人間国宝の柳家小三治さんが亡くなってしまいましたね。行年81歳。先日、新聞で、今月下旬に開催される「小三治一門の会」の広告を見たばかりでしたし、今月2日も東京都府中市で高座に上がっていたので、「まだまだ大丈夫」と思っていたので、少し驚いてしまいました。
「最もチケットが手に入らない」落語家と言われていましたから、入手困難だったでしょうが、残念です。テレビにチャラチャラ出てくるようなタレントとは一線を画した「現代落語界界の最高峰」の最後の雄姿を見ておきたかったでした。
もう30年も昔ですが、小三治師匠とは一度、取材でお会いしたことがあります。当時、芥川賞を受賞したばかりで、落語好きで知られる荻野アンナさんとの対談企画で登場してもらったのですが、高座と全く同じで飄々とした雰囲気で飾らない人柄でした。でも、ほんの一瞬の隙に見せる人を射すくめるような表情が怖かったことを覚えています。
考えてみれば、記者になったお蔭で、昭和平成を代表する三人の天才、古今亭志ん朝にも立川談志にも私はお会いしているんですよね。我ながら幸運でした。
ところで、「『知の巨人』立花隆のすべて」(文春ムック)を読んでいたら、哲学者の梅原猛氏(1925~2019年)がこんなことを書いていました。
私は若き日、ニーチェの本を読んで、その論争の仕方に深い共鳴を覚えた。…私はこういうニーチェの論争の教訓に従って、小林秀雄を、丸山真男を、三島由紀夫をこてんぱんに叩いた。私から見れば、彼らは何ら普遍的価値を持たず、いたずらに時流に乗って驕り高ぶっている人間のように思われたからである。この論争の相手はいずれも私に対して直接答えなかったが、後から色々な所で陰湿な嫌がらせを受けていたことを最近ある編集者から聞いた。
いやあ、梅原さんって随分、反骨精神旺盛で、気骨がある人だったんですね。小林秀雄も丸山真男も三島由紀夫も、斯界では神さまのように崇め奉られている信奉者の多いオーソリティーではありませんか。それをドン・キホーテのように立ち向かい、「裸の王様」に声を掛ける少年のように振舞う梅原氏には、私も「非・権威主義者」なので拍手喝采したくなりました。同時に愉快になりました。
相手が総理大臣だろうが、教祖だろうが、財界の大物だろうが、芸能界の大御所だろうが、そして立花隆であっても、「ナンボのもんじゃい」と思ってかかからないと取材なんかできませんからね。ただし、例外はジョン・レノンです。会えたとしたら卒倒してしまいます(笑)。