公開日;2008年2月25日
作家の加藤廣さんが「必読の書」だというので、読み始めたら面白すぎて、途中で何度、落涙したか分かりませんでした。
2・26事件を扱った工藤美代子さんの「昭和維新の朝」(日本経済新聞社)です。先日、やっと読了しました。
奇しくも、明日は「2・26事件」です。今からでも遅くはないので、是非この本を読んでみてください。
私は戦後民主主義教育を受けたので、「2・26」イコール「悪」という印象を受けてきました。血迷った青年将校たちの自分勝手な革命ごっこといった程度の認識が大半を占めていました。昭和天皇も彼らを「反乱軍」と決め付け、民間人である北一輝、西田税らも処刑されました。
しかし、なぜゆえに、彼ら青年将校たちが「昭和維新」を敢行しなければならなかったのか。そこまでに至る経緯を無視しては、何も語れません。この本にはそのあたりの経緯が実に事細かく描かれているのです。
正直、私は歌人の斎藤史さんのことは知っていましたが、この本の主人公である斎藤瀏氏のことは知りませんでした。日露戦争で活躍し、昭和3年の「済南事件」で「責任」を取らされて退役予備将校となった軍人で歌人としても名をなした人でした。
歴史というのは、その勝者、敗者から描き方が全く違ってしまうものなのですね。特に、この済南事件は、日本人のある学者でさえ「大した事件ではない」と見てきたような風に書いていますが、当事者である斎藤瀏氏にとっては、軍人として、誠意をもって、国際法の範囲で対処してきたので、忸怩たる思いがあったことでしょう。そのあたりの無念さを工藤さんは見事に代弁しています。
私は、「2・26事件」関係の本は、以前、学術書を読もうとして、あまりにも人物関係の複雑についていけず、途中で挫折した経験があります。(今は大分予備知識も増えたので読めますが)
でも、この、工藤さんの本は人間が、大河小説のように生き生きと描かれ、学術書では「悪人」のように描かれていた栗原安秀などは非常に魅力的に描かれていました。この本で、やっと、青年将校たちの「気持ち」が少しは分かった気がしました。