「資本主義という謎」の衝撃

大宮盆栽村 Copyright par Keiryusai

エコノミスト水野和夫氏と社会学者の大澤真幸氏による対談「資本主義という謎」(NHK出版新書)を読み始めております。

初版が2013年ということで、もう4年も前の本ですが、久し振りにエキサイティングな本で、知的好奇心を満足させてくれます。

この本は、「どうせお前さんには社会科学の知識が足りないだろうから」という友人の本山君が貸してくれたもので、当初は全く興味がなかったのに、読み始めるとグイグイ引き込まれてしまいました。「食わず嫌い」では駄目ですね(笑)。

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この本が面白いのは、あの共産主義であるはずの中国共産党まで染まった資本主義経済とは一体何なのか、その歴史的背景を担保にして明快に分析してくれていることです。

水野氏は、フェルナン・ブローデルやカール・シュミット、大塚久雄らの著作を引き合いに出して、大変説得力のある論理を展開しています。

特に、印象的なことは、資本主義の誕生と成長にはキリスト教、その中でもプロテスタント、もっと細かく言えばルター派ではなくカルバン派の役割が大きかったという説です。

その前に何故、資本主義が欧州で起きたかという素朴な疑問です。(水野氏は、資本主義の勃興を12世紀のイタリア・フィレンツェ説に賛同しております)近世ヨーロッパが大航海時代で海外諸国を植民地化してのし上がる前は、世界一の富裕大国だったのは中国でした。何故、その中国で資本主義が起きなかったのか?また、何故、国際的に商人が大活躍していたイスラム世界ではなかったのか?という疑問です。

この中で、中国に関しては、1793年に清の皇帝が英国のジョージ3世に宛てた手紙が残っており、そこには「我々の生産品と交換に異国の生産品を輸入する必要はない」とはっきり書かれていたそうです。

つまり、中国は遠方から財やサービスを輸入するほど国内ではモノ不足がなかったから、資本主義も発達しなかったわけです。

イスラム世界に関しては、利子を禁止されていたからというよりも、「コーラン」に書かれている相続法によって、遺産は多数の家族に厳格に等分に分配されるため、イスラム経済圏を膨張させる資本の蓄積が十分ではなかったからという説が有力なんだそうです。

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水野氏は、リチャード・シィラ、シドニー・ホーマー共著「金利の歴史」(紀元前3000年のシュメール王国から金利があった!)をもとに、利子率革命の歴史を辿って、資本主義誕生・発達の背景を探ります。

●1555年=ピークの9%(アウブスブルクの和議=神聖ローマ帝国内で初めてルター派が認められる)
●1611年=2%を切る
●1622年=4%台に上昇(英、蘭が東インド会社設立。仏ブザンソンの「大市」の支配者だったジェノヴァが、アムステルダムの「取引所」に取って代わられる)
●1648年=(カトリックとプロテスタントとの30年戦争終結のウエストファリア条約)

この間、利子を禁止していたカトリック教会の監視の目をくぐって、イタリアのメディチ家が為替のテクニックを使って、実質的に時間が金利を生んでいく手法を生み出していく様も描かれます。

時間を支配するのは「神」の独占特権事項だったため、教会の権力が強かった中世までは、カトリックが経済規範を握っていました。それが近世になって宗教革命~宗教戦争~和解などのプロセスを経て、資本主義の萌芽と成長につながっていくというわけですね。

これは実に面白い!

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