これでも、私は、いわゆるマスコミ業界に40年近く棲息して、禄まで食んで来ましたので、業界の動向は気になります。特に新聞業界は。
そしたら、自分が悲観的に想像した以上に、今はとんでもない事態に陥っていたんですね。畑尾一知著「新聞社崩壊」(新潮新書、2018年2月28日初版)を読んで深い、深い溜息をつきました。
著者は長年、朝日新聞社の販売部門を勤め上げた人で、2015年に60歳の定年で退職されたようです。「花形」と言われる記者職ではないため、傲岸不遜と産経出身の高山正之さんが週刊新潮で批判するような朝日タイプではなく、細かい数字を列挙して冷静に分析し、経済学者のような説得力があります。
冒頭で、いきなり、新聞読者はこの10年間で25%減少した事実を明らかにします。
2005年=5000万人だった読者が
2015年=3700万人と1300万人減少。つまり、25%も減少。
さらに、10年後は最低でも30%減少すると予想されることから、
2025年=2600万人。実に、20年間でほぼ半減、いやそれ以上大幅減少する可能性があると指摘するのです。
このほか、2015年は、若い人はともかく、最も新聞を読むべきはずの50代が40%未満に落ち、半分以上が新聞を読まないという衝撃的な事実が明らかになりました。道理で電車の中で、スマホゲームに熱中する50代を見かけるはずです。
新聞協会のデータによると、2005年(96社)の売上高2兆4000億円から、2015年(91社)は、1兆8000億円と25%減少。
2000年に読売1020万部、朝日830万部だったのが、2017年は、読売880万部、朝日620万部と激減です。
まさに「新聞社崩壊」という衝撃的事実です。
畑尾氏はズバリ、全国紙の中で朝日、読売、日経の「勝ち組」は生き残れるかもしれないが、毎日、産経の「負け組」は危ないと予測しています。つまり、倒産するということでしょうが、新聞メディアがなくなったら、社会的にどんな弊害が起きるか後で列挙することにして、著者は新聞衰退の根本的原因を三つ列挙してます。それは、
(1)値段の高さ
(2)記事の劣化
(3)新聞社への反感
です。
この中で、最も注目したいのが、(2)の記事の劣化。かつて、新聞社の入社試験は狭き門で、優秀な人材しか集まりませんでしたが、今では、業界の将来を悲観してか、優秀な人材は他の業種に移行し、新聞記者になるのは、出来損ないのコネ入社か、昔と比べて二流、三流の人材しか集まらなくなったようです。そうなれば、当然、記事も劣化するはずですなあ。。。
(3)の反感は、勿論、誤報問題が影響しているでしょうが、特に朝日新聞の記者は傲慢で、マンションの理事会に出ないで自己主張するとか、周辺住民の受けが悪く、その反発から購読をやめてしまう人がいるということで、私もそういう話は耳にしたことがあります。当然、その記者にはCS(顧客満足度)感覚などなく、危機意識は全くゼロです。
新聞衰退の危機に対して、畑尾氏は、色々と対策や打開策を提案していますが、果たして功を奏するか疑問ですね。
事情を知らない若い人は、別にネットニュースを見れば十分という人が多いですが、信頼できるネットニュースは、元をただせば、新聞社や通信社のニュース。「源流」のここが崩壊すると、時の権力者に都合のいいニュースか、ニュースに見せかけた企業のコマーシャルか、素人が噂を発信した裏付けのないフェイクニュースばかりになってしまうでしょう。
新聞社の本来が持つ権力を監視する機関が減れば、不都合な真実は隠され、まわりまわって、庶民に不利益が蒙ることになるわけです。
まあ、そういう世界を危機意識のない無学の市民が望めば、確実にそうなるはずです。
最近のクオリティーペイパーと自負する新聞も、広告の品質がかなり落ちてきました。昔なら絶対にオミットしていたサラ金まがいの広告や、福田財務事務次官(58)が泣いて大喜びしそうな恥ずかしい精力剤の広告が堂々と載るような末期症状です。
新聞社崩壊は、著者の予想より早く来てしまうのかもしれません。
若い頃、旧情報産業(マスメディア)は新情報産業(ICT)にリプレースするだろうとICT企業に就職したが、日本企業が主導権を握れずイノベーションの主体は殆ど米国企業だった。現在は戦略経営コンサルテーションで生業を維持したいが、日本では先ずコーポレートガバナンスを啓蒙する必要がある。マスメディアは記事データベースが重要、グローバルイノベーションマップ作成に役立つ質の良い情報を蓄積するのがこれからのマスメディアの重要な仕事だと思う。ちゃんと物事整理すれば2-3年先まで予測できるよ。質の良い正確な情報が絶対条件だよ。