流行を追うことをやめること

「平成の絵師」山口晃さんの描く世界には、鎌倉時代の人や江戸時代の人や、昭和初期の人らが同じ平面に何ら抵抗感なく一緒に登場したりします。

本人にその理由を聞くと、「自分は別に鎌倉時代や江戸時代の人を書いているつもりはない。全部、現代人として書いている。例えば、今、街中を歩いていても、昭和40年代風のお化粧をしているオバサンがいたりする。若い時の流行で終わってしまっているんですよね」と、答えてくれたことがあります。

このことは、前にもこのブログで書いたことがあるかもしれませんが、最近、山口さんの言っていることは、ありえることで、「突飛じゃないなあ」と痛感させられることを二つ経験しました。

 

まず、一つは風景です。私がよく行く散歩コースです。そこでは、新都心の超高層ビルが見え、同時に、昭和三十年代か四十年代に建てられた古い瓦葺の民家や平成の初めに建設されたマンションや2階建ても見えるのです。

これこそ、玉石混交です。鎌倉時代から昭和初期まで同席する山口さんの描く世界には及びませんが、現実でもこうして、ありえるのです。

 

もう一つは、若い多感な時代で、流行を追うことを終わってしまう、という例です。

バンド仲間の白川君のことです。音楽談義をしていたら、「アンプログド」を知らないというのです。「え?」と思いました。エリック・クラプトンがMTVで世界中にヒットさせて一世を風靡した「音楽ジャンル」です。今、CDを見たら、1992年とありました。もう16年も昔ですから、「アンプラグド」と言えば、アンプを通さず、アコースティックの演奏する音楽のことだと定着しています。

 

それを白川君は知らないというのです。

彼が今でも聴く音楽は、ビートルズの他にディープ・パープルとマウンテンだと言います。彼が流行に敏感だった高校時代に聴いた音楽です。でも、そこで終わってしまっているんですね。今でも彼のアイドルは天地真理なんですから(笑)

 

電車に乗ると、様々な世代の人と乗り合わせます。皆、現代人の格好をしていますが、心の中は、昭和初期だったり、1970年代だったりしているんだなあ、と思うと、感慨深くなってしまいました。

画人と文人

お約束通り、谷中のアトリエまで、画家の山口晃さんに会いに行ってきました。

 

彼は、私から見ると、明らかに天才なのですが、天才にありがちな傲岸不遜な態度が全くなく、大変謙虚で腰が低く、驚くほど繊細なやさしい人でした。私はすっかり、心酔してしまいました。

画家というのは、非常に孤独な作業らしく、どうやら奥さんはいらっしゃるようなのですが、1日中、アトリエにこもって、誰とも口もきかない日もあるそうです。

山口さんは、西洋の油絵に日本の伝統的な大和絵を取り入れた創始者みたいな人です。武者絵を描いても、ちょんまげを結った戦国時代の武将が、首から頭が馬ながら胴体はハーレーダビッドソンのようなバイクというへんてこりんな乗り物に乗り、抱えている武器も、携帯用のストリンガーミサイルみたいなものを持っているのです。

「六本木昼圖」は六本木ヒルズにかけているのですが、その中には、明治の文明開花期の建物もあれば、江戸時代の建物もある。人もちょんまげを結った江戸時代の人も歩いているし、昭和初期のモガモボもいたりする、全く初めて見る方は度肝を抜かれることでしょう。

何でこういう絵が描けるか、聞いたところ、山口さんは、ちょんまげを結っていても、現代人のつもりで描いているというのです。それは、ちょうど、今、街を歩いても、もう何十年も昔の化粧スタイルをしている女性をみかけたりすることと同じこと。それは、つまり、その女性は、若い時の化粧方法で止まってしまっているからなのです。

だから、心持として、ちょんまげ時代と殆んど変わらない心因性を持っている人が現代でもいるはずだという信念で描いているようなのです。

山口さんは、そこまで、言葉では表現しませんでした。いくら天才だといっても、画人なので、言葉に詰まると、紙を取り出して、絵を描きながら一生懸命説明しようとするのです。

私は、自称「文人」を気取っていますので、言葉で表現できる術を知っています。これは、長年の読書生活と執筆生活で培われたものだと思っています。

もし、モーツァルトにインタビューできたら、彼は言葉に詰まったら、どういう表現をしたことでしょう。恐らく、その場で、ピアノを弾いてみせたり、鼻歌を歌ったりして「音」で表現したことでしょうね。

想像しただけでも、楽しくなりました。

山口晃展に行ってきました

 知床

東京の練馬区立美術館に「山口晃展 今度は武者絵だ!」を見に行ってきました。

 

私は、単なるおっさんなのですが、同世代でこれほど、美術館や博物館や映画館や劇場に行ったりしているおっさんはいない、と自負しています。

 

山口晃さんという画家は、2,3年前に「芸術新潮」という雑誌で初めて知りました。六本木ヒルズの絵なのですが、大和絵風の鳥瞰図でご丁寧に霞雲もたなびいています。目を凝らしてみると、細密画で、六本木ヒルズという現代の象徴の建物に混じって、江戸や室町時代の建物もあり、ちょんまげを結った人や昭和三十年代のファッションのサラリーマンもいて、玉石混交状態です。

 

何じゃあ、これは!

 

というのが、第一印象でした。それにしても、画家のマニアックというか、ファナティックな描写に、がツーんと頭を殴られたような衝撃を受けました。時代も空間も全く超越して、同じ平面に描かれていたのです。彼を「平成の絵師」とも「時代の旗手」とも言う人がいますが、本人は「単なるお絵かき少年」と淡々としたるものです。

 

彼は本物だ!と確信しました。

 

久々に所蔵したくなるような作品に出会いました。

 

彼は現代アートの旗手で、今や引っ張りだこです。先日、NHK教育の「トップランナー」にも出演し、人気は急上昇。練馬美術館での本人出演の「アートトーク」も立錐の余地もないほどの超満員だった、ということがネットのブログに出ていました。

 

山口晃さんのことをもっと知りたければ、今は便利な時代で、ネットで検索すれば、分かると思います。でも、本物の作品はやはりみるべきですね。彼の細部での技巧に目を瞠らされます。

 

今度、彼に会って、お話を聞いてみようかと思います。