高水裕一著「面白くて眠れなくなる宇宙」(PHP研究所、2022年10月10日初版)を読了しました。昨日は、法華経やマルクス主義の本を読んでいたかと思えば、今日は、宇宙論です。まさに乱読です。節操がない。恐らく、このブログを御愛読して頂いている皆さんは、ついていけないことでしょう。
実は、私もそうです。知的好奇心と興味が赴くまま、手当たり次第に本ばかりに手を伸ばしていたらこうなってしまったのです。だから、頭で整理できないので、こうしてブログに書いて整理しているようなものです(笑)。
でも、宇宙論は最後に残る究極の学問だと思います。宇宙論は数学、物理学、化学、生物学、天文学、量子力学、人類学、進化論、さらには医学といった理系だけでなく、文学、哲学、宗教学、はたまた経済学にも通じ、逆に総合知識がないと理解できない究極論だと思います。
そんな宇宙論ですが、この本によると、人類は宇宙の物質に関してはまだ全体の5%未満しか分かっておらず、9割以上は未知の謎だらけというのですから、魂げます。182~183ページには、宇宙は、通常の物質4.9%、光と反応しない物質ダークマター28.8%、そして物質なのか分からない未知のエネルギで満たされたダークエネルギーと呼ばれるものが大半の68.3%で出来ている書かれています。
通常物質というのは、元素で表され、私も大学受験で化学を選択したのでまだ覚えていますが、「スイヘイリーベ ボクノフネ」と覚えたH、He、Li、Be、B、C、N、O、F、Ne…の元素の周期表は、宇宙で共通する元素が出来上がった順番で、宇宙の歴史そのものだというのです。へ~、それは知らなかった。そして、元素を分解すると、例えば、1番目の水素(H)は、陽子(プロトン)1、電子(エレクトン)1(質量数1.008)で出来ていますが、2番目のヘリウム(He)になると、陽子2,電子2,に中性子(ニュートロン)2が加わって出来ているので、質量数は4.003と水素の約4倍になります。この中性子というのは、陽子二つだと同じ電荷で強い斥力によって反発し合ってまとまらないため。クッション材として必要とされるというのです。
個人的ながら、虚無主義に駆られていた中学生時代にもっとこんな宇宙論を勉強していたら、虚無主義を克服して救われていたんじゃないかなあ、と思ったりします。もっとも、私が中学生時代は、宇宙は、ビッグバンから138億年で、地球はその3分の1の46億年といった基本的な数字すらまだ正確に解明できていなかったと思います。そして、太陽の寿命は最大でも150億年で、現在、太陽は50~60億歳と言われていますから、いつか太陽も消滅して、地球はその太陽の活動に完全に依存しているので、著者の高水氏は「太陽が死ねば、本質的に地球上の生命活動はなくなり、ただの鉄の塊の惑星が永遠に残るだけです」と遠回しに書かれております。要するに、泣こうが喚こうが、人類はいつか必ず滅亡するということなのでしょう。
人類が絶滅すれば、経済活動どころか、文化も哲学も宗教も学業も定理も消滅することになります。となると、究極的な虚無主義になりますが、逆に言えば、どんなに有名になっても、どんなに大金持ちになっても、独裁者になって他国を侵略して英雄になっても、その財産も名誉も勲章も消えてなくなるということです。最初からなかったようなものです。世界は空であり、世界は無であるというのが、究極の真理だということになります。まるで、仏教思想みたいですが、このような物理学的宇宙論に中学生の時に触れていたら、あそこまで落ち込んで虚無的にはならなかったろうになあ、と今でも思ったりします。
著者の高水氏は、英ケンブリッジ大学理論宇宙センターに所属し、あのホーキング博士に師事したといいます。1980年生まれで、まだ40歳代の方ですが、子どもの頃は星座や天文学ではなく、アインシュタインの相対性理論の方に興味があり、手塚治虫の漫画で読んだことでハマってしまい、宇宙論を専門にするようになったといいます。
私は、相対性理論は一般も特殊も何も理解していないので、アインシュタインといえば、雲の上の大天才だと思っていましたが、そのアインシュタインでさえ間違うこともあるんですね。その一つ。アインシュタインは、「宇宙は静かで大きさは変わらない」と宇宙定数理論を考えていたのです。が、その後、ハッブルらの観測によって、宇宙は膨張していることが判明しました。その反対で、アインシュタインが一般相対性理論として「予測」していたブラックホールは、その後すぐにドイツ人物理学者によって発見され、2019年には、イベント・ホライズン・テレスコープによって人類初めてブラックホールの撮影に成功しています。
このように、宇宙は、まず理論が先行して、観測によって証明されることによって解明されてきましたが、近年では、機器が精巧になったお蔭で、観測が先行して解明されることが多いようです。
さて、宇宙は、このように、訳が分からないダークマターだの、地獄の奈落の底のようなブラックホールなどで出来ていて、何んともおっとろしい世界のように感じてしまいますが、実は光明もあります。この本に沢山書かれているたった一つだけ、取り上げますと、非常に強力な重力場を与えている環境は、モノを高速で回転させることが可能なので、例えば、ブラックホールをエネルギーとして活用する道があるというのです。「うまく軌道を計算し、利用することで、一種の発電所のように、ブラックホールの重力をエネルギーに変換することができるかもしれません」と著者の高水氏も書いています。エネルギー問題の救世主です。
なるほどねえ。確かに、いつかは地球は消滅し、そこに棲む生命体も絶滅する運命かもしれませんが、生きている限り、何とか努力したり、改良したり、問題を解決したり、発展させたりするのが、生態系ピラミッドの頂点に立つ人類の役目なのかもしれません。
万物は流転し、いずれ、全てのものが無に帰することが真理ならば、嫉妬や憎悪や怒りや迷いといった負の感情もなくなることでしょう。別に齷齪したり、虚無的になったりする必要はないのです。