「ジャニーズ問題」について、ワシも考へた

 私は某マスコミで、もう20年以上昔の話ですが、10年近く芸能担当記者をしたことがありますので、今年一番のスキャンダルになっている「ジャニーズ問題」について、何か、一家言を持たないと言えばウソになります。ただ、あまりにも正直なことを書いて、このブログが炎上したくはないし、端(はな)からガーシー元議員のように目立ちたくもありません。あくまでも、低姿勢 keep low profile で、このブログも長く続けられたら、と思っているからです。

 最初にお断りしなければならないことは、事件の核心部分である故ジャニ―喜多川氏による10代の少年に対する性虐待の現場を見たわけではないのですが、当時、記者の間でも噂として広まっていたという事実があります。しかも、誰も糾弾しようと、取材しようとした芸能記者は皆無で、「芸能界とはそういうもの」という暗黙の了解が蔓延っていました。

 「芸能界とはそういうもの」とは、端的に言いますと、芸能プロダクションの「社長」さんの中には小指がなかったり、裏社会とのつながりを暗示するような「空気」もありました。日本の芸能史は、白拍子や角兵衛獅子や瞽女など差別された人たちによる伝統芸能から始まり、歌や踊りや芝居興行は、既に江戸時代には「地回りの顔役」がいて全国興行のシステムも確立していたという説もあります。これ以上書くと何かと差し障りがありますので、やめておきます(苦笑)。

 兎に角、芸能界は、その華やかさで目を奪われるため、その裏か内部で関わったか、取材したことがある人でないとなかなか実体が分からないと思います。ジャニーズ問題が大きくなって、「見て見ぬふりをしてきた」テレビ局のプロデューサーらがつるしあげになっている風潮に今はなっていますが、彼らは特別なことをしたわけではなく、同じ地位に就いた人なら誰でも、恐らく100人中100人、見て見ぬふりをしてジャニーズ事務所のタレントを使っていたはずです。経済団体のお偉方さんたちは、自分たちが火の粉を浴びたくないものだから、眼をむいて、「児童虐待」をアピールしながら、スポンサーからの撤退を次々と表明していますが、私から言わせれば同じ穴のムジナです。財界人のお偉方の人なら、ジャニー喜多川氏の噂を知らなかった、と言える人はいないんじゃないでしょうか。それぐらい噂は広まっていましたから。

 何しろ、私がジャニ―喜多川氏の「噂」を知ったのは、1970年代で、まだ私が中学生か高校生の頃でした。当時、人気絶頂だったフォーリーブスの北公次さんが週刊誌などで盛んに「暴露」していたのです。経団連の十倉雅和会長(73)も経済同友会の新浪剛史代表理事(64)も私と同世代ですから、知らなかったはずはないと思っています。

 そこで、一家言を持ちたいのですが、確かにジャニ―喜多川氏の蛮行は、事務所の新社長に就いた東山紀之氏が言うように「鬼畜の所業」であることは間違いありません。そういう意味で被害に遭われた方には一刻も早く救済の手を差し伸べてあげてもらいたいものです。ジャニ―喜多川氏は、人間の功罪で言えば、「罪」の方が遥かに大きかった人でした。

 しかし、「功」がゼロかと言えばそうではありません。彼しか持ちえない独特の美意識と観念が、「売れる」タレントを発掘する才能として開花したことは間違いないからです。彼がスターに育て上げたタレントは、5人や10人ではなく、何十人、何百人です。これと比例するかのように、性被害に遭った少年たちの数も5人や10人ではなく、何百人にも及びました。確かにおぞましい事件ではありますが、独特の美意識を持った彼だからこそ犯した罪であり、タレント発掘の能力とは表裏一体です。

 別に、ジャニ―喜多川氏の肩を持って肯定するわけではありませんが、彼だからこそ発掘できたタレント集団でした。彼のお蔭で世に出て、たっぷり恩恵を受けた人もいました。彼亡き後は、これまでのスターと比べると格が落ちるのではないかと思っています。

 何と言っても、日本の芸能界は「事務所」が力を持ちます。やれ、人気が出たということで「独立」したりすると、テレビ出演をほされたり、邪魔されたりすることは多くの人の耳に入っていると思います。だから、大スターになっても多くのスターは事務所を辞めないのです。「平成の小早川秀秋」と言われた木村拓哉さんもジャニーズ事務所を辞めなかったし、日本で一番売れていると言われる明石家さんまも吉本興業を辞めることなど一度も考えたことはないんじゃないでしょうか。

 逆に言うと、「何でこんなつまらないタレントが売れてるのか?」と思って、調べてみたら、必ずと言っていいぐらいそのタレントは、芸能界を牛耳っている大手事務所に所属しているのです。テレビ局というものは、長屋の大家さんみたいなもんで、空いた時間帯を番組制作会社や大手の芸能事務所に丸投げして売っているようなものなのです。だから、まさに媒体であり、権限も、思われているほどないのです。

 でも、芸能界について、あまり知り過ぎると、つまらなくなりますよ。むしろ、何も知らないで、キャーキャー言って騒いでいた方が幸せですよ。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

旧《溪流斎日乗》 depuis 2005 をもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む