斎藤幸平著「人新世の『資本論』」を読みながら考えたこと

  3年前に大ベストセラーになった斎藤幸平著「人新世の『資本論』」(集英社新書・2020年9月22日初版)を今頃になって読んでおります。図書館で予約したら、やっと届いたからです。大ベストセラーなので、予約者数が甚大で、手元に届くのに2年ぐらい掛かったということになります(苦笑)。

 「そんなら買えよ!」と皆様方からお叱りを受けるかもしれませんが、私はへそ曲がりなので、基本的にベストセラー本は買わない主義でして…(苦笑)。大抵は図書館で借ります。もし、その本があまりにも面白ければ、敢えて、購入します。例えば、ユヴァル・ノア・ハラリ著「サピエンス全史」などです。この本にすっかり感銘を受けて、同じ著者の「ホモ・デウス」や「21世紀の人類のための21の思考」などはせっせと購入しております。ただ、あまり本の収集癖がなく、自宅も狭いので、それほどの蔵書はありません。古書店に売ってしまったりもします。

東銀座

 さて、「人新世の『資本論』」を読み始めて、何でこんな難解な本が大ベストセラーになるのか不思議でした。同時に、日本人というのは大の読書家=勉強家で、捨てたもんじゃないなあ、と見直してしまいました。

 この本は、「地球環境危機を救うには、マルクス主義しかない」という結論に行きつくと思われ、私自身はそれに関しては懐疑的なので、全面的に賛同しながら読んでいるわけではありません。著者の斎藤氏は、天才学者の誉が高いようですが、1987年生まれということで、学園紛争や連合赤軍事件(1972年)などは生まれる前の話ですし、天安門事件やベルリンの壁崩壊(1989年)、ソ連邦崩壊(1991年)は幼児で同時代人として体験した感覚はないと思われるので、世代間ギャップを感じます。勿論、良い、悪いという話では全くなく、学者ですから文献を読めば、いくらでも習得出来るので、同時代人として経験しようがしまいが関係ないとも言えますが。

 ただ、1950年代生まれの私たちの世代は、悲惨な戦争体験をした1920年代生まれの親から話を聞いたり、赤紙一枚で一兵卒として召集された伯父なんかはシベリア抑留の苛酷な体験もしたりしているので、どうも、共産主義、全体主義には皮膚感覚でアレルギーがあります。中国共産党の毛沢東も大躍進政策や文化大革命等で数千万人の国民を死に追いやったという説も同時代人として見聞しました。1980年代生まれの斎藤氏の世代では分かり得ないアレルギー感覚だからこそ、このような本を著すことができるのではないか、とさえ思ってしまいます。

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 などと、書いて、この本の評価を貶めようとしているわけではありません。これだけの大ベストセラーになるわけですから、読む価値はあります。著者は、万巻の書籍を読破して、さまざまな提言しています。例えば、

 「私たちが、環境危機の時代に目指すべきは、自分たちだけが生き延びようとすることではない。それでは、時間稼ぎは出来ても、地球はひつしかないのだから、最終的には逃げ場がなくなってしまう。…今のところ、所得の面で世界のトップ10~20%に入っている私たち多くの日本人の生活は安泰に見える。だが、このままの生活が続ければ、グローバルな環境危機はさらに悪化する。(111ページ)

 「無限の経済成長を目指す資本主義に、今、ここで本気で対峙しなくてはならない。私たちの手で資本主義を止めなければ、人類の歴史が終わる。」(118ページ)

 といった提言は、大いに賛同します。仰る通り、このままだと人類は遅かれ早かれ確実に滅亡します。しかし、その改善策として、著者の言うところのケインズ主義では駄目で、マルクス主義しかない、とまでは私自身は飛躍しません。反体制派の人間らを強制収容所に連行したり、計画経済が失敗して何百万人もの自国民を虐殺したり、餓死させたりしたソ連のスターリンも、先述した毛沢東も、本当のマルクス主義者ではなく、マルクスは、独裁のために虐殺してもいい、なんて一行も書いていないと言われても納得できません。マルクス本人が意図しなかったにせよ、マルクス思想が独裁者の理論的支柱となり、政敵を粛清する手段として利用されたことは歴史が証明しているからです。

 と、またまたここまで書きながら、グローバリゼーションと地球環境破壊と資本主義の矛盾による格差社会の現代、マルクスはそれら危機を打開してくれる福音書のように、苦しむ勤勉な若者たちの間で読まれているという現実が一方にあることは付記しておきます。

 「人間の意識が存在を規定するのではなく、人間の社会的存在がその意識を規定するのである」(カール・マルクス=1818~83年、享年64歳)

 

 

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