「日本のスパイ王 陸軍中野学校の創設者・秋草俊少将の真実」

哈爾賓 Copyright Par Duc Matsuocha gouverneur

京都にお住まいの京洛先生が、ニヤニヤと涎を垂らしながら、「渓流斎さんに、ピッタリの本がありますよ」と、ある本を推薦してくれました。

斎藤充功著「日本のスパイ王 陸軍中野学校の創設者・秋草俊少将の真実」(学研)でした。

この方は、陸士26期。戦時中に、あの秘密諜報防諜機関、陸軍中野学校の創設者の一人(この他は、兵務局付岩畔豪雄中佐と兵務局兵務課福本亀治憲兵中佐)で、初代校長を務め、最後は満洲ハルビン特務機関長(実際は関東軍情報部長)となり、ソ連軍侵攻により逮捕され、ウラジーミル監獄で獄死した人でした。

先の大戦の特務機関といえば、軍人なら、影佐禎昭(陸士26期=谷垣禎一元自民党幹事長の祖父)、岩畔豪雄(いわくろ・ひでお)、田中隆吉、土肥原賢二、それに民間人なら里見甫、児玉誉士夫、許斐氏利辺りが皆様もすぐ頭に思い浮かぶことでしょうが、もし、この秋草俊を御存知の方は余程の通か物知りです。

 旧哈爾賓学院 Copyright Par Duc Matsuocha gouverneur

何しろ、諜報専門の特務機関に携わるぐらいですから、超極秘の機密情報です。世間に存在を知られること自体が憚られます。

ですから、本来なら誰にも知られることなく、謎のままに終わっているはずでした。

この本では、秋草俊の亡くなった年齢が満54歳なのに、55歳と明記したり、1926年4月を昭和元年と書いたり(実際は大正15年)、ポーランドをホーランドと誤記したりして、基本的な誤記や平仄が合わない事実関係などが目立ち、本書全体の信頼性を欠くことになりかねないのですが、よくぞここまで調べ尽くしたものだと感心します。

平仄が合わないのは、編集者と校正担当のせいでもあるので、最近の出版社の編集者の能力が劣化しているせいかもしれませんが。

 哈爾濱・松花江 Copyright Par Duc Matsuocha gouverneur

いやはや、それにしても内容は実に面白いですよ。

秋草俊の親戚や縁戚には、日本電電公社総裁や富士通社長、日興証券社長までいる華麗なる一族でした。

昭和20年8月9日に、ヤルタ会談の密約からソ連軍が日ソ中立条約を一方的に破棄して、満洲に攻め込みます。

この時、本来なら丸裸の満蒙開拓団の残された老人や婦女子の防波堤となって、最期まで守り抜くことが関東軍のお役目だったはずなのに、機密情報を逸早く聞きつけた関東軍は、自らと軍人軍属の家族を、高級将校は飛行機で、それ以外は列車で南下して逃亡させる様も描かれています。

ハルビンといえば、市郊外に悪名高き731石井細菌部隊があった所でした。

同書の中で、この石井四郎中将が、ソ連軍侵攻が間近に迫り、秋草俊特務機関長のもとを訪れて、一緒に帰国しましょうと説得する場面が出てきます。

それが、秋草俊は、自分には責任があるから居残りますと言って、断るんですね。

結果的にこれで、ソ連軍によって逮捕され、「スパイ王」として、夜も眠らせない厳しい取り調べを受け、病気のため、ウラジーミル監獄で獄中死することに繋がります。

秋草俊は、陸軍士官学校を出ただけで、陸軍大学校にまで進学していないのに、将官まで昇進しました。余程、優秀だったのでしょう。対ソ連の諜報防諜が専門で、東京外語大(当時は東京外国語学校)露語学科と、あのハルビン学院(当時はハルビン日露協会学校)でもロシア語を学んでいたので、相当、ロシア語には精通していたことでしょう。

近現代史にご興味のある方にはお勧めです。

【追記】

●2014年7月に、ハルビンに旅行に行った際、初めてだったのでウロウロしていたところ、「僕は2回目だから、ご一緒しましょう」と声を掛けてくれたのが、同じツアーのK氏でした。彼は、かつて日本人が経営していた百貨店「松浦洋行」に連れて行ってくれました。この本によると、この松浦洋行の近くに秋草俊がつくった対ソ謀略工作組織「白系露人事務局」があったというので、驚いてしまいました。

●秋草俊は、第4国境守備隊隊長(大佐)時代、首相を務めた近衛文麿の長男文隆の挙式に参加しています。1944年10月12日、哈爾濱神社でのこと。新婦は、浄土真宗本願寺派の執行長大谷光明の二女正子。
近衛文隆は、関東軍大尉で捕虜となり、ルビアンカ、レフォルドヴォ、ウラジーミル監獄など10年余りもたらい回しにされ、1956年10月29日、チェルンツィ村の収容所で、病死。享年41。

●宮川船夫ハルビン総領事(1890~1950)1911年、東京外国語学校露語科卒後、外務省入省。駐モスクワ大使館一等書記官などを経て、44年5月、ハルビン総領事。45年9月24日、NKVD(内務人民委員部)防諜機関スメルシュに逮捕され、ウオロシーロフ将官収容所に収容。50年3月29日、モスクワ市内のレフォルドヴォ監獄で心臓麻痺で死去、享年59。対ソ諜報活動に従事していた。

今更ながらのバルザック「ゴリオ爺さん」の読みどころ

伊太利亜フィレンツェ

バルザックの名作「ゴリオ爺さん」は、もう1週間以上前に読了しておりますが、渓流斎ブログでまとめていなかったので、敢えて収録します。

ラッキーだったのは、バルザックが「人間喜劇」として同名人物が他の作品にも登場するやり方で連作を書いたのが、この「ゴリオ爺さん」が最初でした。バルザックの小説の中で、「ゴリオ爺さん」を初めて読んだ人は大正解だったわけです。

若きウージェンヌ・ド・ラスティニャックは、この後、「従妹ベット」「アルシの代議士」に登場し、大臣を歴任し、勅撰貴族院議員伯爵まで登りつめます。

あの悪党ヴォートランことジャック・コランは、再び脱獄して、「浮かれ女盛衰記」「幻滅」に再登場。ボーセアン夫人は「捨てられた女」、ランジェ夫人は「ランジェ公爵夫人」、遺産を相続する若い娘ヴィクトリーヌ・タイユフェールは「赤い屋根」にそれぞれ再び読者にお目にかかることになっています。と、19世紀の読者の皆様向けに書いてみました(笑)。

バルザックの凄いところは、フランス・パリの貴族社交界を舞台に、徹底的に人間心理を分析したところです。人、モノ、カネを細密画のように描きました。侘び寂びを好む日本人はとてもついていけません。

本当に、グジャグジャ、ドロドロとした人間関係で、恬淡な日本人ならすぐに嫌になってしまいます。逆に、バルザックという男は、本当に人間が好きだったんだなあ、と思ってしまいます。人間だけに捉われず、花や風景や、せめて犬や猫に気を紛らわせていれば、もっと長生きできただろうに、と思ってしまいます。

もう一つ、あの社交界とやら、どうしてあれほど露骨に男女の不倫や縺れ合いや恋愛感情ばかりあるのだろうかと不思議に思ってしまいました。しかし、ゴリオ爺さんの2人の娘を見ただけでも、愛情があって結婚したわけでなく、お互いに財産やら爵位やら目当ての政略結婚が多かったことが分かります。

だから、結婚して初めて自由恋愛に目覚めるのかもしれません。人間は気まぐれで、絶えず人を裏切るので、それこそドタバタ喜劇(笑)が展開されるわけです。読んでいても、途中で嫌になります。

伊太利亜フィレンツェ

以下は引用です。

ーパリでは評判がすべてで、権力を手に入れる鍵ですの。女たちが、あなたが才気のある人だと言えば、男たちも、あなたが逆のことをしない限り、それを鵜呑みにするものなのよ。…あなたは、世間というものがどういうものか、つまりお人好しとぺてん師の集まりだということが分かるでしょう。p139(ボーセアン子爵夫人)

ー天才の力には誰でも屈服する。…だから、買収というものがやたらと凡人たちの武器になる。…パリでは、正直者とは黙り込んで、仲間入りを断る人間のことさ。…世間ってものは、道学者連が何と言ったて、変わりっこない。人間は不完全なんだよ。人間は多かれ少なかれ、偽善者になることがあるが、そうすると頓馬な連中は、やれ真面目だ、不真面目だなどとぬかす。…君も、もし優秀な人間だと思ったら、頭をあげてまっすぐに進みたまえ。しかし、羨望とか中傷とか愚鈍とかと戦わなければなるまいな。186~189頁。(ヴォートランの長広舌)

ー「大事な用件があるだの、寝ているだのと言って、娘たちは来ないだろうとも。わしには分かっていたのじゃ。死ぬときになってみて、子どもとはどういうものか分かる。嗚呼、ウージェンヌさん、結婚しなさんなよ、子どもなんて持ちなさんな!」470~471頁。(臨終間際のゴリオ爺さん)

伊太利亜フィレンツェ

キーパースンであるデルフィーヌ・Nucingen男爵夫人(ゴリオ爺さんの次女で、銀行家の男爵と結婚。次第にラスティニャックに惹かれていく)は、平岡篤頼氏訳では、「ニュシンゲン」となっていますが、「ニュサンジャン」じゃないかなあ、と思ってしまいました。それとも、ドイツ系なのかしら?

本来の発音を、フランス語のネイティブの方に聞きたいぐらいですが、今はフランス人の知り合いが一人もいないので残念です。

??ちなみに、「ゴリオ爺さん」は、サマセット・モームが選ぶ「世界10大小説」の一つ(他に、ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟」、トルストイ「戦争と平和」など)

??51歳で亡くなったバルザックは、フランス中部トゥール出身。トゥールといえば、トゥール=ポアティエの戦いを思い起こします。732年のことですから、日本は奈良時代!フランク王国(メロヴィング朝)の宮宰カール・マルテルが、イスラム軍を撃退し、封建制度(騎士に封土し、忠誠を誓わせる)を確立する基盤をつくった世界史に残る戦いです。
カール・マルテルの子ピピン3世は751年、メロヴィング家の王を廃して、カロリング朝を開きます。

「スノーデン」は★★★★★

旧哈爾賓学院(中国) Copyright Par Duc Matsuocha gouverneur
 
 オリバー・ストーン監督の意欲作「スノーデン」を観てきました。

 最近、ロードショーを観ることができる機会が事情がありまして(笑)、異様に減ってしまい、観る作品は目を皿のようにして、映画評を読んだり、サイトを見たりして参考にしています。

 しかし、評論家の連中は、身銭を切ることなく只で観て、感想を言っているだけで、所詮は、それがどうした程度のことしか書いていないことが多いのです。ただで観て好き勝手なことを言っているだけですから、もっと謙虚になれ、と言いたいですが、大抵は馬耳東風です。

 で、この「スノーデン」に関しては、かなりの新聞と週刊誌の映画評に目を通しましたが、芳しいものではありませんでした。私が信頼する某新聞評も星が三つしかなかったので、観るのをやめようかと思ったぐらいです。

 しかし、身銭を切って観てよかった、というのが、正直な感想です。

 以下、内容に触れますので、これからご覧になる方はさようなら。

 長春市内住宅街(中国)Copyright Par Duc Matsuocha gouverneur

 何で、日本の評論家連中の評判がよくないのか、そこには、米国覇権主義者、特に、米軍や国家安全保障局(NSA)にとって「不都合な真実」が暴かれているせいではないのか、と勘繰ってみましたが、それほど驚天動地するほどの真実は含まれていませんでした。

 これまで、報道されてきたことをドキュメンタリータッチで追跡した感じでした。

 もちろん、機密情報を暴いたエドワード・スノーデン(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)と恋人のリンゼイ(シャイリーン・ウッドリー)との深いプライベートな関係については知りませんでしたが、それは、映画として成り立たせるための方便の一つとして選んだのでしょう。

 ストーン監督が日本の大手マスコミの全てのインタビューに応じたような感じで、作品評よりも、有名監督のインタビュー記事ばかり目立って掲載されておりましたが、ストーン監督は、インタビュー記事の中で、「日本にとっても衝撃的な事実が明らかにされます」と語っておりました。

 それが、何なのか、注意して見てみましたら、スノーデン自身が日本の横田基地に勤務した経験があり、そこで、日本人の通信、通話から、SNS、個人メールに至るまで、いつか日本が米国の同盟国ではなくなることを想定して、盗撮、見聞、情報収集したことだったように思われます。

 まあ、そもそも、インターネット自体が米軍が開発したものですから、そんなことはお手の物であって、大して驚くべきことでもないと思って観ていましたが、後から考えると、やはりぞっとする話でしたね。

 長白山山麓松花江源流(中国)

Copyright Par Duc Matsuocha gouverneur

 スノーデンが、香港の高級ホテルでドキュメンタリー作家のローラ・ポイトラスとガーディアン紙のコラムニスト、グレン・グリーンウォルドらにNSAの機密を暴露したのが2013年6月のこと。まだ3年ちょっと前のことなのに、もう随分昔のように思えてきてしまうのは、IT時代のせいかもしれませんね。

 オリバー・ストーン監督は、この映画について、モスクワでスノーデンと9回も会って取材して、スノーデンから見た事実を追ったもの、とインタビュー記事で明かしていました。

 だから、スノーデンが、CIA職員としてハワイ勤務の際、中国からのサイバー攻撃対策チームにいたことなども事実でしょう。でも、この事実を描いてしまえば、中国マーケットで売り出し(映画公開)にくいことは容易く想像できます。

 ストーン監督は、米国の権益と機密情報にかかわることから、大手ハリウッドからの出資やスタジオを借りることなど全て断られたそうですから、製作費を回収するのが大変でしょう。

 最近のハリウッド映画は、中国系アメリカ人の宇宙人技師が活躍して、米国と中国のロケットとのドッキングが成功する映画をつくったりして、かなり「世界最大」の中国マーケットを意識していますし、CIAなどからの全面協力の下で、CIAのヒーロー物映画の製作に熱心です。

 そういう意味で、70歳のストーン監督の今回の映画は、かなりの冒険であり、「これが長編映画の最後になるかもしれない」と感想を述べたことも納得できます。

 そのせいか日本の映画評論家と称する連中が、この映画を貶す理由も、何となく分かる気がします。いや、何か裏がありそうです!

嗚呼、斜陽なのか?ソニー

銀座プレイス

東京・銀座4丁目といえば、日本一、いや世界一かもしれないほど地価の高い超一等地として君臨しております。

昨年、その一角に「銀座プレイス」なるランドマークタワーができましたが、新しモノ好きのお上りさんさんのほとぼりが冷める空いた頃に行ってみよう、と思い、水曜日の昼下がり、昼休みがてら覗いてみたのです。

そしたら、ビックリしましたよ。平日の昼間とはいえ、空いてるどころか、ガラガラで殆どお客さんがいないのです。

一階は、日産自動車のショールームになっていて、このビルが建てられる前と同じです。ここには流石に数人たむろしてました。

私が目指したのは、4~6階のソニーのショールームです。

数寄屋橋に近いソニービルが取り壊されることになり、この4丁目にショールームが移転してきたことは、ニュースで知っておりました。

ショールームではソニーカメラ、ウォークマン、Xperiaなどソニー自慢の商品が並んでおりました。カメラコーナーでは、中国人と思しき観光客を数人見かけましたが、何とウォークマンには私以外、お客さんが一人もいないのです!

私が、軽んじて、商品に手を伸ばした瞬間、暇な店員がすぐさま「如何ですか?」と寄ってくるんですからね。

銀座プレイス
ソニーは、2日に2016年4~12月期の連結決算を発表しましたが、純利益は前年同期比80・7%減の456億円だったそうですね。

80%減とは、超が付くほどの減益です!

映画事業で1121億円の損失を計上したそうですが、ソニーピチャーズは、もともとコロムビアですから、トランプさんが「そろそろ、アメリカに返したらどうか?」と言わないでしょうね?

米国は日本に朝貢を求めているのか?

 長白(白頭)山(中国)Copyright Par Duc Matsuocha gouverneur

2月10日にアメリカのトランプ大統領と会談する安倍首相が、「手土産」として、「51兆円のインフラ投資と70万人の雇用創出」を持っていくそうですね。

さすがに、首相側近も「そりゃあ、あんまりだあ。そんなことしたあ、朝貢になってしまうだあ」と叫んだとか。

確かに、的を射た発言です。

もしかしたら、なかなか出てこなかったアベノミクスの第3の矢とは、このことだったのかもしれません(笑)。
 ハバロフスクを流れるアムール Copyright Par Duc Matsuocha gouverneur

魏志倭人伝によれば、かつての朝貢といえば、生口でした。お金も大した産業も郷土産品もなかった時代で、貢ぐことができたのは、労働力しかなかったわけですから。

生口とは、いわば奴隷ですから、今では完璧なヒューマン・トラフィッキング、つまりは人身売買になってしまいますから違法です。いくら何でも南北戦争時代に戻るのはアナクロニズムですからね。

金で解決しようという魂胆なんでしょう。

それにしても、51兆円だなんて、政府開発援助(ODA)なのか、とすら思ってしまいますよ。

相手は世界一の軍事大国ですよ。世界一飛び抜けた経済大国ですよ。何で、非正規雇用と重税に喘ぐ日本の庶民が、メガバンクや政策投資銀行や公的年金まで差し出して、援助交際しなけりゃならないんでしょうかね?

あ、交際は余計な言葉でした(笑)。

黒龍江(中国・黒河にて)Copyright Par Duc Matsuocha gouverneur

アメリカが「錆びたドヤ街」となって、良心的な庶民の生活が脅かさるようになったのは、自由主義経済の当然の帰結です。

もうアメリカ人は、ミャンマー人やカンボジア人やバングラデシュ人並みの賃金では働けないでしょう?

経営者は当然、安い労働市場を求めて工場を海外に移転しますよ。

トランプさんは、日本でアメ車が売れないと怒りまくってますけど、関税ゼロだという事実すら知らないおめでたい人なんでしょう。

金持ちの日本人ならどうせ外車を買うなら、アメ車よりベンツやポルシェやフェラーリを選んでいるに過ぎないのです。それは、性能であり、燃費であり、デザインであり、費用対効果的価格なんでしょう。単なる見栄かもしれませんが(笑)。

アメ車は、総合的にいずれもドイツ車やイタリア車に劣っているから、自由主義経済の結果、売れないだけでしょう。

それなのに、もし、トランプ大統領が核ボタンをチラつかせながら、日本に朝貢を迫るのだとしたら、アメリカの威信は地に堕ちたり、ですよね。

いや、頭の賢い、「弱者」(札幌の雪祭先生)のトランプさんのことですから、そこまで脅しすかしたりはしないでしょう。

全て、安倍首相が、英語には言葉そのものがない「惻隠の情」で、可哀想なアメリカ庶民を慮ったのでしょう。

日本的なあまりにも日本的な…。

トランプさんが可哀想?

伊太利亜フィレンツェ

「弱い者イジメじゃないですかねえ」ー。こう仰るのは進歩主義者として知られる札幌にお住まいの雪祭先生です。

この「弱い者」というのが、アメリカのトランプ大統領のことなので、2度ビックリです。

えっ? トランプ大統領といえば、今や飛ぶ鳥を落とす勢いの、世界で最も高い権力を握った為政者でしょう?

しかも、周囲に大富豪やゴールドマンサックスや将軍様や狂犬まで従えて、自分の意の向くまま、好き放題、やり放題じゃありませんか。

「いやいや、可哀想ですよ。あそこまで世界の首脳やマスコミを敵に回して…。中東・アフリカ7カ国の人々の一時的入国禁止だって、ロイター通信の調査では、米国民の49%が支持してるんですよ。反対の方は41%と少ないんです。

それなのに、既成の新聞やテレビは、小さくしか扱わない。彼は、アメリカ国民から選ばれた正統な大統領なんですよ。

既成マスコミは、何処の国もエリートなんですよ。それも、官僚になりそこなったプチ・エリートだから、権力者に対するやっかみやら当てつけやら僻み嫉みが、一般人より激しいんですよ。

そりゃ、一緒に同じキャンパスの机の隣で並んで座っていた奴が出世すれば、誰だっていちゃもんつけたくなりますよなあ…」

雪祭先生、言わんとすることは、分からないことはないですけどね。

そう言えば、昭和の有名な評論家で、その人の名前で出版社が賞を贈呈している評論家がいましたが、その人は、新聞社からコメントを求められると「賛成?反対?」と聞いたそうですね。

例えば、安全保障問題でも、基地問題でも何でもいいんですけど、賛成でも、反対でも、どちらでも書けるという意味なんですね。

その著名評論家にとって、世情で起きる問題なぞ、どっちでもいいと思ってるんでしょう。まあ、よく言えば、紙一重だと思ってるんでしょうね。政治家じゃないから本人は、何を書いたって責任取る必要もないし、原稿料だけ稼げればいいんですから。

まあ、言葉は悪いですが、活字芸者みたいなもんですよ。

人間的な、あまりにも人間的な…。「節操が無い」と批判する方が間違ってるんですよ。
伊太利亜フィレンツェ

「そういうことです。世の中はそんな単純じゃありません。一人の人間だって、ある時は息子で、ある時は夫で父親、ある時は使用人、ある時は先生と色んな側面を持ってるわけです。

だから、物事は複眼的に見なければならないのです。マスコミが一方的に報道したことを鸚鵡返しに発言する輩が多すぎます。

その点、渓流斎さんとやらも、大分、賢くなってきたようですね。まあ、その歳じゃ、どう足掻いたって、もう手遅れですけどね(笑)。まあ、めげないで頑張って下さい」

ははあ、御意。

私は裃のシワを伸ばしながら、土下座するしかありませんでした。

バノン氏の暴走を止めるのは誰?

伊太利亜フィレンツェ

私は最近は、トランプ米大統領以上に、スティーブ・バノン首席戦略官(63)の言動に注目しています。

経歴は、ハーバード・ビジネス・スクールで名誉(?)修士号などを取得した後、海軍やゴールドマンサックスに勤務し、入閣する前は、ユダヤ系の右派ネットメディア「ブライトバート・ニュース」の編集長を務めていた人です。

アイルランド系のカトリックだそうですが、過激な発言から「人種差別主義者」「女性蔑視主義者」として危険人物視されてきました。

熱烈なトランプ支持者として、大統領選挙の選対責任者に選ばれ、大統領のスピーチや大統領令の草案を作っているものと見られ、トランプ大統領の側近中の側近ブレーンです。

既存メディアを蛇蝎視して、「お前たちは、さっさと敗北を認めて黙ってろ」と放言するなど、彼らしい面目躍如を発揮しております。

伊太利亜フィレンツェ

その白豪主義者バノン氏が昨日、国家安全保障会議(NSC)の常任メンバーに選出されたことから、またまた物議を醸しています。

彼がメンバーに選ばれることは既成路線だったとしても、統合参謀本部議長と国家情報長官がNSCの常任メンバーから除外されたというのは穏やかではありません。

これでは、バノン氏の暴走、いや独裁が目に見えています。NSCは、米国内だけでなく、日本を含む対外、つまり国際戦略に大変大きな影響を及ぼすセクションであることは明白です。9.11以降、米国はイラク・アフガン戦争を起こし、憎しみが憎しみを呼ぶテロ組織を萌芽させる遠因も作りましたからね。

気になるのは、彼のアジア人蔑視です。大国アメリカの政権中枢にいるバノン氏が、日本人を含むアジア人から、また植民地主義時代に戻って搾取することしか考えないようなら、今から遅くはないので、対策を考えるべきではないでしょうか。

そんな中、世界各国の首脳が、トランプ大統領による入国制限の混乱について批判するメッセージを発表しているというのに、日本の安倍首相だけはだんまりを決め込んでいるのが気になります。

福島原発は未だに制御されていない

伊太利亜フィレンツェ・ウフィツィ美術館

福島第一原発2号機が、メルトダウンしていたことは今ではやっと情報公開により常識となっております。

しかし、6年前に事故が起きた当初は、隠匿されて「メルトダウンなんかしていない。大した被害はない」といった嘘の情報がばら撒かれていました。

昨年から今年にかけて、欧米では「嘘ニュース」とか「ポスト・トゥルース」などという言葉が大流行していますが、我が日本ではもっと以前から流行っていたわけです。

伊太利亜フィレンツェ・ウフィツィ美術館

特に、時の安倍首相は、オリンピックを東京で開催したいがために、「福島は、アンダー・コントロールだ」と嘘の情報を世界に発信しました。

昨日、東京電力が公開した福島原発の炉心写真を見ても、メルトダウンし、とてもコントロールされている状態ではないことがはっきりしていました。

制御の利かない暴れ馬のようです。

福島原発を廃炉までするには、あと少なくとも40年か50年か、いやそれ以上掛かるそうで、流石の安倍さんもそれまで生きてないでしょう。

伊太利亜フィレンツェ・ウフィツィ美術館

福島から、神奈川や千葉に避難してきた人たちも、学校で、あまりにも日本らしい陰湿なイジメ、というより恐喝か強盗ともいうべき犯罪に遭っていたことが最近になって漸く、明らかになってきました。

「放射能がうつる」などと、日本的幼稚性を発揮して、金銭まで巻き上げ、あろうことか、学校も教育委員会も事実を把握していながら、見て見ぬ振りをしていたとは、何をか況んや、です。

そんなニュースに触れると、日本人であることが恥ずかしくなるくらいです。

トランプ大統領は、悪徳保安官?

伊太利亜フィレンツェ・ウフィツィ美術館

アメリカのトランプ大統領が、シリア、イラク、リビアなど中東・アフリカ7カ国からの入国を一時的に禁止する大統領令を署名したおかげで、米国内では大混乱をきたしていると、大々的に報道されています。

米国内の空港では、入国を拒否された家族や会社や関係者と見られる人々の抗議デモがありました。

テキサス・レンジャーズで活躍しているダルビッシュ投手の父親は、イラン人なので、息子の応援にも行けないかもしれない、と地元ダラスのメディアは報じています。

それにしても…。

メキシコ国境に壁をつくる、などといった公約は、大統領選挙のための単なるパフォーマンスだと世界中の多くの人は見ていましたが、冗談でも見せかけでも何でもなく、本気で着々と進めています。

伊太利亜フィレンツェ・ウフィツィ美術館

今日発売の「週刊現代」の見出しを見て、思わず苦笑してしまいました。

トランプ大統領について、「こいつ、本物のバカかもしれない」なぞと書いているんですからね。彼が日本語を読めたら、名誉毀損で訴えるかもしれませんねえ。

いやはや、世知辛い世の中になってきたものです。

伊太利亜フィレンツェ・ウフィツィ美術館

トランプさんは、明白にバカではないでしょうが、事実誤認が激しいところがある人だということは、日本人の多くが思っています。

例えば、彼は日米自動車貿易の不均衡を主張されておられますが、現状は日本から米国への輸出は2.5%の関税を掛けられているのに、米国車の日本への輸出関税はゼロなのです。

トランプ大統領が不平等だと主張するのなら、日本からの米国輸出関税をゼロにするべきでしょうね。

今の安倍政権は、属国意識が強くて頼りないので、不平等条約を改定した実績を持つ井上馨卿か陸奥宗光卿の登場をお願いしますか?

そして、彼は米軍の駐留経費は、各国全額負担しろ、と迫っておりますが、既に日本は駐留経費の74.5%も負担しているのです。同じ、敗戦国のドイツなんか、わずか32.6%だというのに…。

日本の右派識者でさえ、「これ以上負担すれば、米軍は日本の傭兵になってしまう」と指摘するぐらいですからね。

私は、トランプ大統領がバカだなどとは言いません。商才に長けた頭のキレる人でしょう。しかし、思い込みが激しい過剰な自信家であり、西部劇に登場する悪徳保安官に見えます。

大統領と言えば、かつては尊敬の対象だったのに、トランプさんの品に欠ける軽さのおかげで、すっかり格が落ちて、今では軽蔑の対象になってしまった感じがします。

※注=渓流斎ブログは2016年6月13日に書いた「あめりかは王政復古」で、秋の大統領選で、「トランプ大統領」になることを早くも予言しておりました!

「満洲新京~長春今昔」のフィルム鑑賞会

 旅順 Copyright Par Duc Matsuocha gouverneur

 昨日は、いつも渓流斎ブログで使う写真でお世話になっております松岡將氏(「松岡二十世とその時代」などの著者)の御邸宅にお呼ばれしまして、「満洲新京~長春今昔」のフィルム鑑賞会に参加してきました。

 そもそも、この会は、松岡氏が長年、お金と時間をかけて、御子息の世界的スーパーコンピューターの権威である博士からの手助けを得ることなく(というか、実は、足手まといとなることから、助言さえもらうこと能はず?)、独力で全337枚ものjpgを駆使して、他人様にも鑑賞に耐え得る資料を地道の努力で作成することができたというので、それでは、宝の持ち腐れになるのも何なんですから、何人かの有志を集めて鑑賞会でも開きましょうか、と私が言い出したことがきっかけでした。

 ですから、私のように満洲といえば、「餃子の満洲」に行ったぐらいで、満洲生まれでも育ちでも何でもない人間ながら(実際は3年前に一度だけ満洲の地に足を踏み入れ、新幹線「和諧号」にも乗ってきました!)、呼びかけ人の特権から鑑賞会の参加切符を手にしたわけです。

 昨日は、私も入れて5人も参加されましたが、私を除く全員が、満洲生まれか、満洲の小学校や中学校に通った方々ばかりでした。皆さん、子供時代に返ったように感激されておりました。(参加された方々のお名前は控えることにしますが、いずれもご尊父が満州国で重職を務めた方々です)

 旅順港 Copyright Par Duc Matsuocha gouverneur

 時間に遅れてはいけないと思い、少し早めに家を出たので、約束の待ち合わせ場所を確かめてから、初めて来た高級住宅街を散策してみました。ニューヨークのトランプタワーのような豪華なマンションもあり、凄い所だなあ、と思って約束場所に戻って、皆で連れ立って、松岡氏邸を目指したところ、何と、そのトランプタワーがご自宅だったので、吃驚してしまいました。

 もっとも、松岡氏の弁によりますと、このマンションの所有主は、トランプ政権に入閣できるような大変優秀な御令嬢のものらしいですが、ホテルのような豪華さには圧倒されてしまいました。

 居間が映写室に早変わりし、「スライドショー」は、満洲の首都だった新京と戦後の長春の昔と今を比較して、ああだった、こうだったという弁士松岡氏の弁舌が冴えて、大変見応えがあるものでした。

 氏の努力の賜物で、グーグルアースとやらも引っ張ってきて、昔、松岡氏が通った新京の桜木小学校は、今でも小学校か中学校らしいのですが、2、3年前から校庭を拡張して、Jリーグの公式試合でも開催できそうな緑の芝を満々と蓄えた広大なサッカー場ができている様を衛星写真で映し出していました。

 黒河 Copyright Par Duc Matsuocha gouverneur

 満洲は、関東軍による傀儡政権と言われ、新京駅前から南北を縦断するメインストリート付近には関東軍総司令部など壮大で、天守閣のような異様な公共建物が陸続と建設されました。

 勿論、批判や汚点はありますが、田舎の農村だった長春を首都機能設備を持つ都市として、インフラの道路、水道、電力、電話電信、行政、司法施設、警察署から、住宅、病院、学校、監獄!まで計画的に建設したのは、かの大日本帝国だったことは間違いありません。

 モノの本によりますと、戦前の日本本土では普及していなかったスチームによる床暖房設備を備えた住宅が満州には既にあったらしいですね。

 新生中国になって、彼らは勿論、「偽満洲」と断罪して、戦前の日本の「侵略」を非難する教育を展開しましたが、全面否定しているのにも関わらず、かつての関東軍総司令部が、今では吉林省人民委員会の省庁になっていたり、かつての満洲銀行をそのまま人民銀行として使ったりしているのです。

 まあ、「有効活用」という言い方もできるかもしれませんが、それこそ、満洲で生まれ育って引き揚げた日本人としては、今でも「満洲とは何だったのか」と思うようです。映像を見て、私もその気持ちが分かるような気がしました。

 鑑賞会の後、近くの有名な焼き鳥「ニューれば屋」で懇親会を開催しました。戦後ながら、旧満洲生まれの「レコードチャイナ」の八牧社長さんも参加されて、皆さんとは初対面とはいえ「満洲仲間」ということで、すぐ打ち解けて、話が弾みました。
 八牧氏は、「週刊金曜日」などのメディアからも取材を受け、最近大変ご活躍されているようですが、今後も満洲仲間との交流を一層深められたら、私のような一介の仲介者としてはこの上のない喜びです。