東証は大丈夫なのか?=そして「学問の自由」の侵害に物申す

銀座・能登輪島 

 昨日10月1日、東京証券取引所のシステム障害で前代未聞の「終日、全銘柄の売買停止」の事態となり、関係者は泡を食ったことでしょう。1日3兆円もの取引があるとは、知らなかったなあ…。

 何しろ、東証に参加している7割が外国人投資家だということですから、世界的な大事件になってしまったわけです。でも、単純計算すると、日本人はわずか3割しかやっていないということでしょうか。じゃ、ほとんどの皆さんには関係ない話でしたね(笑)。

 私が興味を持ったのは翌日の新聞紙面はどうなるか、ということでした。何しろ「終日停止」は初めてのことです。まさか白紙の紙面を出すわけにはいかないはず、どうなるのかなあ、と思いましたら、2日の日経朝刊紙面は上の写真の通り、「-」が並びました。(朝日、毎日、東京は株価欄は掲載せず、読売、産経はデータなしで掲載)

 2日はシステムも回復して、通常通り取引が再開されたということで、やれやれです。「バックアップ」が機能しなかったということが今回最大の問題点だったでしょうね。

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 さて、菅義偉首相が1日、「日本学術会議」(政策提言を行う国の特別機関)が新会員として推薦した法律・歴史学者ら6人の任命を拒否していた問題が発覚し、本当に唖然としました。政府は、その理由を開示することを頑なに拒否しましたが、任命拒否された6人は安全保障関連法や特定秘密保護法などで政府の方針に異論を唱えていた学者ばかりです。任命拒否は、憲法が保障する「学問の自由」の否定につながり、「ついにここまで来たか」との意を強くしました。

 任命拒否された一部の学者をご紹介すると、特定秘密保護法について、「民主主義の基盤そのものを危うくしかねない」と批判した東京大社会科学研究所教授の宇野重規教授(政治思想史)、長年、改憲や特定秘密保護法などに反対してきた東京大大学院人文社会系研究科で日本近現代史の大御所・加藤陽子教授、「共謀罪」の趣旨を含む改正組織犯罪処罰法案について、参院の参考人質疑で、「戦後最悪の治安立法となる」と批判した立命館大大学院法務研究科の松宮孝明教授(刑事法)らです。

 随分あからさまですねえ。6人全員、菅氏から見れば、いわば国家権力に歯向かった人ばかりです。でも、ここは、民主主義国家日本ですよ。中国や香港や北朝鮮やベラルーシやロシアの話じゃないんですからね。これでは、「彼らには人権がない」なんて批判すらできませんよ。このままでは「表現の自由」まで脅かされかねません。

 2日になっても、加藤勝信官房長官は「任命権者である首相が日本学術会議法に基づいて任命を行った」と繰り返すのみで、任命拒否を見直す考えはないことを改めて強調しました。

 菅政権になってまだ間もないですが、こういう風潮では「この道はいつか来た道…」になりかねません。安倍前首相が後ろで糸を引いているのか、菅首相自身がしたたかに独裁しているのか、今の時点ではまだ推し量ることはできません。でも、黙っていたら、菅首相に同調することになるので、私は断固、任命拒否の撤回を求めます。

「図書カード」拝受と宗教騒動のお話

 NHK出版から自宅に封書が届きました。「面妖な、何用か?」と思いながら開けてみたら、「図書カード」(500円分)が入っていました。やったー、です。

 クイズに当選したわけではなく、NHKラジオの語学テキストの投稿コーナーに投書したことで抽選で当たったようです。思えば、語学学習はもう半世紀以上、NHKラジオで学習してきました。一番最初が中学校1年生の時の「基礎英語」(サラブレッドの綴りがthoroughbredだと知り、カルチャーショックを受けたことを覚えています)、中2で「続基礎英語」、中3から「英会話」…そして今でも聴き続けている杉田敏先生の「実践ビジネス英語」は「やさしいビジネス英語」から聴いているので30年以上経つと思います。あと、大学生から「まいにちフランス語」も聴き続けています。

 「実践ビジネス英語」はかなりのハイレベルで、NHKラジオ英語講座では最高レベルです。2年前から義理の息子になった米国人に試しに使ってみると、「そんな言葉知りません。チェック!」と言って、スマホで検索します。そして「本当に知らなかった」と白状するのです。凄い快感になりますが(笑)、英語を母国語にする人さえ知らないというのでは、日本人が知らないのも当然ですね。そんなことを投書したのです。まさか、これが当たるとは!(投書は誌面上では非公開にしたので、今回が初公開です)

湯島「吟」しめ鯖と盛り合わせ

 さて、一昨日夜、この渓流斎ブログのサイト管理運営でお世話になっているIT技師長のM氏と湯島の「吟」で、本当に久しぶりに一献を傾けました。この「吟」は、高校時代の後輩さんがやっているお店ですが、コロナ禍で経営が大変になりました。そこで、いわゆるクラウドファンディングで資金集めをしていたので、私も些少ながら寄付に応じたのです。おかげで、半年間、飲み代は半額になりました。

 M氏は主に関東・首都圏の寺社仏閣の縁起をまとめた公式サイト「猫の足あと」を主宰運営しているので、現代の宗教界の裏話に通じています。彼と会うと、そういった話が聞けるのが楽しみです。宗教学者は宗派の宗旨や歴史については詳しいでしょうが、宗教界のゴタゴタや最新情報に精通しているのは、やはり宗教ジャーナリストになるからです(笑)。

 例えば浄土真宗です。彼は、寺院から宗旨を変更した旨のメールを時折受け取るといいますが、一番多いのが真宗大谷派(東本願寺)から浄土真宗本願寺派(西本願寺)、もしくは浄土真宗東本願寺派への宗派替えだというのです。浄土真宗東本願寺派というのは、かつて真宗大谷派の東京別院(浅草御廟)だったのですが、いわゆる「お東騒動」で真宗大谷派から離脱しました。その流れで、全国のかなりの寺院が浄土真宗東本願寺派へ宗派替えしているというのです。(ちなみに、浄土真宗には本願寺派以外に高田派など合わせて十派あります)

 へー、知らなかったですね。騒動の経緯などご興味のある方は検索すれば色々と出てきます。そうこうすると、いつの間にか、貴方も宗教ジャーナリストですね。

 浄土真宗系の寺院は今最も布教活動に熱心で、わずか3カ月の講習だけで僧侶の資格が取れる即席コースを設け、新寺を量産しているというのです。これまでどんな宗派も、僧侶になるためには短くても2年間以上の講習と修行等が必要とされていたので、M氏も「いかがなものか」と眉を顰めておりました。

 話は変わって、「日蓮聖人門下連合会」11教団(あの国柱会もあります)の一つ、顕本法華宗です。総本山は京都の妙満寺で、全国に約200の末寺がありますが、そのうち150の末寺が千葉県内にあるというのです。千葉で顕本法華宗が盛んなのは、その宗派の僧侶が、土気城主の酒井氏を帰依させ、領地七里四方の寺院を法華宗にさせるという荒技を行ったからでした。(七里法華の根本霊場)

 顕本法華宗は包括宗教団体なので、末寺は総本山に上納金のような布施を納めなければなりません。こういう制度は顕本法華宗に限らず、ほとんどの宗派、宗教に通じますが、彼の考えでは「関西に基盤も作れず、実質千葉県の末寺に頼っているのだから、布教活動の都合上、実質本山を千葉に設けるべきではないか」というのです。顕本法華宗の開祖日什大正師(1314~1393)の出身地である会津には、妙法寺(会津若松市)のわずか一カ寺しかないそうです。

 上納金というと、暴力団組織のように聞こえますが、実は、逆に、ヤクザの方が、寺のピラミッド制と末寺から本山への布施制度を真似したといいます。これには酔いが醒めました。

 このような総本山に上納金を納める包括宗教団体を嫌がって、最近では「単立」の宗教団体が増えているそうです。総本山から離れるには、お東騒動のように、自分たちで本山として独立するか、一本独鈷で行くかのどちらかを選ぶことになります。

 これは、寺院だけではなく、神社でも増えているというのです。神社本庁へ志納金が支払えないという理由のほか、神社本庁の運営に反対して離脱するというのもあるそうです。あの明治神宮でさえ、一時「単立」になったことがあったというので、驚いてしまいました。

 宗教は過去の遺物ではありませんから、絶えず進化して信者、門徒を獲得する布教活動(=経済活動)をしないとつぶれてしまいます。

 M氏によると、関東地方の旧武蔵国足立郡、埼玉郡をはじめとした荒川沿いに真言宗の寺院が現在でも多くあるのは、江戸幕府が河川改修、新田開発を積極的に行い、水田農村が飛躍的に増えたので、農村仏教である真言宗が飛躍的に増えたからだといいます。
 一方、山間部は鎌倉幕府の庇護を受けた臨済宗系の寺院が比較的多かったのですが、曹洞宗に宗派替したところも多く、その上、明治維新になって、庇護者である大名・旗本がいなくなってしまい、その経済基盤が崩壊して、寺院の数が減る要因になったといいます。

 ただ、曹洞宗の場合は、明治維新後に、本山の一つである「総持寺」を能登(現在、総持寺祖院として残されている)から神奈川県の鶴見市へ移転させ、これが結果的に功を奏し、関東の曹洞宗はその立場を維持できたのではないか、というのがM氏の見立てでした。

 如是我聞。盃を傾けながら、という罰当たりの行いをしながらでしたが、私自身は大変興味深く拝聴しました。