森永卓郎著「なぜ日本だけが成長できないのか」続・完

森永卓郎著「なぜ日本だけが成長できないのか」(角川新書)を1月23日に続いて、今回も取り上げます。彼が務めるラジオ番組で、「この本を書いたら殺されるかもしれない、という覚悟で書きました」と話していたからです。

 23日に取り上げた時は、まだ半分くらいの途中でしたが、昨日、全部読み終わりました。その感想ですが、「少し全体的なまとまりがなく、ちょっと推測も大胆という印象」がありましたが、彼には頑張って欲しいので、原稿料代として(笑)、ネットではなく、有楽町の三省堂書店にまで行ってこの本を購入しました。

 書けば長くなってしまうので簡潔に済ませたいのですが、日本の経済低迷というか転落の原因として、森永氏が槍玉に挙げていたのは、日銀と財務省の金融政策と外資のハゲタカ・ファンドでしたね。

 前回も書きましたが、私は経済に関して非常に不勉強でした。いや忌避してました(笑)。そのおかげで、1990年代のバブル崩壊から不良債権問題が起こり、証券会社や損保生命保険や銀行が事実上倒産して再編成されたとき、面倒臭くて、名称が変わっても、その経緯に、とてもついていけませんでした。まして、その経営陣が外資だったことさえ意識してませんでした。

 この本を読むと、どうも金融庁による誤った不良債権処理で、外資のハゲタカに二束三文で買い叩かれ、値が上がると高額で売り抜けるという手口が明らかにされてます。再生機構が不良債権処理で導入した資金は、国民の税金ですからね。こんな酷いことを納税者が知らないでどうする?という話ですよ。

Mt Fhuji par la fenetre de Tokio Copyright par Duc de Matsuoqua

 例えば、日本長期信用銀行は1998年に破綻し、その処理に3兆7035億円の税金が使われましたが、結局、長銀はハゲタカ・ファンドの一つであるリップルウッド社にわずか10億円の「のれん代」で売却。社名変更で新生銀行になりますが、長銀をメインバンクにしていた百貨店のそごう、スーパーのライフ、第一ホテルなどが「瑕疵担保条項」を「活用」されて破綻します。(2007年に、リップルウッド<RHJインターナショナルに社名変更>の大変著名なティモシー・コリンズCEOは、米投資ファンドに売却し経営撤退しましたが、同社がどれくらいの差額利益を得たのか、この本には書かれていませんでした。まあ、簡単に想像つきますが)

 森永氏はかつて、UFJ総研に在籍したことがあるので、思い入れがあるのか、UFJ銀行の赤字による東京三菱銀行への吸収合併の過程について、「竹中平蔵金融担当大臣がターゲットをUFJ銀行に絞ったのだ、と私は見てる」と書いております。UFJ銀行が抱えていた「不良債権」になったスーパーのダイエーやミサワホームなどは、世間から厳しい目を向けられ、結局、倒産に追い込まれます。マンションの大京グループも赤字に追い込まれ、結局、資本支援して子会社化したのはオリックス。宮内義彦会長(当時)が「政商」と批判されたのは、確か、この頃だったと思います。竹中大臣らのインナーサークルにいたのではないかという批判でしたね。

バルセロナ・グエル邸

 キリがないので、この辺でやめておきますが、森永氏は、ハゲタカ・ファンドの最大手としてサーベラスを挙げております。1992年に設立された米国投資ファンドで、ブッシュ(息子)政権時代の財務長官ジョン・スノー氏が会長に務めたことがあります。

 このサーベラス、田中角栄元首相の盟友として名を馳せた小佐野賢治氏が創業した国際興業を「乗っ取った」と著者を書いております。UFJ銀行とりそな銀行が持っていた国際興業グループの貸出債権約5000億円をサーベラスが半値で一括購入し、その後、小佐野氏が苦労して手に入れていた帝国ホテルを三井不動産へ、八重洲富士ホテルを住友不動産へ売却。サーベラスは、他に売るものがなくなると、バスとハイヤー事業を創業家に売り戻したといいます。その売却価格は1400億円。

 また、西武鉄道乗っ取り計画に失敗したサーベラスは、2017年8月までに保有する同社株を全て売却します。その額は公表されませんでしたが、著者は約2400億円と見て、「11年半で1400億円のボロ儲けだった」と明記します。

 さらに、サーベラスは、あおぞら銀行(前身は日本債権信用銀行)への投資でも、わずか1000億円の投資で3000億円以上の資金を回収するという荒技を演じている、と書いております。

 ま、詳細については本書をお読みください。私も再読することにします。