「週刊新潮」で先々週から連載されている「満州の夜と霧 第2部 甘粕正彦ー乱心の曠野」は本当に面白いです。著者は、佐野眞一さん。第1部の阿片王・里見甫に続く満洲ものの第二弾ですが、歴史の中に埋もれていた新事実を発掘して、なかなか読ませます。
甘粕といえば、関東大震災のドサクサに紛れて、無政府主義者の大杉栄らを惨殺して、刑に服し、恩赦で満洲に渡って、満州映画協会の理事長に納まって、敗戦直後に服毒自殺して果てる、といった浅薄な予備知識しかなかったのですが、なかなか一筋縄ではいかない人です。
第一、最初から、甘粕は本当に自らの手で大杉を殺害したのか?-といったミステリーじみた話から始まっています。(大杉は柔道黒帯有段で、体格的に劣る小柄な甘粕がいきなり一人で手をかけることができるかどうか今でも疑義をはさむ歴史家もいます)
甘粕という名前も非常に変わっていると思ったら、戦国時代の武将に遡る名門で、兄弟親族関係で軍人幹部になったり、大企業の幹部に出世している人が多い。社会学者の見田宗介氏が親戚だったということも初めて知りました。とにかくよく調べています。
いずれにせよ、満洲では、里見甫をはじめ色んな人と接点があった人です。満洲に行ったのも、恐らく、「二キ三スケ」の一人、東條英機の引きだったのでしょう。
「甘粕事件」が起きた時、殺害された大杉は38歳、甘粕大尉は32歳だったのですね。意外に若かったので、驚いてしまいました。
満洲は調べれば調べるほど面白いです。過ぎ去った昔の出来事として済ますことはできませんよ。
何しろ、「二キ三スケ」の一人で昭和の妖怪と言われた男の孫が、日本国家の最高権力者に着こうとする時代になったのですから。