ポンペイ
佐藤優著『獄中記』の中に、彼が会った人の中で最も語学に精通している人が登場します。ロシア科学アカデミー民族学・人類学研究所のセルゲイ・アルチューノフ教授で、学術論文を書いたり、講演できるレベルに達しているのが、ロシア語、英語、日本語、ドイツ語、フランス語、グルジア語、アルメニア語。読むだけなら、ギリシア語、ラテン語、中国語、ヒンディー語、イヌイット語など40ヶ国語もできるそうです。教授が最初に本格的に勉強した外国語は日本語で、アイヌ語にも通暁して、研究書を2冊も出しています。
アルチューノフ教授は「語学などというのは、覚えなければならないのは2つだけだ。文法と単語だ」とおっしゃっているそうです。
文法と単語ー。確かにその通りかもしれませんね。でも、これだけでは済まないことも少なくありません。
私はまだ、英語でひいこら言ってますが、同じ単語やイディオムなのに、意味がまるっきり正反対になるものがあり、戸惑ったことがあります。
例えば、cofidence は、「信頼」という意味で、中学生でも分かりますが、 confidence man となると、信頼できる人かと思ったら、まるっきり逆の「詐欺師」になってしまうのです。また、sophisticated は、通常は「洗練された」とか「高級な」という意味ですが、時たま「世間ずれした」とか「すれっからしの」という正反対の意味になってしまうのです。
他に例を挙げると、
distraction は、「気晴らし」が普通ですが、「注意力散漫」という意味もあります。 outrageousは通常、「無礼な」「極悪な」というマイナスのイメージで使うのに「素敵な」「見事な」という逆でも使います。 awesomeも同じように「ひどい」というネガティブな時に使いますが、「人が良い」という時にでも使われるので注意しなければなりません。
as luck would have it となると、「運良く」と「運悪く」の二つのケースで使われます。
There is nothing quite like~ というのも「~ほど素晴らしいものはない」と「~ほどひどいものはない」とまるっきり逆の意味で二通り使われてしまうのです。
もちろん、これらは、文脈の中とか、相手が話す表情で判断するしかありません。逆接で言ったり、皮肉で言ったりした場合は、ますます複雑になってしまいます。
しかし、これは、英語だけの問題かなあ、と思ったのですが、日本語にも似ている表現が思い浮かびました。
「いい加減」です。
本来なら、良い意味で使っていたのでしょうが、現在では「だらしない」といった意味で、ネガティブに使われることの方が多いでしょう。これらの違いは、その国の生活の中に溶け込まないとなかなか分からないものです。アルチューノフ教授は、とてつもない人ですね。