もし、貴方がこの渓流斎ブログの長年の愛読者様でいらしたら、ここ数日、何で、違う話題なのに、急にネアンデルタール人やホモ・サピエンスが出てくるのか不可思議にお感じなったのではないでしょうか?
はい、更科功監修「人類史の『謎』を読み解く」(宝島社、2023年8月5日初版)を併行して読んでいたからです(笑)。この本は、人類学の最新の学説を表や写真やイラストを取り入れて分かりやすく解説した好著です。高校か大学の副読本にしてもおかしくありません。こんな情報が1320円で手に入るなんて安いもんですよ。
私が急激に人類史にのめり込んだのは、昨年10月に読んだジェレミー・デシルヴァ著、赤根洋子訳「直立二足歩行の人類史」(文藝春秋)がきっかけでした。えっ?こんな話聞いたことない。アウステラロピテクスは知っていても、サヘラントロプス・チャデンシスって何だ!…てな具合でした。それからは人類学、進化論、宇宙論にまではまってしまったことは、このブログの読者ならご案内の通りです。この本を監修している分子古生物学者・更科功氏の著書「禁断の進化史」(NHK出版新書)についても、このブログで取り上げました。
人類の進化史研究が飛躍的に進歩したのは、技術的に核ゲノムの解析まで可能になったからです。それが西暦2000年のことだといいますから、これまでの古い学説が次々と書き換えられるようになったのはつい最近のことだったのです。古生人類の化石の新発見に次ぐ新発見は、1970年代で学業を終えた旧世代の学徒は全く知らなかったのは当たり前の話だったのです! 20世紀後半までは、母親から子に遺伝するミトコンドリアのDNAの解析まで辛うじて解析できたのですが、それが限界でした。核ゲノム(DNAの中の遺伝情報の全て)の解析で両親から子へ遺伝子まで分かり、それが進化史研究の飛躍的発展につながったわけです。
例えば、現生人類であるホモ・サピエンスは30万年前にアフリカで出現しましたが、その前の43万年前にホモ・ネアンデルターレンシス(ネアンデルタール人)が誕生していました。ネアンデルタール人は4万年前に絶滅しましたが、それまで同時代人として地球上で生きていて、何とホモ・サピエンスとも交雑していたというのです(最新の学説ではデニソワ人との3者が共存した時代があり、お互いに交雑したともいわれます)。核ゲノムの解析で、現生人類の中にネアンデルタール人の遺伝子が約70%残っていることが分かったといいます(ただし、一人ひとりの個人では約2%)。ネアンデルタール人とホモ・サピエンスとの交雑が分かったのは2010年頃といいますから、これまた、本当につい最近のことですね。
ついでながら、この本の監修者である更科氏は、ホモ・サピエンスの脳の容量は約1350ccに対して、ネアンデルタール人は1600ccだったことなどから、ネアンデルタール人がホモ・サピエンスよりも知能的にも体力的にも劣っていたというこれまでの学説に疑問を投げかけ、絶滅するのが、ネアンデルタール人ではなく、ホモ・サピエンスの方だったとしても「何の不思議もない」とまで発言しています。(更科氏は、ホモ・サピエンスが絶滅しなかったのは子沢山だったためで、ネアンデルタール人が絶滅したのは少子だったからではないかと推測しています)
この本に書かれている「新説」は、私自身、これまで人類史関連の本を結構読んできたので、生意気ながらあまり驚くことはありませんでしたが、図解入りで整理して解説してくれるので、頭に入りやすい。多くの人にお勧めしたいぐらいです。それに、「学説」は色々ありますから、何を信じたら良いのか分からなくなることがありますが、この本は、「これが最新学説だ」ということで提示してくれます。
例えば、同じ霊長類の生物の中で、現生人類に繋がるヒトとチンパンジーが分岐して進化したのは、この本は約700万年前であることを提起してくれます。この700万年前説を否定する学者もいますが、それだけなくても、人間が猿から進化したことを真っ向から否定するキリスト教聖書原理主義者も現代にはいるわけです。だから、原理主義者さんから見れば、この本や進化論は発禁本ということになると思われます。
もう一つ、この本が読み易いのは、進化の過程を「初期猿人」「猿人」「原人」「旧人」「新人」に区分けして解説してくれることです。国際学会では、もうこんな区分けはしないそうですね。でも、我々のような旧世代にとっては大変馴染み深い区分なので理解が増すことが出来ました。(700万年前の初期猿人のサヘラントロプス・チャデンシスの復元写真が掲載されていますが、これは猿そのものですね)
◇日本人のルーツとは?
本書の終わりの方では、日本人のルーツにまで迫っています。ホモ・サピエンスが日本列島に到達したのは4万年前としています。つまり、地球46億年の歴史で、わずか4万年前まで日本列島には一人も現生人類はいなかったのです!主にサハリン経由で北海道へ、そして、台湾、沖縄経て九州へと2ルートあったといいます。彼らが1万5000年間続いた縄文人となったのでしょう。だから、縄文人の遺伝子がアイヌと琉球人に色濃く残っています。その後も、大陸から朝鮮半島を通しても渡って来たりしますが、それが稲作などを伝えた弥生人です。弥生時代は紀元前300年頃からとなっていますが、渡来人はその前からかなり多くやって来たようです。この本の最新学説では、現代日本人は、弥生人が縄文人を征服したわけではなく、混血によって同化し、その後、古墳時代になって、中国の内乱(4〜5世紀の五胡十国時代)を避けて日本列島に渡ってくる人(政治亡命者?)がかなり多かったことから、この古墳人とも混血していったといいます。
興味深かったことは、日本人に多いミトコンドリアDNAの分布を解析すると、中国東北部と朝鮮半島と東南アジアに多く見られたと言います。
吃驚です。
恐らく「大炎上」するかもしれませんが、中国東北部とは旧満洲のことです。先の世界大戦で、日本人が朝鮮と満洲と東南アジアに進出(というより侵攻)したのは、ホモ・サピエンスとして、故地を目指した(奪回?)のではないかと錯覚してしまいました。
いえいえ、政治的意味はありません。単に自然科学の人類学からの推測です。