そのまま全てを信じるな!=歴史番組も報道もかなりバイアスがかかっている

 私は、歴史好きというより、歴史から学ばなければならないという精神が他の人より異様に強いので、本や雑誌だけでなく、テレビの歴史物の番組もよく見るようにしています。

 天下のNHK-BSで放送されている「英雄たちの選択」もその一つです。いつも感心するテーマを扱って頂き本当に勉強になります。

 ですが、先日、再放送された「天平パンデミック 聖武天皇と橘諸兄 復興への葛藤」を見て、「あれっ?何か物足りないなあ」と思ってしまいました。この番組は今年4月に最初に放送され、9月2日に2回目が放送され、9月8日(水)には午前8時からまた再々放送されるようなので、御見逃しの方は、録画でもして御覧になったら宜しいかと存じます。

 今から1300年前の奈良時代、聖武天皇(701~56年)の御世の天平7年(735年)、九州の大宰府から全国に天然痘が大流行し、翌々年の737年までに当時の人口の3分1に当たる150万人が亡くなったと言われます。政権中枢に就いていた藤原不比等の4人の息子もこの天然痘で亡くなるという大惨事でした。

 この空白期に登場したのが、橘諸兄(684~757年)でした。この人、聖武天皇の光明皇后の異父兄に当たる血統の良さもあって次々と昇進し、ついには正一位左大臣となって聖武天皇の「宰相」となり、次々と改革を打ち出していきます。そのうちの三つの大きな柱が(1)農民たちへの(税)負担の軽減(2)隣国新羅からの脅威はあったものの、疫病大流行のため、国防より国内の安定を優先(3)行政のスリム化ーといったものでした。

 その最たるものが、734年に発布した「墾田永年私財法」でした。これによって、律令制の一部が崩れたものの、朝廷は農民からより安定した税収入を得ることができるようになりました。

 聖武天皇は、疫病の流行と、藤原広嗣の乱などのせいか、平城京から恭仁京、難波京、紫香楽京、平城京と5年間で次々と遷都しながらも、その間、一貫として政権を担っていたのが橘諸兄でした。聖武天皇が当初、紫香楽京に建立したかった大仏(総工費は現代の価格にすると4567億円)を平城京に建立するように勧めたのも橘諸兄で、752年(天平勝宝4年)に東大寺大仏殿で開眼供養を行った、めでたし、めでたし。聖武天皇は756年に崩御され、橘諸兄はその翌年に亡くなった、で番組は終わっていました。

 私が「物足りない」と感じたのは、まず、大仏開眼供養が行われた時の天皇は聖武天皇ではなく、娘の阿倍内親王(孝謙天皇)に譲位して自らは聖武上皇になられていたことを説明しなかったこと。その孝謙天皇は、橘諸兄よりも藤原仲麻呂を寵愛したことにより、仲麻呂は、藤原家復興のために橘家排斥に動いたことを少し番組内で取り入れてほしかったなあ、と思ったのでした。

 事実、橘諸兄は聖武上皇崩御後は、酒席で継嗣(つぎつぐ)問題を取り上げたことが不敬と見なされて官位を辞職し、失意のうちに没したといわれます。しかも、橘諸兄の嫡男奈良麻呂は、藤原仲麻呂の排斥を企てたという科で、拷問の末に獄死したとも言われています。

 テレビ番組では、聖武天皇と橘諸兄の二人に焦点を当てたので、それ以外は余分だと考えたのかもしれませんが、頭が良い、とにかく非の打ち所がないほど自信満々の学者さんと作家さんが出演されていたわけですから知らないはずがない。

 フレームアップに近いのでは?とまでは言いませんけど、番組というものは、とかく、話題先行か、テーマ優先か知りませんけど、ある一つの課題に焦点を当てるために、他のことが等閑になってしまうことが往々にしてあります。この番組を見たほとんどの人は、橘諸兄は、功成り名を遂げて幸せな晩年生活の末、亡くなったと思ったはずです。私もそうでした。

◇恣意的要素が入る

 これは、他のドキュメンタリーにも、歴史書などの著作にも新聞記事等にも当てはまります。記者や編集者や演出家やプロデューサーらの何らかの「意図」が加わるわけです。

 私の経験でも、たとえ大物にインタービューした際でも、紙面や行数の関係で、書けることは、聞いた話のせいぜい6割程度でした。残りは捨てざるを得ません。その際、記事として反映される部分は、かなり恣意的な記者の裁量に左右されます。

 結局、何が言いたいのかと言いますと、テレビの番組にせよ、報道にせよ、新聞記事にせよ、それが「事実」の全てではないということです。かなりバイアスがかかっていると思って間違いありません。朝日新聞が報道しないことを産経新聞が報道することはよくありますし、NHKの報道は、いつも時の政権に斟酌していて随分偏向しているなあ、と感じるのは私だけではないことでしょう(苦笑)。

 あれ? いつの間にか、メディア論になってしまいましたね。

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