「江戸を歩く」

公開日時: 2007年11月2日

 

田中優子著、石山貴美子・写真の「江戸を歩く」(集英社新書)を読了しました。久しぶりに、読書の悦楽を堪能しました。

 

なぜなら、この物語は、この本の中の世界にしかないからです。もう100年以上昔に消滅した江戸の痕跡を求めて、著者は逍遥します。まさに「失われた時を求めて」です。

そこにあるのは、郷愁でも懐古趣味でも何でもいいのです。現実に、もう失って、再現することも不可能です。しかし、この本の中にだけは、その時代の生活と文化が生き生きとしているのです。

少し、備忘録を兼ねて、引用したいと思います。(原文そのままではありません)

●日本は、伝統的に「御霊(ごりょう)信仰」だった。御霊は、「みたま」とも読む。死者の霊に対する畏れの感情とともに、そう呼んだ。橘逸成、藤原広嗣、吉備真備、菅原道真(天満宮)、平将門(神田明神)ら、時の権力者との抗争に敗れて、怨念を持って亡くなった場合、怨霊となって、この世に天災や疫病をもたらすと、昔から考えられてきた。そこで、彼らを鎮魂し、悪を制御するために、大掛かりな祀りを行ってきた。京都の祇園祭も、869年に八坂神社の御霊会(ごりょうえ)として始まっている。

(いわば、敵味方なく、むしろ、朝敵に対して、日本人は篤くまつりごとを行ってきたのだ。)

●しかし、明治維新政府は、この信仰を捨てることで「近代化」を成し遂げようとした。敵を無視し、味方の軍人だけを「英霊」と呼んで、靖国神社に祀るようになったのだ。

(要するに、靖国神社は、徳川幕府をクーデターで倒した薩長土肥のための宗教施設であることには変わりがないということでしょう。ここには、新撰組も会津藩士も祀られていない、維新政府に歯向かったということで、元勲西郷隆盛も祀られていない)

●浅草三社祭の「三社」とは、檜前浜成(ひのくま・はまなり)、竹成(たけなり)兄弟とその主人の土師臣真中知(はじのおみのまつち)のことで、この三人は八世紀頃、朝鮮半島から逃れてきた渡来人だった。渡来人は、馬の飼育、漁の技術、麻、絹、瓦、文字、画、皮革、そして、仏教をもたらした。土師は、埴輪、土器、墳墓の技術者だった。

 

●向島百科園は、骨董屋を営んでいた佐原鞠塢(さわら・きくう)が隠居後の1804(文化元)年に開いたサロンで、幕臣で狂歌連のリーダー大田南畝、姫路藩主の弟で画家・狂歌師の酒井抱一、画家の谷文晁、旅館経営者で作家で国学者の宿屋飯盛(やどやのめしもり=石川雅望、まさもち)らが集った。

●人形町は、浅草の猿若町に移転するまで、1632(寛永9)年から1842(天保13)年まで210年間の長きに渡って芝居町があった。

●「お茶の水」は、二代将軍秀忠が、鷹狩の帰りにここに立ち寄り、そこの湧き水で飲んだお茶が忘れず、この地名がついた。

●江戸は風水に基づいて計画的に作られた都市で、江戸城の場合、まず、城の正面の入り口に当たる大手門が東に作られた。その反対の西には富士山が見える。大手門の北には隅田川が流れ、南は、あえて、「虎の御門」と名付けられた。風水では、北(玄武=げんぶ)に山、南(朱雀)に水、西(白虎)に道、東(青龍)に川がなくてはならないので、大手門を南、その反対の富士山を北、虎ノ門を西、隅田川を東に見立てた。

また、江戸城を中心にして、鬼門である東北に寛永寺と浅草寺を配し、ちょうど反対側の南西の位置に増上寺を置く。増上寺が南にずれている方向を修正するかのように、外堀に沿って山王社が建てられ、江戸城をはさんでその反対側に、やはり外堀(神田川)近くに神田明神がひかえている。いずれも、江戸の総鎮守と言われ、天下祭が行われている。

 

●大田南畝(おおた・なんぽ)は、江戸中期文化のリーダーであり、スターである。牛込中御徒町、現在の新宿区中町で生まれ育った。1767(明和4)年、18歳で「寝惚先生文集」を刊行し、平賀源内に支持され、狂詩のジャンルを確立。20歳で、狂詩から狂歌に取り掛かる。江戸文化の行方は、平賀源内ー大田南畝ー山東京伝の順番の世代交替によってリードされた。

(野口武彦「蜀山残雨」が読みたくなりました)

 

●神楽坂の路地奥の和風旅館「和可菜」に泊まり、銭湯「熱海湯」に入り、江戸時代そのままのような居酒屋「伊勢藤」で、一杯ひっかける。「神楽坂では飲んだり食べたりするだけでなく、滞在することをおすすめする。私は仕事に行くのも家に帰るのもいやになった」と著者は書く。

 

ああ~私も江戸情緒を浸りに、また神楽坂に行きたくなりましたねえ。(上のコースでお会いするかも?)

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