南北戦争と和製英語の話=松岡將著「ドライビング・アメリカ」から

 9月28日渓流斎ブログで「英語翻訳は難しい」とのタイトルで、日本人にとって英語学習が如何に大変であることを書いたところ、満洲研究家の松岡將氏から30年ほど前に書かれた自著「ドライビング・アメリカ」(日本貿易振興会ジェトロ出版・1992年2月24日初版)を送って頂きました(他にも理由があるのですが割愛)。

 書かれたものが30年以上前なので、当時は通用していても、今ではPC(ポリティカルコレクト)でアウトになってしまう表現(例えば「女子供」とか)や今では死語になった「マルキン」「マルビ」といった言葉も出てきますが(笑)、今読んでも不変の話が多く出てきますので、勉強になりました。

 それにしても、当時はインターネットもパソコンも普及しておらず、原稿は、頭と手書きで書いたものですから感服致します。

 松岡氏は農林省に入省しますが、1972年から76年にかけて外務省に出向し、米国の在ワシントン日本国大使館に勤務します。その間の1975年は、昭和天皇皇后両陛下の訪米という最大のイベントに遭遇し、大使館地下に直通電話を何本も引いて緊密連絡の指令塔になったり、シカゴ農場ご訪問の担当で下見検分に行って分刻みの日程をつくったりしたといいます。その辺りは「住んでみたアメリカ」(サイマル出版会、1981年)に詳しく、この「ドライビング・アメリカ」では、ジェトロの理事になり、天皇陛下が訪問したシカゴのバルツ農場を15年ぶりに再訪したことなども書かれています。

 本書では米国人には常識であっても日本人の多くが知らなかった米国史が出てきます。例えば、米大陸最初の英国人による植民は、日本でもあまりにも有名なメイフラワー号ではなく、これに先立つこと13年前の1607年4月のスーザンコンスタント号、ゴッドスピード号、ディスカバリー号の3隻によってその第1歩が印されたことを挙げています。

◇知られざる南北戦争

 また、松岡氏一家4人が住んだ米ワシントン郊外のヴァージニア州が南北戦争の激戦地だったことから、所縁の地を訪れたりします。南部連合が首府としたヴァージニア州リッチモンドと北部連合の首府が置かれたワシントンとの距離はわずか150キロで、今なら車で2時間だという距離には驚かされました。

 そして、この本を読んで初めて知りましたが、南北戦争は一人の農夫ウィルマー・マクリーンの自宅で始まり、また同じマクリーンの自宅で終わったという歴史的偶然が描かれています。簡略すると、1861年7月、ワシントンから南西約20キロ離れたブルランという所で、前線巡察中の南軍の将軍と参謀が、マクリーンの自宅で昼食中に、北軍の砲弾が飛来し、炸裂したのが南北両軍による戦闘開始のきっかけとなります。

 マクリーンは戦火を逃れるためにブルランを離れ、ヴァージニア州のアポマトックス村に農場を買い、移住して数年間は平和に暮らしますが、1865年4月9日、道を歩いていたところ、南軍のマーシャルと名乗る若い大佐から呼び止められ、「リー将軍がグラント将軍と会見するふさわしい場所はないか」と尋ねられます。マクリーンは最初は、近くの使われていない裁判所庁舎に連れて行きますが、マーシャル大佐は気に入らず、そこで、マクリーンは彼を自宅に連れて行くと、大佐はその広間が気に入り、両将軍の会見の場になったといいます。

 ということで、旅順要塞陥落で乃木将軍とステッセル将軍が会見した「弾丸あとも著しく、崩れ残れる民屋」旅順の水師営と違い、アポマトックスのマクリーン・ハウスは何の変哲もない家で、観光客も少なく、奥さんから「なあに、この広間。普通の家とちっとも変わらないじゃないの」とまで言われた逸話まで書いてしまっています。

 日本人で、南北戦争に興味がある人はそれほど多くありませんが、米国史にとっては欠かせない一大事件です。色々と諸説ありますが、この南北戦争では、グラント将軍率いる北軍の死者は約36万人で、リー将軍率いる南軍の死者は約28万8000人で合計64万8000人。第2次世界大戦の米軍の死者が31万8000人といわれていますから、如何に犠牲者が多かったかが分かります。

◇英語翻訳は難しい

 この本の後半では、この記事の最初に書いた「英語翻訳は難しい」例が沢山出てきます。「英語は簡単すぎるから難しいのではないか」という著者の結論は、私と全く同じなので吃驚してしまいました。

 今からもう60年以上も昔ですが、日本、米、カナダ、ソ連の4カ国がワシントンで「北太平洋のオットセイの保存に関する暫定条約」の交渉が行われた際、日本代表団の一人がオットセイが英語から出た言葉だと思い込んで、何度も「オットセイ」と発音を変えたりして発言したのに全く通じなかったという笑えない逸話も紹介しています。(この話はオチがあり、仕方なくオットセイの絵を描いたら、相手から「何だ、鳩か」と言われたとか)

 和製英語になっている単語が、当たり前ながら米国では全く通用しないことも本人の体験談として書かれています。全てに答えが書いていなかったので、老婆心ながら小生が英単語付で御紹介するとー。

自動車のハンドル⇒wheel (be behind the wheel で運転する)

パンク⇒ flat tire(punctureなら通じます)

バックミラー⇒ a rearview mirror

エンスト⇒ engine stall (stopは使わない)

ガソリンスタンド⇒ gas station(standじゃない)

取り敢えずこの辺で。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください