人情紙風船 

 軽井沢

 

今回の参院選について、まだまだ感慨深いものがあります。何しろ、オセロゲームのように、バタバタと地方の自民党閥が倒れてしまったのですから。四国は全滅です。九州も辛うじて、薩摩と中津藩が残りましたが、信じられないことに自民党王国の肥前と肥後が民主党に席を譲ってしまったのです。総裁を輩出している長州は死守しましたが、土佐は脱落しました。

 

自民党の肩を持つわけではありませんが、「人情紙風船」という言葉が浮かんできます。この言葉は、調布先生の口癖で、私自身、この言葉の意味はよく分かっていませんでした。そこで、調べてみると、どうやら、昭和12年(1937年)に公開された映画(山中貞雄監督)のようです。河原崎長十郎、中村翫右衛門主演の前進座の作品でした。もちろん、見ていませんが、「人情なんて、紙風船みたいなもの」と示唆しているのでしょう。民意なんてものも同じようなものです。「民意紙風船」です。

 

調布先生は、インターネットに関しては、ひどく懐疑的です。「路上の立ち小○」「○所の落書き以下」と痛烈に批判されています。ですから、私のブログなぞ読まないでしょうし、私がこんなことを書くとは思いも寄らないでしょうが、こっそりと、陰で読んでいらっしゃるという噂も聞きます。

「君ねえ、人情紙風船だよ」

「こだわっちゃいけないよ。人間、色々とこだわるから、何でもややこしくなるんだよ」

「人なんて、そんなもんなんだよ。あっちと言えばあっち、こっちと言えばこっちって、節操がないんだよ」

「だから、人が去っていったとか、そんなこと考えちゃ駄目なんだよ。去る者は追わず、来る者は拒まずの精神でやっていかなきゃ」

実際のところ、洞察力に研ぎ澄まされた調布先生のこれらの言葉にどんなに救われたか分かりませんが…。

 

いつか、調布先生の語録をまとめてみると、面白いかもしれません。何しろ、取り留めのないことを、唐突に叫んだりするのです。

「平手造酒は男でござる。君、そんなことも知らないのか?」

「何ですか?」

「天保水滸伝だよ」

こういった調子です。何しろ調布先生の教養の深さにはついていけません。浪曲から清元まで、実によく知っています。こういう戦前派の教養人は調布先生が最後ではないでしょうか。