若松孝二監督の話題作「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」を見てきました。東京ではテアトル新宿でしか上映しておりません。普段、2000円なのですが、水曜日だけ、1000円で見ることができました。そのせいか、立ち見が出るほどの満員御礼でした。
これから見に行かれる方は、水曜日に上映時間の30分前に行かれるといいと思います。上映時間は三時間を超えるので、覚悟して見てください。それほど長さは感じませんでしたが、途中でトイレに行きたくなってしまいました…。
すごい映画でした。どうせ俳優陣は、20代か30代なので、あさま山荘事件の起きた1972年2月28日は、彼らは生まれていないので、実際、どういう事件だったのかについては彼らには皮膚感覚がないので、演技に関しては全く期待していなかったのですが、素晴らしかったです。本当に彼らは役者でした。何人も何人も出てくる俳優の中で、私自身、知っているのは、遠山美枝子を演じた坂井真紀だけでしたが、皆さん、その役にピッタリはまっていました。名前は知りませんが、驚くほどのイケメン俳優がたくさん出演するので、女性には必見かもしれませんね。
実録と銘打っているだけに、「史実」を忠実に辿っています。
森恒夫、永田洋子、坂東國男、重信房子、田宮高麿、坂口弘、吉野雅邦…当時の事件を同時代として生きてきた人にとっては、忘れられない連合赤軍のメンバーです。しかし、初めて、彼らの名前を聞いた今の若い人にとっては人物関係が複雑すぎて分かりにくいかもしれませんね。
映画では、なぜ、連合赤軍なるものが誕生したのか、1960年安保闘争あたりから、当時のフィルムを多用して歴史を追っているので、分かりやすいです。ヘルメットに角帽、機動隊との小競り合い、お茶の水の石畳の石をはがして投石する学生たち、安田講堂での攻防…懐かしいシーンが沢山出てきますが、今となっては全く異次元か異星人の世界です。あれから36年。学生運動の痕跡すら残っていないからです。
圧巻は、森恒夫、永田洋子が中心になって自分たちの仲間である同志たちを次々と「総括」の名前の下で、粛清していく狂気の沙汰を生々しく描いているシーンです。「真の国際連携における、プロレタリアート解放と平等を追及し…」などと左翼の教条主義的言辞だけが空回りして、集団暴行(リンチ)で仲間を殺害していくのですが、所詮、その背景には、若い男と女の感情的嫉妬心があり、全く権力を握った自分たちだけが絶対に正しいというおめでたいほどの独善主義に凝り固まって、見ていて、背筋が寒くなる思いでした。
それでいて、今の私の年齢からみると、彼らは本当に幼く、額に汗水たらして働いたことがない苦労を知らない、付け焼刃の知識だけを頭に詰め込んだお坊ちゃん、お嬢ちゃんたちで、自分たちが信じた正義だけがすべてだと思っているだけに、とても手に負えないなあ、と思ってしまいました。
彼らのほとんどは団塊の世代で、今ではもう50代後半から60代ですが、過激派としてさまざまな事件を海外でも起こし、今でも、「革命」を捨てることなく、闘志として潜伏している者も多いので、生半可な気持ちで活動していたわけではないことは分かっていますが、この映画を見た限りでは、社会を転覆してその後にどういう組織や国家を作っていこうかというビジョンが森や永田にしても持ち合わせていないように見えました。
どこかの評論家が、当時の学生運動家とオウム信者たちは、高学歴で、真摯に現実の社会矛盾を改革しようとした若者たちだったという点で共通項がある、と指摘していましたが、そう感じないではなかったですね。登場人物が初めて画面に出てくる時、肩書きと名前と一緒に、京都大学だの、横浜国立大学だの出身大学まで字幕で出てきます。若松監督の意図が分かるような気がしました。
大団円は、あさま山荘に立てこもった赤軍派と機動隊との銃撃戦です。私も当時は、テレビの前に釘付けになりました。山荘内では、革命を叫んでいた仲間同士で、たった一枚のビスケットを食べたことを巡って、「規律違反は革命主義に違反する。お前はスターリニストだ。自己批判しろ」と大喧嘩が始まりますが、本来ならあまりにもバカバカしいので笑えてくるはずなのに、本当に物悲しくなってしまいました。
ついでながら、山荘に立てこもって、最後には拘束された赤軍派の5人の中には未成年の少年がいましたが、彼は私と同世代でしたので、非常に衝撃を覚えたことを思い出しました。
この映画は若松監督が自費を投入したライフワークに近い作品なので、多くの人に見てほしいなあと思いました。総合85点。
人間の顔
同じ連合赤軍事件を題材とした「光る雨」の監督は、
高橋伴明さんでした。その高橋さんがあるイベント
で、こんな発言をされたそうです。
「当時、20歳前後だった男女と現在20歳前後の人
間を比較すると、顔のつくりが違うんですよ。だから
今回、出演者をして選んだ俳優たちは、みな、事件に
かかわった人間よりも、年上ばかりです」
これは最近見た、写真集『東大全共闘1968-19
69』(新潮社)でも、確認することができました。
写真集で「オヤ」と思ったことは、粉石けん「ザブ」
の箱のサイズがずいぶん大きいこと、学生たちの眼鏡
は全て黒ぶちで、メタルフレームは一人もいないこと
でした。