角岡伸彦著「ピストルと荊冠」は深く深く考えさせられました

哈爾賓駅前 Copyright Par Duc Matsuocha gouverneur
 
 京都にお住まいの京洛先生からの「是非とも読むべき必読書ですよ」というお勧めで、角岡伸彦著「ピストルと荊冠」(講談社・2012年10月17日初版)を読了しました。

 元神戸新聞記者でノンフィクション作家の手によるもので、大変深く取材されて読みやすいのですが、とてつもない内容でした。

 部落解放同盟大阪府連合飛鳥支部長であり、広域暴力団山口組系柳川組傘下の金田組(金田三俊組長=別称サンズイさん)組員でもあった小西邦彦(1933~2007)という人物の評伝です。

 1970年代から2006年までの長きに渡って、同和対策の旗手として、時には強面の暴力団の印籠と名声をチラつかせて、行政(大阪市役所)と金づる(三和銀行)を利用して、不動産転がしと金貸し業と口利き、就職斡旋などで、一説には100億円をも「個人資産」として動かして、毎晩のように大阪一の繁華街北野新地で豪遊するなど、月に1000万円も散財し、その一方で、老人ホームを建てたり、障害を持った長男が生まれたことから、施設をつくったりする慈善運動家の一面も併せ持つ複雑怪奇な人物です。

 最後は、大阪の西中島駐車場の売り上げを横領したとして、逮捕(業務上横領と詐欺罪)され、一審で懲役6年の実刑判決を受け(いわゆる飛鳥会事件)、二審に控訴準備中に入院を余儀なくされ、74歳で病死。

 旧校庭 Copyright Par Duc Matsuocha gouverneur

 私は、1986年から90年にかけて、仕事で大阪に住んでいたことがありましたが、恥ずかしながら、この小西邦彦さんなる人物は全く知りませんでした。まあ、知っていたら、やばいのかもしれませんけど…。

 この本で、一番驚いたことは、この方はかなり手広く不動産業をやっていたようですが、1985年に山口組の4代目竹中正久組長が、大阪府吹田市江坂の愛人が住むマンションで、ヒットマンによって暗殺されますが、このマンションの持ち主(名義)が何と、この小西さんだったんですね。その後、山口組内での内部抗争(中野会系による宅見勝若頭暗殺事件)の余波で、彼自身も命を狙われたりします。

 いずれにせよ、行政にしても大手銀行にしても、持ちつ持たれつの関係で、小西邦彦組員は部落解放同盟の一支部長ながら、スキャンダルもみ消しから、立ち退き処理、地上げなど何でもこなす心強い「紛争解決屋」(トラブルバスター)になっていたわけです。
 旧校門 Copyright Par Duc Matsuocha gouverneur

 例によって、換骨奪胎で引用です。

 ●飛鳥会事件の舞台となった西中島駐車場の売り上げは一日平均60万円。1年間で2億2000万円。諸経費を差し引いて、7500万円が小西の懐に入った。このうち、金田組には組長は亡くなった後も、年間2400万円上納せざるを得なかったが、それでも、年間5000万円余が小西の懐に入った。

 ●2006年5月8日、72歳の小西は、30代の愛人のマンションで、逮捕された。逮捕されるまでの18年間に駐車場の収益から少なくとも18億円を着服。掠め取った金のほとんどは、小西本人と家族が散財した。妻と二人の娘の1カ月のカード請求額が300万円から500万円に上った。妻は980万円もするカルチェの指輪を購入していた。大学生だった二女には650万円のベンツがプレゼントされた。

 ●健康保険証を違法で発行したとして逮捕された部落解放会館の館長は、小西の口利きで館長になった高校卒の市役所職員だった。本来なら、市幹部の課長級である館長には、高卒者はなかなかなれなかった。2006年の時点で、大坂市役所の全職員4万5000人中、課長級は1200人しかいない。3%前後の狭き門である。また、課長級以上で退職した場合、当時は天下り先を紹介された。

 ●検察の冒頭陳述は、警察の取り調べを参考に作成されている。小西はなぜ、部落解放運動に参加したのか、その動機について「暴力団構成員よりも金儲けがしやすく、絶大な権力が手に入るなどと考えて」という文章が入った供述調書にサインした。しかし、ありえない話だ。それでもなぜサインしたのか?それは、障害を持った息子を逮捕するぞという警察の脅しに乗ってしまったからだった。

 著者は「あとがき」の中で、「小西と同じ立場の部落出身者である私は、基本的に出身者の不祥事は取材・執筆したくなかった。いってみれば、”身内の恥”である。できれば目を背けたかった」と告白しております。

 それでも、この著書を世に送り出したことについては、「私は活字で小西邦彦の銅像を建てたつもりである。…小西は死んだ。だがその存在を私たちの記憶から消去してはならない。人間の欲深さと奥深さを再認識するためにも、この面妖な銅像を凝視する必要があるのではないか」とまで書いております。

 私もこの意見に賛同しまして、渓流斎ブログに記すことにしました。行政と銀行と暴力団との密接な関係。警察と検察の脅迫まがいの「作文」の実態などは、非常に、非常に勉強になりました。

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