黒川弘務氏の最高検検事総長就任は民主主義の危機

WST National Gallery Copyright par Duc de Matsuoqua

 東京高検の黒川弘務検事長の定年を延長して、今夏には、検察トップの最高検検事総長に据えようとする安倍政権の目論見は、ついに国会でも追及されました。行政府の長が、司法検察のトップを意のままに動かすことができれば、勝手やりたい放題で、三権分立をうたう憲法違反になりかねませんからね。民主主義の危機です。

 ということで、私自身は検察関係とはこれまで「御縁」がなく、知識が浅かったので、友人に勧められて、山本祐司著「東京地検特捜部」(角川文庫、1985年11月10日初版)を赤線を引きながら読んでいます。これが、めちゃ面白い。人間臭い、人事の派閥抗争が検察庁内部で明治時代からあり、あまりにも人間的な検察官に親しみすら感じてしまいました。

 著者の山本祐司氏(1936~2017)は、元毎日新聞記者で、司法記者クラブに長らく在籍したスペシャリストです。特捜部関係の本は他にも結構あります。「東京地検特捜部」 は、文庫版になる前に現代評論社から1980年に初版が出ており、「古典的名著」と言われ、司法担当記者も、検察官自身も必読の書と言われています。が、文庫版になっても、間違いを散見します。例えば、21ページの「海部は、昭和22年大阪経済大を首席で卒業」は、「神戸経済大(現神戸大)」の間違い。55ページの「塩野のほうは、小原より四歳下」は「三歳下」の間違い。66ページの「ドイツの通信社ロイター電」は「英国の通信社」の間違い。114ページの「一木喜徳郎(いちのきき・とくろう)」は 「一木喜徳郎(いちき・きとくろう)」 の間違い…。いやはや、職業病というか、我ながら嫌な性格ですが、古典なら間違いを訂正して復刻してほしいものです。確かに名著だと思うからです。

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 私は「親譲りの無鉄砲で子供の時から損ばかりしている」性格なので、どうも物事や歴史を当局や権力者側からというより、虐げられた側の人からの目線で見がちです。中年時代から近現代史に興味を持ち、「大逆事件」やら「2・26事件」やら「ゾルゲ事件」やら歴史的事件を自分なりに勉学してきましたが、そう言えば、「裁かれる側」からの視点ばかりで、検察など「裁く側」の視点に欠けておりました。

  戦前は、平沼騏一郎に代表されるような「公安・思想検察」が幅を利かせていましたが、戦後になって汚職などを摘発する「経済検察」が勢いを盛り返して、両者の間で血みどろの派閥抗争が続いていたことが、この本を読んで初めて知りました。

 経済検事の派閥を代表するのが、その後、司法大臣などを歴任した小原直(1877~1967)で、木内曽益(きうち・つねのり=1896~1976、最高検次長など歴任)~馬場義続(1902~77=元検事総長)に引き継がれます。小原は、大逆事件も担当しましたが、日本製糖汚職事件やシーメンス事件など戦前の大きな疑獄事件はほとんど担当し、その弟子筋の木内と馬場は、東京地検特捜部(東京地方検察庁特別捜査部)の産みの親と言われています。

 一方の公安検察の派閥を代表するのが、平沼騏一郎の引きなどで司法大臣なども務めた塩野季彦(1880~1949)で、その女婿の岸本義広(1897~1965)に引き継がれます。塩野は、日本共産党を壊滅にまで追い込んだ「3・15事件」や「4・16事件」などで実質的に指揮を執りました。

明治終わりに始まった経済検事・小原直と思想検事・塩野季彦との壮絶な覇権争いは、戦後は馬場義続と岸本義広による報復人事合戦による戦いとなり、最後は、経済検察側の勝利になりますが、映画かドラマを見ているような展開でした。

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 戦後まもなく起きた政界と財界との癒着汚職である「昭和電工事件」や犬養健法相による指揮権が発動された「造船疑獄事件」なども検察側からの視点で描かれ、多少、新鮮な感じがしました。「政界の爆弾男」田中彰治衆院議員や、「街の金融王」森脇将光らも登場します。石川達三原作で映画化された「金環食」では、この2人のモデルも登場し、それぞれ三国連太郎と宇野重吉が迫真の演技で強烈な印象を放っていたので、思い出してしまいました。

 先程の指揮権発動というのは言うまでもなく、1954年の造船疑獄事件で、犬養法相が、与党自由党の幹事長佐藤栄作の逮捕を阻止するために、使わざるを得なかった歴史的汚点のような事件のことを指します。 (犬養氏はすぐに法相を辞任し、事件の6年後に、この事件の背後に東京高検検事長だった岸本義広がいたのではないかと仄めかす論文を文芸春秋に発表)

 さて、今現在の話です。

 黒川弘務東京高検検事長を、最高検検事総長に据え置くという安倍政権の目論見は、指揮権発動に他ならないのではないでしょうか。この本を読んで、その思いを強くしました。

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