勝毎花火
公開日時: 2007年8月5日
魚住昭氏の「官僚とメディア」(角川書店)には、色々と、マスコミ界の裏というか恥部が白日の下に晒されています。特に、魚住氏の出身である共同通信社のスキャンダルが暴かれています。とても面白い素晴らしい本なのですが、最初に悪口を書いてしまうと、共同通信という「日本最大のマスコミ」(地方新聞の部数を総計すると2000万部を超えるので、世界一なのかもしれません。あ、人民日報とかありましたね。)は、本当にいい会社なんですね。(皮肉をこめて言っているのですが…。)東京の社会部だけで、100人も人材を擁し、半年ぐらい何も原稿を書かずに、映画を見たり、パチンコをしたりしてサボタージュしてもビクともしない。
敏腕スクープ記者の魚住氏が共同を辞めることができたのも、奥方様が同じ共同の記者で、将来やお金のことで全く心配がなかったからできたのではないでしょうか。また、共同のような大きな会社では、加盟紙から、何か(例えばオリンピックとか)があれば「分担金」と称して、お金を徴収すればいいので、金銭的に全く苦労は知りません。(部数減に悩む地方紙の営業の人がどんなに苦労して広告を集めているのかも知る由もありません)だから、共同の人は、支局長になっても、営業することがないので、いつまでも「ジャーナリズム」とかいう青臭い書生論議が未来永劫できるのです。そりゃあ、「ジャーナリズム」を標榜して会社を辞める人は誰でも格好いいですよね。
ちょっと皮肉を書いてしまいましたが、そのことで、この本の評価を貶めることは全くありません。本心から言って、これは本当に素晴らしい本です。2006年1月に、安倍晋三首相の地元下関でのスキャンダル記事をボツにしたのは、当時「平壌支局開設」問題を抱えていた共同通信首脳が、政府の横槍を防ぐために、もみ消したということは、よくぞ、ここまで書いてくれた、と思いました。
リクルート事件当時、共同通信加盟の東京タイムズの徳間康快社長が、リクルートコスモス株を譲渡されていたことが分かり、魚住氏が記事にしようとしたら、上層部からストップをかけられます。「本人のコメントを取るまで配信できない」というのが幹部の説明でした。徳間社長は雲隠れします。その後、ほとぼりが醒めた頃、徳間社長は、社会部ではなく、文化部記者の懇談会の席上「実は、共同通信の幹部から『取材さえ受けなければ記事は出ないから逃げておけ』と言われた」と告白した、というのです。魚住氏は、そこまで書いています。
電通のことも書いています。東京・東新橋に「全国地方新聞社連合」なるものを作って、広告と記事を一体化して、「広告」と明記しない「偽装記事」を製作するのがこの組織の主目的だと書いています。一番いい例が、裁判員制度のキャンペーンです。06年1月に、タウンミーティングのサクラ事件が発覚しましたが、この事件の背後には、最高裁と電通と共同通信と全国地方紙が「四位一体」で密かに進めていた大規模な世論誘導プロジェクトがあったことを暴いています。裁判員制度導入のために、総額27億円(05年度と06年度総計、つまり国民の税金です)もの広報予算が不透明な経過で支出されていたことも明らかにしています。
調布先生がこんなことを言っていました。「ジャーナリズムには、黒も白もない。皆、ブラックなんだよ。ジャーナリズムなんて、暴力装置みたいなもんなんだから。要するに宣撫活動なんだよ。宣撫。分かる?所詮、ジャーナリズムなんて宣撫活動なんだよ」
実に名言だと思います!
そうです。この本で一番面白かったのは、以下の話です。
魚住氏が陸軍の作戦課の元参謀たちに「勝ち目がないと分かっていながら、なぜ対米戦争を始めたのか」と聞きまわったら、ある元参謀がこう答えたというのです。
「あなた方は我々の戦争責任を言うけど、新聞の責任はどうなんだ。あのとき、新聞の論調は我々が弱腰になることを許さなかった。我々だって新聞にたたかれたくないから強気に出る。すると新聞はさらに強気になって戦争を煽る。その繰り返しで戦争に突き進んだんだ」
「反転」を書いた元検事、弁護士の田中森一氏も、自分が扱った事件が翌日の新聞の一面を飾ると「今、日本の国家を動かしているのは、この俺なんだと錯覚していた」というようなことを書いていました。
しかし、書いている記者たちはそこまでの意識はないか、少ないでしょうね。一番、無責任なのは、そういう無自覚なマスコミの人間なのかもしれません。