WST National Gallery Copyright par Duc de Matsuoqua
喜劇だと思ったら、悲劇でした。見事やられてしまいました。途中から泣き笑いで、いい歳をして、感情を抑えることができませんでした。
22年ぶりの新作シリーズ第50作目「男はつらいよ お帰り寅さん」は、製作費と同じくらい宣伝費をかけているようにみえるので、新聞でもテレビでも週刊誌でも、ラジオでも、どこでもこの映画のことで話題持ち切り。
今では簡単に予告編も見られ、あらすじまで分かってしまいますから、知った気になって、観た気になってしまいますが、それでは、勿体ない。劇場に足を運んで大きなスクリーンで御覧になることをお薦めします。
私のような1969年の第1作から1997年の第49作まで、大体見ているロートル世代でしたら、涙なしには見られません。(もしかして、初めて見る若い世代でも楽しめるかも)
若い頃は、寅さんシリーズは当たり前のように上映され、いつもお決まりのパターンのマンネリズムだと思ってましたが、それが見事浄化して、様式美に昇格していたことが、今になって分かりました。
寅さんこと渥美清(1928~96)さんも本当に亡くなり、(68歳の若さだったは!当時は、彼の訃報原稿を書いたりして大忙しだったので、そこまで若かったことは実感できませんでした)この映画でも、既に寅さんは亡くなって、甥っ子の満男(吉岡秀隆)が小説家になり、偶然初恋のイズミちゃん(後藤久美子)と再会する話で、喜劇ではなく、次回もまた続くような気の持たせ方で映画が終わります。
まあ、そこがいい所です。
寅さんは、回想シーンでしか登場しませんが、4Kか何か知りませんが、デジタル処理した昔の映像が、今の映画と同期して、違和感がないのが、この映画の凄いところです。
この映画は、満男役の吉岡秀隆(49)主演作ですが、彼は、「三丁目の夕日」などで、売れない作家役をやっているので、今回の小説家役も適役でした。また、ゴクミと言っても、30年前の美少女ブームの頃の後藤久美子(45)のことを知らない人も多いでしょうが、私生活では、フランス人F1レーサーと結婚して、スイスなどに住み、半ば引退した格好でしたが、山田洋次監督から手紙による熱烈な説得により、イズミ役として復帰したことが、週刊誌に書かれていました。
イズミは、ゴクミの私生活通り、英語とフランス語が堪能で国連難民高等弁務官事務所の職員になって世界中を飛び回っている役でしたから、本人と重なってしまいました。流石に英語もフランス語も発音が良かった。山田監督の「アテ書き」ですね。
映画の舞台も、葛飾区柴又のほか、銀座と神保町と八重洲ブックセンターで、個人的に、私が最も縁と馴染みの深い東京だったので、それだけで胸が熱くなってしまいました。
この映画で、寅さんが関わったマドンナが、最後の回想シーンで、ほぼ勢ぞろいしました。最初に私は「寅さんのシリーズをほとんど観ている」と豪語しましたが、「あれ?彼女誰だっけ?」という女優さんが2人ぐらいいました。後で調べたら思い出しましたが、女優さんに失礼に当たるので、その人の名前を書いた公文書は、現政権のように、シュレッダーにかけて、隠蔽しておきます(笑)。
でも、22年ぶりに「男をつらいよ」を観ると、すっかり忘れていた意外な女優さんまでもが、マドンナ役で出ていたことが確認できました。サクラ役の倍賞千恵子さんは、若い頃は本当に正統派の美人だったことも、改めてこの歳になって気が付きました。そして、ヒトは残酷にも年を取り、タコ社長もおいちゃん役の俳優さんも既に亡くなって、この世にいないのにスクリーンで復活していました。これもまた、ロートル世代にとっては感慨深いものでした。
恐るべき映画でした。