もう一つの赤穂浪士の物語=日暮高則著「板谷峠の死闘」

 皆様御存知の日暮高則氏の新著「板谷峠の死闘」(コスミック・時代文庫、2022年2月25日初版)を読了しました。本日は2・26事件の26日ですから早いでしょう?(笑)

 著者にとって、これが「時代小説デビュー作」ということらしいです。御本人からご連絡があったのは2月19日のこと。早速、ネット通販で注文したら21日に届き、翌日から読み始めましたから、3~4日掛かったことになります。「あとがき」も入れて327ページ。かなり長編の小説でした。

 副題に「赤穂浪士異聞」とある通り、もう一つの赤穂浪士の物語です。でも、「忠臣蔵」の大石内蔵助らは脇役で、この物語の主人公は大野九郎兵衛という播州赤穂藩の末席家老(禄高650石)です。本名大野知房という実在の人物で、忠臣蔵ファンにはお馴染みの「不忠臣」の代表格ですが、生没年不詳で、その生涯はそれほどはっきりせず、伝承だけは多く残している人物です。

築地「蜂の子」Bランチ 950円

 私自身はよく知らない人物だったので、途中で、「筆者後記」を先に読んだら、おぼろげながら大野九郎兵衛の人物像が分かり、筆者が何故、この人物を主人公に物語を書きたかったのか初めて分かりました。

 内容については、史実を基にしたミステリーのような推理小説のような、話がどう展開するのか分からない話で、ここで書いてしまってはタネ明かしになってしまうので触れません。ただ、タイトルの板谷(いたや)峠のことだけは説明しておきましょう。これは、福島と出羽の国境にある峠のことで、ここには大野九郎兵衛の供養碑が建てられているようです。筆者は、伝承を基に想像をたくましくして、この峠で、討ち入りに紛れて隧道から逃げ切った吉良上野介一行が、吉良の子息の上杉綱憲が藩主を務める米沢藩に逃れる途中で、後詰めの別動隊として任された大野九郎兵衛らと死闘を展開するという話を創作しました。あれっ?結構、内容を書いてしまいましたが、話はそれだけではありませんからね(苦笑)。

 他に登場する有名な堀部安兵衛はともかく、田中貞四郎、灰方藤兵衛、小野寺十内といった人物も、実在人物のようです。筆者は「忠臣蔵ファン」を自称するだけあって、多くの関連書を渉猟し、本当によく調べ尽くしております。病気療養中ながら、これだけの長編を仕立て上げた著者の筆力には感服いたしました。

埼玉県越生市 太田道真退隠地

 ただ、気になったのは「筆者後記」に掲載された板谷峠の現場写真がいずれもピンボケで、どうしちゃったのかな?と心配になりました。また、真面目な著者は、あまり宇野鴻一郎や川上宗薫さんらを読んだことがないせいなのか、その筋の描写がうまくないので、醒めて、むしろ恥ずかしくなってしまいます(笑)。無理して、エンタメにするつもりもなかった気がしました。

 もう一つ、「能楽」と出てきますが、能楽は明治以降の言葉で、江戸時代は、能とか猿楽とか言っていたようです。能楽ではなく、「謡曲」でもよかった気がしました。

 いずれにせよ、この小説が、多くの人の目に触れて、何かの文学賞を獲得して頂ければ、御同慶の至りで御座います。御意。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

旧《溪流斎日乗》 depuis 2005 をもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む