もうここ1カ月以上も、ウクライナ情勢が懸念されています。
ロシアがウクライナに侵攻すれば、第3次世界大戦が勃発するのではないか、と言う評論家もいるぐらいです。
我々、日本人は米国支配下の「西側」諸国に属しているせいなのか、メディアの翻訳報道によって、悪いのはロシア人だと一方的に信じ込まされています。私自身も、先の大戦で、日ソ中立条約を一方的に破棄して60万人もの日本人をシベリアに抑留し、いまだに北方領土を返還しないロシアは好きになれませんから、その通りだと思っていました。でも、実体はそんな単純なものではないようです。
「ロシア=悪」「西側=正義」の図式を考え直すきっかけとなったのは、先日、行きつけの東京・銀座のロシア料理店に行った時、そこのロシア人の女将さんに話を聞いたからでした。その店は御主人が日本人で調理と会計を担当し、そのロシア人の奥さんは料理を運んだり給仕をしたりしています。人気店なのでいつもお客さんがいっぱいで、二人とも息つく間もなく、てんてこ舞いです。
ですから、あまり話しかけるのも気が引けていたのですが、今回はウクライナ問題のことをどうしても知りたかったので、帰りの会計の際に、御主人に聞いてみたのです。
「奥さんはウクライナ人ですか?」
「いや、ロシア人ですよ」
「今、大変ですね」
「本来、ロシア人もウクライナ人もほとんど一緒ですから、戦争になるわけないんですけどねえ」と御主人。
そこで、私はロシア人の奥さんに向かって、半ばジョークで、
「戦争しないでくださいよ。プーチンさんに伝えてください」と忠告してみました。
すると、奥さんは流暢な日本語で、
「戦争したいのはアメリカ。ロシアは戦争なんかしたくありませんよ」と反論するではありませんか。
なるほど、普通のロシア人の「庶民感覚」を教えてもらった気がしました。
ロシア側からすると、悪いのは米国ということになります。ウクライナのコメディアン出身のゼレンスキー政権が、ロシアを仮想敵国とする北大西洋条約機構(NATO)に加盟しようとしたのがきっかけです。これでは裏庭に敵が土足で踏み込んできたことに他ならなくなります。もっと言えば、首筋に匕首(あいくち)を突き付けられた感じか? プーチン政権も「仕方なく」、ウクライナとの国境付近に15万人規模の軍部隊を集結させ、米欧にNATO不拡大を要求せざるを得なくなった、というのが、ロシア側の主張になります。
情勢を冷静に見れば、ウクライは、親ロシア武装勢力が支配する東とウクライナ民族意識が強い西側と分裂している状態です。2014年にウクライナのクリミア半島がロシアにあっさりと併合されたのも、ロシア系住民か、シンパが多かったからでしょう。
要するに、今回の問題は、人口約4500万人のウクライナが、天然ガスなどの資源も含めた経済的基盤と軍事的支援を欧米にするか、ロシアにするか、選択の問題だと言えるでしょう。覇権主義の問題です。でも、ウクライナはどちらかを選ぶことなく、曖昧な玉蟲色的な選択にすることはできないでしょうか。
戦争はいつの時代も「正義のため」「自衛のため」「自存のため」為政者によって始まります。ロシア人も米国人も「戦争はしたくない」というのが庶民感覚なら、為政者は平和的な外交で決着を付けるべきです。
戦争になれば多くの人が犠牲になります。いくらロシア嫌いの日本人でも、ドストエフスキーやトルストイ、それにチャイコフスキーを愛してやみません。それは、世界でも類を見ないほどです。将来のドストエフスキーにでもなれたかもしれないロシアやウクライナの若者が戦争によって犠牲になってしまっては居たたまれません。
為政者の皆さんには、戦争だけは回避してもらいたい。