素材が人類の歴史を変えるとは

人間の悩みの9割が「人間関係のトラブル」と聞いたことがあります。

 なるほど、確かに子どものいじめに始まり、子どもと教師、モンスターペアレントと教師との関係、男女のもつれ、親子、嫁姑の確執、友人関係、社内のパワハラ、セクハラ、奇人による襲撃(被害者は私)、SNSを通した殺人事件に至るまで枚挙に暇がありません。

 歴史も、人間関係中心に描かれます。何処の誰それの武将が天下を取ったとか、何処の誰それが王位継承戦争を始めたとか、偉大な天才が人類に貢献する新機軸を発明したとか、まあ、そんなところでしょうか。生徒は一生懸命に年号を覚えます。

 まさに、人間中心主義ですね。

 でも、先日、ラヂオを聴いていたら、変わった歴史本が紹介され、著者がインタビューに応えておりました。佐藤健太郎著 「世界史を変えた新素材」(新潮選書)という本です。文字通り、「素材」を通して(御本人は「材料」が正しいとおっしゃってましたが)、歴史の変遷を総覧しているのです。この本の宣伝文句は「 金、鉄、紙、絹、陶磁器、コラーゲン、ゴム、プラスチック、アルミニウム、シリコン……『材料科学』の視点から、文明に革新を起こしてきた12の新素材の物語を描く」とあります。本の帯にも「コラーゲンがモンゴル帝国を強くした?」とあるので面白そうです。

 初版が2018年10月26日とありますから、もう4カ月も前に出ていた本ですが、ラヂオを聴くまで、その存在を全然知りませんでした。いつか読んでみようと思いますが、その前に、著者がラヂオで語っていたことを茲で少しご紹介したいと思いました。

 とはいえ、メモを取っていなかったので、いい加減なものです(笑)。間違っていたらお許しください。人間中心に歴史が語られる前は、「石器時代」「青銅器時代」など、確かに素材や材料で呼ばれる時代がありました。石器などは、今のIT革命と比べて遜色がないほど、武器に使い、狩猟に使い、料理に使い、人類の偉大な発明だったかもしれません。

 本では12の素材が取り上げられているようですが、ラヂオのインタビューで、著者は五つだけ取り上げていました。それが(1)鉄(2)石灰岩(3)ゴム(4)アルミニウム(5)プラスチックーです。

(1)の鉄の代表例が、古代のヒッタイト帝国(紀元前16世紀~紀元前12世紀)です。高度な製鉄技術で最初の鉄器文化を産んだとされ、メソポタミアを征服して一大覇権帝国を築きました。

(2)の石灰岩は、古代ローマ帝国です。これを使って「ローマン・コンクリート」と呼ばれるセメントを発明し、道路を舗装し、「全ての道はローマに通じる」ように広大な帝国を築き上げていきます。劇場や闘技場、神殿まで作ってローマ文明を拡張しました。

(3)のゴムは、タイヤのことです。1888年、アイルランドの獣医師ダンロップが、10歳の息子の三輪自転車がもっと楽に走れるように、空気入りタイヤを発明したのが事の始まりです。これが自動車にも採用され、米国などのモータライゼイションに莫大な貢献をするわけです。

(4)のアルミは、ボーキサイトから生成され、鉄より軽量で、アルミ合金のジュラルミンで飛行機をつくることによって、人類の行動範囲が広がり、戦争にも影響を持つようになりました。

(5)のプラスチック(ポリエチレン)の発明により、レーダーの透過技術が飛躍的に進歩し、ドイツのUボートを探知するなど、これまた、戦争の趨勢に多大な影響を持つようになったといわれます。

 でも、やはり、新素材や材料を使うのは人間だし、世界制覇のために手段を選ばないのも人間ということで、人間が主役であることは変わりがありませんね(苦笑)。

とはいえ、この非常に博学で優秀なサイエンスライターのお話を聞いただけで、この本には俄然興味を持ってしまいました。