昭和天皇「太陽」

話題の映画「太陽」(アレクサンドル・ソクローフ監督)を見てきました。

銀座・三原橋にある小さな映画館。驚いたことに、平日の昼間だというのに大行列で、結局「立ち見」でした。昭和天皇の、靖国神社へのA級戦犯合祀で不快感を漏らされたメモが見つかり、今、タイムリーな話題になっているせいか、関心を呼んだのでしょう。

でも、東京は嫌ですね。人が多すぎて。映画を立ち見するなんて、30年ぶりくらいじゃないですかね。この映画、立って見るほど価値があったかと言えば、正直、それほどでもなかったでした。★

何で、この作品がベルリン映画祭で無冠に終わり、日本での公開が危ぶまれたのか、よく分かりません。天皇の「人間宣言」は歴史的事実で、どこの教科書にでも掲載されていますし、生物学者として、鯰や平家蟹などの研究に没頭されていたことなどよく知られていた話で、特に目新しい話は盛り込まれていません。

終戦間際からGHQのマッカーサー司令官会見までの昭和天皇の私生活と心の内面を辿った作品で、実に淡々として描かれているだけです。ただし、離れ離れに暮らす家族の写真に唇を寄せたり、天皇をあまりにも人間、人間的に描こうとしている作者の意図がみえみえで、職務を離れた個人の内面的苦悩を正確に描かれていたにせよ、皇国史観に染まった信奉主義者には我慢できなかったかもしれません。

それは、あくまでも、ロシア人から見た昭和天皇だったということです。ソクローフが演技指導したのかどうかわかりませんが、昭和天皇演じるイッセー尾形が、妙に口をモゾモゾとさせているのが気になりました。当時の昭和天皇は45歳くらいです。もっと若々しかったはずです。

マッカーサー役のロバート・ドーソンは少し似ている感じはしましたが、随分粗野な人間像に嵌められていました。本当のマッカーサーはあんな感じではない気がしました。昭和天皇が、通訳を介さずに英語で堂々と反駁して、「私はドイツ語もフランス語もスペイン語もできます」と伝えた時、日本人として胸がすく思いを隠せませんでした。天皇の写真を撮影に来たアメリカ人のカメラマンたちを猿回しか野蛮人のように描いたのも、ロシア人だからできたことでしょう。まず、アメリカ人はこんな映画は作りません。マッカーサーを大ヒーローにしたスペクタクルな大活劇にすることでしょう。

結局、フィクションとはいえ「現人神」をフィルムに焼き付けたことは、ソクーロフの歴史的功績と認めざるを得ません。

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

旧《溪流斎日乗》 depuis 2005 をもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む