大学は出たけれど、定年になって大学に入り直す男を描く壮大な家族劇「終わらなかった人」(「日の入り」連載の外館牧子原作のベストセラー小説が原作)が、巨匠小田安二郎のメガホンで、活動写真が撮られたそうですね。主演は、猫ひろしと黒樹瞳。華族出身の入江たか子が友情出演。6月から有楽町の邦画座を始め、全国一番館でロードショウ公開です。
築地・中村家のランチ弁当850円(京都「宮武」の日替御膳880円に対抗しました)
花の都、東京では、銀座の柳も春風に揺られている今日この頃です。
巷の弐番館ではニュース映画がかかってます。
「満洲某重大事件」のニュースの後、「車は作らない」柳瀬元秘書官が「記憶にございません」と能面のように表情一つ変えない答弁で、能吏ぶりを発揮。「私はあなたと違うんです」福田元事務次官は「全体的に見れば私はやってません。だから血税が原資の5000万円の退職金は返しません」と、高らかに宣言しています。
扨て、銀座の柳通り。
ナウいアヴェックが、モボ、モガスタイルで、ミルクホールで逢引を重ねてます。ジルバを踊って、リキュルをあおり、すっかりいい気分。でも、当時はセブンイレブンがなかった!
ソフト帽を被った彼の名前は白澤明。近くの交詢社内にある時事新報の記者。十五代目羽左衛門に似たハンサムな顔立ち。真っ赤な口紅の彼女の名前は原田節子。今はときめくエレベーターガール。今売り出し中の女優原節子似の美人さんだ。
「なあ、節ちゃん。今度の休みはキネマに行かないか。小田安二郎の『終わらなかった人』がかかるんだよ」
「へえ、題名だけだと、つまんなそうね」
「新朝社の『日の入り』に連載された小説が原作なんだよ。大学は出たけれど、定年になった田代宗助が主人公…」
「何か、余計、つまんなそう。いっそ、小田急で逃げましょか」
「節ちゃん、それじゃまるで、『東京行進曲』じゃないか」
「まあ、明さんもよく流行り唄をご存知のこと。それより、今、霞ヶ関で流行っている『接吻はらはら』とかいう遊び、どんなのか、教えてくださらない?『万朝報』のゴシップ欄に出ていたわ」
「だめだめ、子どもがそんなことに興味を持っちゃだめ。美人薄命だよ」
「なあに、それ!? チョベリバ」
「チョベリバ?」
「卍まんじ」
「節ちゃん、余計、分かんないよ」
「えへへへ、明さんも、天保生まれだから、水滸伝しか知らないんでしょ」
「あに言ってるんだか…」
赤塚公園のニリンソウ自生地
若い二人には明日がある。熱血指導マスターの掛け声で、二人は、銀座・交詢社通りの人を押し分け、搔き分け、夕陽に向かって走っていくのでした。
おしまい