生物学」(渡り鳥の地磁気探知や光合成)に発展し、量子論の主要セオリーである「量子力学」が量子コンピューターを生み出したと言えます。この量子コンピューターについては、この記事の最後にまた書きます。

 前回ブログに書いたことですが、量子とは、粒子と波の性質を併せ持ったミクロな物質のことで、物質をつくっている原子や、その原子を形作っている電子と原子核(陽子と中性子で構成)が代表的なものです。光を粒子として見たときの光子やニュートリノやクォーク、ヒッグス粒子などの素粒子も量子に含まれます。

 原子の大きさは1000万分の1ミリ、原子核の大きさは1億分の1ミリだと言われ、手に取って見られるわけではないことから、量子論とは理論的に導き出された超ミクロの世界の法則と言えます。

 そのため、マクロの世界に生きている我々には想像も出来ないことが起きます。それは、前回のブログでも書きましたが、量子論を理解するカギとなる「波と粒子の二面性」と並ぶもう一つの重要項目である「状態の共存」です。状態の共存に関して、私は専門家ではないので、うまく解釈できなかったのですが、「一つの物体が同じ時刻に複数の場所に存在できる」という理論です。仮想的な箱の中に、ミクロの電子が観測後に左側にあることが結果的に分かったとしても、「もともと電子が左側にあった」わけではなく、「左右両方に共存する状態」が観測によって「左側に存在する状態」に変化したと捉えるのです。この理論から「シュレーディンガーのネコ」という思考実験が派生し、「量子のもつれ」という現象も実証されるようになりました。

 この「量子のもつれ」は、アインシュタインが晩年に量子論の不完全さを指摘し、不気味な遠隔作用とみなしていた不可思議な連動現象が1980年代に実験で証明されたことから脚光を浴びるようになりました。それは、瞬時に影響が遠方に伝わっているのではなく、二つの電子の状態がセットで決まっており、つまり、量子がもつれて個別に決められていないことが分かったというのです。ま、この文章で即理解することは難しいのですが、私はそのまま受け入れることに致しました。

 さらに、この「量子のもつれ」の解明によって、量子コンピューターや量子情報理論の発展につながります。光を用いた量子のもつれ実験で量子力学の実験を行い、「量子情報科学」という分野を切り開いた仏、米、墺の3人の研究者に2022年度のノーベル物理学賞が授与されましたから、まさに「最先端の科学」として認知されたわけです。

 この本の後半では「量子コンピューター」についてページが大半費やされています。2019年、米グーグル社の量子コンピューターが、既存のスパコンが解くのに1万年かかった問題を200秒で解き、「量子コンピューターがスパコンを超えた」と大きな話題になりました。でも、よく読んでいくと、この問題というのは「ランダム量子回路サンプリング」と呼ばれるもので、我々の生活に有用で実用的な問題ではなく、スパコンもその後、この問題の研究が進んで5分で解くことが可能になったといいます。つまるところ、量子コンピューターはまだ一般的に実用段階ではないものの、今後10年で既存コンピューターが実行できないタスクを実行できるようになる、と専門家は予想しています。

 そもそも、既存のコンピューターと量子コンピューターとでは基本のOSが全く違います。既存コンピューターは「0」と「1」の世界ですが、量子コンピューターのデータの最小単位は「量子ビット」と呼ばれ、量子の持つ「状態の共存」の性質と「量子のもつれ」から「0でも1でもある」不思議な状態だというのです。これにより、量子コンピューターは既存コンピューターより桁違いの情報量を処理することが出来るというのです。スパコンでも10億年以上かかると見積もられている617桁の素因数分解も、量子コンピューターなら、まだ時間がかかりますが、10年以内には瞬く間にやってのけると予想されています。この617桁の素因数は目下、「暗号方式」に採用されていますから、量子コンピューター時代になると、困ったことにまたイタチごっごが始まるということなのでしょうね。

 いやはや、量子論のお蔭で、またまた大変な時代がやって来ることをこの本で知りました。

今からでも遅くないから地球環境保全を=小林武彦著「生物はなぜ死ぬのか」

  今、ベストセラーになっている小林武彦(1963年~)東大定量生命科学研究所教授の「生物はなぜ死ぬのか」(講談社現代新書、2021年4月20日初版)を読了しましたが、話題になっているだけあって読み応えがありました。そして、本の帯広告に「死生観が一変する」とあるように、確かに、一読して、私の死生観も変わりました。

 でも、正直に言って、私自身は、内容の半分も理解できなかったと思います。またまた帯広告ですが、「現代人のための生物学入門!」と銘打っていますが、入門書にしてはかなり難解です。

 例えば、194ページに、いきなり

 体内ではNAD+(エヌエーディープラス)に変化する前の NAD+ 前駆体(NMN=エヌエムエヌ)をマウスに投与すると、寿命延長効果が見られるばかりか、体力や腎臓機能の亢進、育毛などの若返り効果が見られます。

 と書かれていますが、この文章を理解できるのは、専門家はともかく、生物分子工学等を専攻している理系の学生さんか、日頃、研鑽を積んでいる人ぐらいでしょうね。

 私の場合は、今年1月に、デビッド・A・シンクレア著「ライフスパン 老いなき世界」(東洋経済新報社)を読んでいたので、ここだけは、かろうじて理解できました。この単行本には巻末に図解入りで語彙解説が掲載されているので、NADは、「ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド」、NMNは、エヌエムエヌではなく、「ニコチンアミド・モノ・ヌクレオチド(核酸)」と無理して覚えていたので、抵抗なく受け入れることが出来ました。

 でも、本書は新書なので、情報収納量が限られているので、一つ一つ、専門用語を説明できないので仕方ないかもしれません。

 さて、本書は、生物の死を扱っていますが、「死」の前に「生」を知らなければなりません。最新科学が教えるところによると、まず、138億年前にビッグバンにより宇宙が誕生し、46億年前に地球を含む太陽系が生まれます。太陽との距離など絶妙な「度重なる偶然」と奇跡により、地球では38億年前に生物が誕生します。勿論、アミーバのような単細胞です。

 多細胞生物が誕生したのは、10億年前です。この後からが、著者の小林教授の説と私の勝手な解釈を取り入れたものですが、またまた「度重なる偶然」で、生物は、生まれ変わり(「ターンオーバー」という言葉を教授は使ってます)を繰り返し、遺伝子の変化で生物の多様性が生まれ、進化することで生物をつくっていったというのです。(生物が進化したのではなく、逆に、進化することで生き延びる生物が生まれていった、ということです)その進化する際には、生物は絶滅(死)という形態を選択するために、いわば、死は、生物が生態系や環境変化に適応して生き残っていけるように、進化のプログラムとして繰り込まれているということなのでしょう。(つまり、生物は死なないと進化しない。進化しないと生き延びることができない)

 当たり前の話ながら、生物にとって死は必然であり、ヒトも例外ではないということです。そもそも、自然界で、動物のほとんどは捕食(食べられてしまう)されるか、餓死するかで、天寿を全うできる生物はヒトか、大型の象さんぐらいです。魚のサケは産卵すると死んでしまいますし、昆虫のほとんども生殖活動の後は直ぐに死んで世代交代してしまいます。(地球上に名前が付いている生物種は180万種存在し、その半分以上の97万種が昆虫!)

「銀座スイス」元祖カツカレー1430円 名物ですが、ちょっと高価だなあ、と思いながら食しました

 38億年前に地球上に生物が誕生して以来、過去5回、大量の絶滅の危機があったといいます。その一番の「最近」が6650万年前のことです。中世代白亜紀で、恐らく、ユカタン半島への隕石の衝突により、気候が激変して恐竜など生物種の70%が絶滅したというのです。

 しかし、逆に、そのお蔭で、つまり、恐竜が絶滅したお蔭で、哺乳類が生き延びて霊長類が生まれ、今のような「ヒトの時代」が誕生したことになります。

 とはいえ、46億年の地球の歴史、38億年の生物の歴史から見れば、「ヒトの時代」などほんの瞬きするほど「一瞬の時間」です。恐竜の時代は1億6000万年間も繁栄しましたが、現生人類はせいぜい20万年前に誕生し、農耕生活を始めたのはわずか、たった1万年ですからねえ。

◇100万種が絶滅の危機

 この本には、恐ろしいことが書かれています。生態系を評価する国際機関IPBES(Intergovernmental science-policy Platform on Biodiversity and Ecosystem Services)によると、地球に存在する推定800万種の動植物のうち、少なくとも100万種は数十年以内に絶滅の可能性があるというのです。小林教授は「そのペースは、これまでの地球史上最高レベルです」とまで書いています。

 それ以上は書かれていませんが、ここまで書かれると、私なんか、別に皆さんに恐怖を煽るつもりは全くありませんが、人類滅亡の危機すら感じてしまいます。

 恐竜絶滅と同じですが、恐竜の場合は、不可抗力というか、自然災害によるものですが、人類の場合は、自らの手で地球環境を破壊し尽して、生態系を壊した故意の結果ですから自業自得です。

 今からでも遅くはありませんから、国連の提唱するSDGsを含め、環境保全運動を広め、生態系を元に戻して、少しでも絶滅種を少なくしていくしか人類が生き延びていく道はないことでしょう。宗教や覇権主義などで、国際間で人類がいがみ合っている暇などないはずです。

 この本に巡り合ってよかったです。色々と考えさせられました。

【追記】

《日本人の平均寿命》

・旧石器〜縄文時代(2500年前以前)13〜15歳(人口10万〜30万人)

・弥生時代 20歳(人口60万人)

・平安時代 31歳(人口700万人)

・室町時代 16歳(天災と戦乱等による)

・江戸時代 38歳

・明治・大正 女性44歳、男性43歳

・戦時中 31歳

・2019年 女性87.45歳、男性81.41歳

ヒトの最大寿命は115歳か

【再追記】

 またまたcoincidence(偶然の一致)です。朝日新聞10月3日付日曜版「Globe」で、英ケンブリッジ大学のパーサ・ダスグプタ名誉教授(78)が、国内総生産(GDP)の成長至上経済主義を重視するのではなく、持続可能な自然資本を重視するべきだと主張しています。

 人類は、温室効果ガスの排出や熱帯雨林の伐採など自然資本である環境を破壊して経済発展をしてきたお蔭で、生物圏を劣化させ、生物多様性を減少させてきました。川の上流の森林を伐採したお蔭で、下流での洪水や土砂崩れを増やし、土壌劣化で農家の収穫物の減少につながりました。

 また、環境劣化によって、より頻繁に新型コロナのような病原体が人間の経済活動の中に出現するようになった、とダスグプタ氏は分析しています。私は、自然科学者だけでなく、経済学者までも問題意識を共有していることを知り、安堵しました。地球人78億人が手を合わせて、地球環境保全に全力を尽くすしかありません。