「韓非子」は諸子百家の集大成

 徳間書店について、私はよく知りませんが、殿方のリビドーを刺激し、任侠道の機関誌のような週刊「アサヒ芸能」を発行しているかと思えば、岩波書店も出さないような堅い、堅い中国の古典シリーズなどの教養書まで幅広く発行しています。

 噂でしか知りませんが、徳間書店の創業社長の「懐刀(ふところがたな)」と言われた方は、永田町から霞ヶ関、大手町、丸の内、桜田門と政官財界、警察公安関係の大物を接遇・折伏して権勢を振るい、隠れた「メディア王」として斯界で知らない人はいないと言われています。怖いですねえ、怖いですねえ~(淀川長治風に)

 私は真面目な人間ですから、その徳間書店が「中国の思想シリーズ」を発行する版元とは知らずに購入しておりました。長らく本棚の片隅で眠っておりましたが、先日、中江丑吉著「中国古代政治思想」(岩波書店)が難解過ぎて挫折したため、それでは、もう一度、いちから中国思想を勉強しようと思ったのです。

 また、「勉強」です! 京洛先生から怒られそうですね(笑)。

 末岡先生から、博愛主義を唱えた「墨子」を読むように説諭されましたが、どういうわけか、見当たらず、手始めに、中国の思想シリーズ第1巻の「韓非子」を読んでみました。

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 面白い。実に面白い。何も知らずに読み始めたのですが、韓非子は、中国古代の乱世の春秋・戦国時代に現れた「諸子百家」の最後に輩出した思想家で、乱世を統一した秦の始皇帝のブレーンとして迎えられた人でした(残念なことに、自分の地位を脅かされると危惧したライバル李斯の讒言によって、韓非子は自害させられました)

 読者の皆様は頭脳明晰ですから、ご説明するまでもありませんが、「諸子百家」の「子」というのは先生の尊称で、「家」は学派という意味です。

 ですから、孔子とは、孔先生ということで、本名は孔丘(こうきゅう)です。それでは、諸子百家の主要人物を取り上げてみることにしましょう。

 【儒家】孔丘、孟軻、荀況

 【墨家】墨翟

 【名家】公孫竜、恵施

 【道家】老聃(李耳)、荘周

 【法家】商鞅、管仲、申不害、韓非

 【陰陽家】鄒衍

 孟子は本名孟軻(もうか)、荀子は荀況(じゅんきょう)さんだったですね。

 で、話は法家の韓非(?~紀元前233年)でした。普通に先生の「子」を付けるなら韓子でしょうが、そうではなくて韓非子ですから、稀なケースです。最後の諸子百家の集大成として尊重されているのでしょうか。

 韓非は、荀子の弟子でしたが、恐らく、孔子も墨子も老子も荘子あらゆる諸子百家を勉強したことでしょう。

 「韓非子」の中で、日本人なら誰でも知っている格言に「逆鱗に触れる」があります。「説難(ぜいなん)」の篇にあります。説難とは進言の難しさのことです。逆に言えば、「逆鱗」の出典は「韓非子」だったわけです。

 この本で一番面白かったことは、46~47ページの解説です。先ほど、韓非は荀子の弟子だったと書きました。荀子は「性悪説」で有名です。荀子は、人間の性質は本来悪であるからこそ、教育して矯正するべきだと考えます。つまり、人間性は努力次第で善に変わることができる、そうするべきだという思想です。

 しかし、韓非は違います。人間を善に導くことなどは念頭にありません。大切なことは、人間が現実、欲望によって行動することを知り、その対策を講じることです。その対策とは法術のことで、韓非の目的は、君主による人民の統治で、人民の教化ではなかったといいます。

 なるほど、同じ「性悪説」でもこれほど違うとは思いも寄りませんでした が、韓非子の場合は、「法の支配」rule of law の先駆的思想ではないでしょうか。

 京洛先生、やはり、「人生ちゃらんぽらんに過ごす」よりも、勉強した方が毎日、楽しいですよ(笑)。

 

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