藤井誠二著「沖縄アンダーグラウンド 売春街を生きた者たち」は凄まじい世界です

WST National Gallery Copyright par Duc de Matsuoqua

先日、沖縄にお住まいの上里さんから、沖縄の基地問題などに関する沢山の資料と書籍が送られて来ました。書籍は、琉球新報の社長などを務めた池宮城秀意(いけみやぐしく・しゅうい)の評伝「紙ハグと呼ばれた男」(彩流社)でしたが、その前に、昨年、図書館に予約していた本がやっと届いたので、こちらを先に読まなくなってしまいました。

1年も前に予約していた本で忘れていましたが、それが偶然にも沖縄に関する本でした。ノンフィクションライターの藤井誠二氏が書いた「沖縄アンダーグラウンド 売春街を生きた者たち」(講談社、2018年9月4日初版)という本です。

 「なあんだ、図書館で借りやがって!」と、著者の藤井氏から怒られそうですが、許してください。減少していく年金の中でこれからも自立して生き抜くために、見栄を棄てることにしました。(あれっ?どこかで聞いたことがある台詞ですね)

 内容は、タイトルそのままに表れています。主に、沖縄県宜野湾市にかつてあった「真栄原(まえはら)新町」と呼ばれた性風俗街を舞台に、そこに生きた女性や、主(ぬし)と呼ばれたオーナー、それに絡むヤクザ(旭流会など)や警察など魑魅魍魎とした世界を綿密に取材したルポルタージュです。

 著者の粘着質的な(といっては失礼かもしれないが)手法で、一筋縄ではいかない取材相手の懐に飛び込む度胸と、沖縄の歴史を米軍占領時代にまで遡った調査報道とその筆力には本当に頭が下がる思いで読みましたが、あまりにも悲惨で、あまりにも人間的な所業の数々には、途中で目をそむけたくなる、と言いますか、正直、読み続けるのが嫌になってしまいました。

 藤井氏が沖縄の裏の顔(アンダーグラウンド)を知ったのは、偶然でした。1990年、著者がまだ20代後半だった頃、駆け出しの「社会派ライター」として、ひめゆりの塔や集団自決のあった読谷村(よみたんそん)のチビリガマなどを回り、夜は那覇市内の居酒屋で泡盛をしこたま呑んでホテルに帰る際に、タクシードライバーと話をした時に、ドライバーから「それじゃあ、沖縄の別の顔を見せてあげましょうか」という提案に乗ったからでした。

 連れて行かれたのは、魔界のような「特飲街」と呼ばれた真栄原新町の売春街でした。このタクシードライバーとはその数カ月後に偶然再会し、著者の貴重なアシスタント兼案内人として、個人的に飲みに行ったり、情報を提供してもらったりする仲になり、本書では「タクシードライバー大城」(仮名)として度々登場します。

 社会派ライターとして、著者はこの売春街に興味を持ちますが、誰もなかなか取材に応じくれません。それが、解き放されたように、取材できるようになったのは、皮肉にも、市民団体や警察などの「浄化運動」のせいで、廃業者が続出するようになり、真栄原新町がゴーストタウン化したからでした。2010年暮れの頃で、これをきっかけに、関係者たちが、「当時の様子を真面目に記録として残してくれるのなら」という思いで取材に応じてくれるようになったからでした。

WST National Gallery Copyright par Duc de Matsuoqua

 本書は、その「記録」ですから、まあ、凄まじいですね。売春婦の方は、北海道や大阪など本土から来る者が多く、例えばホストクラブに入れ込んで借金をつくって送り込まれたり、夫のDVから逃れて子連れで来たりさまざまですが、闇金から借りさせられたカネはトイチ(10日で1割)という違法な利息がついて、借金が雪だるま式に増えて抜け出せない実態を暴いています。

 大阪から連れて来られた女性は、働く条件として、(1)紹介料と利息を含めて300万円の借り入れ(2)1年1カ月の勤務(3)返済は1日3万円の100回払いーを提案されたそうで、著者も書いてますが、これはもう「人身売買」ですね。

 相手は1人15分で5000円。1日15本(1人15分を1本と数える)、7万5000円のノルマが課され、そのうち4割が主(ぬし)への支払いだったことも具体的に聞き出しています。

 ◇おぞましい米兵によるレイプ事件

 第6章では「『レイプの軍隊』と沖縄売春史」というタイトルでページを割き、占領米軍兵士による多くのレイプ事件を取り上げています。主に、高里鈴代元那覇市議会議員らが作成した「沖縄・米兵による女性への性犯罪(1945年4月~2008年10月)」(沖縄の女性グループ「基地・軍隊を許さない行動する女たちの会」発行)からの引用ですが、母親の目の前で娘が連れ去られて行方不明になったり、父親の目の前で娘が強姦されたり、母娘が同時にレイプされたり、病院に重傷で入院している女性が襲われたりする、まさに著者の言うように「鬼畜」としか言いようがないおぞましい事例、いや事件が記録されています。

 本書のように、地を這うようにして生きる社会の底辺の人々を取り上げたルポよりも、ヒトは、ファンタジーやあり得ない恋愛物語や成功物語に飛びつきがちです。

 目をそむけたくなるようなおぞましい話が多いですが、これが人間の性(さが)であり、業(ごう)というものです。著名な学者さんが書かれた立派な経済学書も、文豪が書いた小説も、この本を前にしては霞んでしまいます。なるべく多くの人に読んでもらいたいと思い、取り上げました。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください