昨晩は、台風20号が接近し、暴風雨になっていたのにも関わらず、仕事が終わってもまっすぐに家に帰らず、表参道の銕仙会能楽研修所舞台で行われた「中村京蔵 舞踊の夕べ」を観劇に行ってまいりました。
京蔵丈が大変義理堅い尊敬して止まない歌舞伎役者だからです。ヒエレラルキーの激しい梨園の世界で、全く流派の育ちではなく、ただ、伝統芸術に対する真摯な情熱のみで、国立劇場の研修生からスタートし、京屋さん(中村雀右衛門)の弟子入りを認められ、ただただ師匠の身の回りの世話をすることからは始め、やっと、舞台に出られるようになっても、黒子として、目立たぬ存在に徹し、研鑽に研鑽を重ね、今では舞台だけではなく、テレビコマーシャルにもご出演されるようになり、有名になっても、こうして、毎年1回、自腹で自分の会を催され、努力を怠らない姿には本当に頭が下がります。
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演題は「珠取海女」と「志度之浦別珠取(しどのうらわかれのたまとり)」の「海人二題」。
特に、後者の「志度之浦珠取」には、海人の亡霊役の京蔵丈のほか、藤原房前の大臣役として狂言和泉流の高澤祐介丈も共演し、竹本と謡曲の稀にみるコラボーション。こういう芸能は私は、初めて見ました。これまであったのでしょうか?
この作品は、讃岐の志度寺に伝わる「縁起」や能の「海士」などを元に、観世榮夫師が母子の別れに焦点を絞って脚色し、今回、八世藤間勘十郎が再び脚色、振り付けを担当したものだそうです。
房前は、志度之浦の賤しい海人と、時の権力者の藤原不比等との間にできた子供で、母親が自分の命を投げ出すことで、房前は藤原不比等に引き取られて、位人臣を極めたという伝説が背景にあります。
京蔵丈の解説には、「私が描きたいのはただ一点。国家の秩序維持の為に翻弄され、犠牲となった母と息子の、限りなく哀れで悲しい再会と別れの一瞬間である」と、心をこめて書かれていました。
この部分を上演前に読んでいたので、竹本の「是こそ御身の母なるぞ」という台詞が謡われた途端、ジーンと胸が熱くなってしまいました。