斎藤充功著「フルベッキ写真の正体 孝明天皇すり替え説の真相」は驚きの連続

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この本「フルベッキ写真の正体 孝明天皇すり替え説の真相」(二見文庫)を読んで、まずは、びっつらこいてしまいました。まさに、この表現がピッタリです。

 この本は、「日本のスパイ王: 陸軍中野学校の創設者・秋草俊少将の真実」(学研)を書かれたノンフィクション作家の斎藤充功氏がわざわざ私に献本してくださったのです。昨年、この渓流斎ブログで、この秋草俊の本を取り上げたところ、ネットで目敏く見つけた斎藤氏御本人から小生に御連絡があり、意気投合し、昨冬、陸軍中野学校にも詳しいインテリジェンス研究所の山本武利理事長とも御一緒に銀座の安酒場で鼎談したことがありました。

 その後、少し御無沙汰してしまったのですが、今日は斎藤氏からわざわざ電話までありました。

 で、何で驚いたかといいますと、3日前にこの本を読む直前に、仙台にお住まいの一力先生から電話があり、伊藤博文を1909年にハルビンで暗殺して処刑された韓国の独立運動家安重根と、その看守だった千葉十七をしのぶ合同法要が9月22日に、千葉十七の菩提寺である宮城県栗原市の大林寺で行われた、といった河北新報に出ていた記事をきっかけに、今の最悪の日韓関係の話をしたばかりだったからです。

 「フルベッキ写真の正体」の第1章の「六発の銃声」ではいきなり、この日本ではテロリストと呼ばれている安重根による暗殺場面が出てきたのです。この中で、著者の斎藤氏自身は、旧満洲のハルビンにまで足を運び、現場を取材し、実際の下手人は、実は安重根ではなかったのではないか、と判断するのです。なぜなら、安重根は、ハルビン駅頭で、群集と儀仗兵の間に紛れて、伊藤博文の間近の低い所から拳銃を撃ったとされています。となると、弾丸は下から上に流れなければなりません。それなのに、伊藤博文の致命傷になった弾丸は、右肩から胸にかけて右上から左下に貫通していたというのです。斎藤氏は、当時のハルビン駅舎の2階は食堂になっていたことを通訳を通して取材したハルビン駅の助役に確認します。そして、安藤芳氏が「伊藤博文暗殺事件」の中で書かれたように、真犯人は2階食堂の従業員の着替え室から狙撃したのではないか、という説に同調するのです。

 まるで、ケネディ米大統領暗殺事件みたいですね。それでは、狙撃犯人の背後にいた人物とは誰だったのか?この本は「歴史ノンフィクション・ミステリー」と銘打っているので、種明かしはできませんので、実際この本を手に取って読んでみてください。

そうそう表題になっているフルベッキの写真とは何かについても説明しなければなりませんね。御存知の方も多いと思いますが、フルベッキとは幕末に来日した蘭出身の宣教師のことで、写真は、フルベッキと息子を囲んで44人の武士が写ったものです。撮影者は、日本の写真師の元祖上野彦馬。写っている武士たちとは、坂本龍馬、中岡慎太郎、西郷隆盛、大久保利通、高杉晋作、伊藤博文…と錚々たる幕末の志士ばかり。私も以前、加治将一著「幕末 維新の暗号」(祥伝社、2007年)を読んで大変興奮した覚えがあります。

 なぜなら、ここに写っている大室寅之祐なる人物が、明治天皇としてすげ替えられた(つまり、睦仁親王の替え玉)のではないかという推理小説だったからです。大室は、南朝の流れを組む人物で、明治天皇の父君である孝明天皇は天然痘で死亡したのではなく、毒殺されたという驚きの推理です。

 その毒を盛った下手人の背後にいたのが、実は伊藤博文だったということで、最初に出てきた安重根に繋がります。安重根が伊藤暗殺の理由として挙げた15カ条の罪状の中に、この孝明天皇について、「伊藤さんが弑逆(しぎゃく)しました。そのことは皆、韓国民は知っています」とあったのです。

 さて、このフルベッキの写真に写っていたのは本当に有名な幕末の志士と大室寅之祐だったのかー?これも、ミステリーなので本書を買って読んでみてください(笑)。斎藤氏は、ベルリン出張取材の経費が必要だと、電話で仰っておりました。

 何と言っても、斎藤氏の取材に懸けた情熱とフットワークの軽さには感服します。何かネタがありそうだと思うと、旧満洲、田布施、横須賀、長崎、佐世保、京都、角館…と何処にでも行って人に会いに行きます。残念なのは、年号の間違いあったこと。校正の段階ですぐ分かるので、ミスプリントかもしれませんが、「1956年(昭和33年)」(39ページ)、「明治元年10月28日(1886年12月10日)」(96ページ)は、一目見ればすぐ分かるはずですが…。

いや、これで終わってはいけませんね。斎藤氏のベルリン出張費のためにも、重ね重ね、皆様のご協力をお願い申し上げます。

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