太宰治没後60年

私は、基本的に花なら何でも好きです。

 

春は菜の花や桜やチューリップ、夏は向日葵、秋は秋桜、冬は寒椿…ありふれていても、季節を感じ、生きていてよかったと思います。花は人を裏切りませんからね。

花というといつも思い出す逸話があります。

中原中也が、酔って、太宰治にからみます。

「おめえは、いってい、何の花が好きなんだよぉ?」

中也と太宰は、昭和初期、同人誌「青い花」の同人でしたから、その会合か飲み会の席だったのでしょう。

太宰は多少、どもりながら答えます。

「も、も、も、桃の花…」

顔を真っ赤にして俯いています。

「なあにぃー!?桃の花だとー!?」 中也はからみます。

「だから、おめえは、軟弱だって言われるんだよ!」

この最後の「軟弱」が、「女々しい」だったかもしれませんが、とにかく、罵倒された太宰は何も答えられなかったようです。

私は、その場に同席したわけではないのに、まるで一緒にいたかのような錯覚に襲われることがあります。

花を見るといつもこの逸話を思い出して、一人でニヤニヤしてしまいます。

普通、一番好きな花に「桃の花」を挙げる人はいません。太宰の天才的触感を感じてしまいます。

今年は太宰没後60年、来年は生誕百年。久しぶりに読み返しています。

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