サン=テクジュペリの不朽の名作『星の王子さま』を遅ればせながら読んでいます。
教科書に載っていたのか、子供の頃から何度も「帽子」の話は読んだ記憶があります。が、通しで最後まで読んだ記憶がありません。フランス語を習い始めた頃は、もうこれは子供が読む童話だと思っていたので見向きもしませんでした。
しかし、その考えは間違っていました。サン=テクジュペリは「はじめに」で、きっぱりと断っています。子供の頃の純真さを失った大人に向けて書いているのです。
童話でなくて寓話です。ですから、登場するキツネも薔薇も狩人も地理学者もビジネスマンも何かを象徴しているわけです。とてもとても深い物語です。
『星の王子さま』を読んでいます、と書きましたが、日本語ならわずか2時間くらいで読めてしまいます。しかし、深くじっくり読むと、もっともっと時間がかかるのです。だから今でも読み続けているのです。
オリジナル作品は、1943年に出版されました。日本では1953年に内藤濯氏による翻訳が最初です。
Le Petit Prince は「小さな王子」というのが直訳ですが、これを「星の王子さま」と翻訳したのが内藤氏の功績です。1999年の時点ですが、世界的なベストセラーの第一位が「聖書」で第二位がマルクスの「資本論」。第3位が「星の王子さま」なんだそうです。累計販売数で5000万部だそうです。
日本では昨年から今年にかけて急に翻訳本が出ました。目に付くものだけでも、倉橋由美子訳(宝島社=05年6月)、山崎庸一郎訳「小さな王子さま」(みすず書房=05年8月)、池澤夏樹訳(集英社文庫=05年8月)、稲垣直樹訳(平凡社=06年1月)、河野万里子訳(新潮社文庫=06年3月)と5種類もあります。
これは異様ですね。
私の推理ではサン=テクジュペリの著作権が切れたせいだと思われます。彼は1944年7月31日に偵察飛行に飛び立ったまま、南仏上空で行方不明になります。44歳の若さでした。通常、著作権は50年なのですが、第二次世界大戦の戦勝国は、戦時中に著作権が保護されなかったとか何とか言って、もう10年くらい引き伸ばされています。昨年は戦後60年でしたから、堂々と出版できたのでしょう。
ということで、読み始めると、翻訳本といっても訳し方が様々でどれも違うのです。手始めに、倉橋さんの遺作となった作品を読むと、さすがに小説家だけに読みやすい。しかし、彼女流の意訳も多いのです。
一番、原作に近いのは、サン=テクジュペリの研究者でもある京大大学院教授の稲垣さんの訳ではないでしょうか。実は、彼は、現在、NHKラジオのフランス語講座の講師をやっていて、私は、それに触発されて、フランス語で読み始めたのです。テキストには訳が載っていますが、3分の2くらいで、残りはカットされています。それで騙されて彼の翻訳本を買わされてしまったわけです(笑)
フランス語のお勉強は実に四半世紀ぶりです。
『星の王子さま』のハイライトは、何と言っても、キツネが王子さまに3つの「秘密」を説き明かすことです。
その1=「心でしかものは見えないんだよ。大切なことは目で見えないんだよ」
その2=「バラのために失った時間こそが、君のバラをそれだけかけがえのないものにするんだよ」
その3=「君が馴染んだものに対してはいつまでも君には責任があるんだよ」
急に読んだ方は何を言っているのかわからないでしょうが、大変な隠喩が含まれています。
是非、原書で読んでみてください。
声でよむ名作本(21)サン=テグジュペリ『星の王子さま』
声でよむ名作本(21)サン=テグジュペリ『星の王子さま』
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