人間は恐怖と欲望で出来ている

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トランクルームを借りて、死んでも天国まで蔵書を持って行くつもりの例の遠藤君が「これを見なさい」と貸してくれたのが、テレビ番組を録音したDVDでした。

 どうやら7月にNHKで放送された「BS1スペシャル『欲望の資本主義 特別編 欲望の貨幣論2019』」という番組で、あまり面白そうではなかったので、4~5日、ほおっておいたのですが、見てみたら吃驚。こんな凄い番組を見たのは本当に久しぶりでした。遠藤君、ごめんなさい。最近のNHKは、商業主義とは無縁のはずなのに、ジャニーズやバーニング系のタレントを多用して民放と変わらない実に下らない番組が多く、見るに値しない局だと断定していたのですが、これで少しは見直しました。

 前編と後編で2時間ぐらいの番組で、内容全て紹介しきれないのですが、中心的な進行係として、「貨幣論」(1993年)などの著書がある経済学者の岩井克人氏を据えたのが大成功でした。「講義」の仕方が非常に懇切丁寧で、学生だったらこの教授に師事したいくらいでした。岩井氏の奥さんは、「続明暗」などの著書がある作家の水村美苗氏です。私は彼女に30年ぐらい昔にインタビューしたことがありますが、後で、水村氏の御主人が岩井克人氏だと知った時驚いたことを覚えています。逆に言うと岩井氏については、その程度の知識しかありませんでした。30年前は経済学には全く興味がありませんでしたから…(苦笑)。

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 前置きが長くなりましたが、どうしても番組の内容を短くまとめることが難しいので遠回りしただけでした(笑)。いや、気を取り直して始めます。

 岩井氏によると、貨幣というのは、本来、モノとモノを交換する「手段」に過ぎなかったのですが、いつの間にか、貨幣を貯めることが「目的」になってしまったというのです。貨幣が通用するのは、他人が受け取ってくれることを前提にして、それに懸けているようなもので、貨幣そのものに根拠がない。「自己循環論法」によってのみ、価値が支えられているというのです。

 貨幣自体に本質がないということで、「貨幣商品説」と「貨幣法制説」を否定し、マルクスの「価値形態論」も批判します。まあ、こう書いても番組を見ていなければさっぱり分からないことでしょうが…(苦笑)。

 この番組では、世界的に著名な色んな経済学者、哲学者、歴史学者らが登場しますが、私が一番印象に残ったのが、かつて米投資銀行で10憶ドルを運用し、今は電子決済サービス企業戦略を担当しているカビール・セガールという人の発言でした。「私たち(人間)は、恐怖と欲望で出来ている」というのです。これほど、的確な言葉ありません。

 彼によると、人間は恐怖と欲望で出来ているからこそ、不確実な未来に備えて貯蓄する。お金が多ければ多いほど、未来は安心だと感じる。それでも不安なので、「もっと、もっと」とお金を貯め込む。人間は過剰に安心を求めるというのです。

 岩井氏の説明では、ヒトが、モノよりもお金が欲しくなると、デフレになり不況になる。逆に、ヒトがお金に価値がないから早く手放そうとすると、ハイパーインフレになり貨幣の価値が下がるというのです。

 他に、アダム・スミス「見えざる手」、マルクス「労働価値説」、ケインズの「流動性選好」(世の中が不安定だとモノよりも未来の可能性を高めるために貯蓄に走る)、ハイエク「通貨自由化論」ら錚々たる経済学者の理論が登場しましたが、私としては、このセガール氏の「人間は恐怖と欲望で出来ている」という話が一番、腑に落ちました。

 現代は、富がGAFAなど一部のIT企業に集中し、世界的に膨大な格差が広がっています。企業も国家も数字が全てで、企業は利潤、国家はGDPの数字が向上することばかり腐心します。資本主義社会では、こうして数字で成功した人のみが崇められ、それ以外の人間性は全く無視されます。それでは、如何にして人間の尊厳を守るのかー?

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 最終章で、岩井氏は、何と哲学者のイマヌエル・カント(1722~1804年)の「道徳形而上学原論」を取り上げます。

 カントは同書の中でこう書きます。「すべての人間は心の迷いと欲望を抱えているものであり、(何と、既に、カントは、さっきのセガール氏と同じことを言っていたんですね!)これに関わるものはすべて市場価格を持っている。それに対して、ある者がある目的を叶えようとする時、相対的な価値である価格ではなく、内的な価値である”尊厳”を持つ。”尊厳”にすべての価格を超越した高い地位を認める。”尊厳”は価格と比べ見積もることは絶対できない」

 これはどういうことかと言いますと、岩井氏の説明を少し敷衍しますと、モノは価格を持っているので交換できる。しかし、人間の尊厳は交換できない。だから、この人間の尊厳は、他人が入り込む隙間がないほど自由であり、最後の砦みたいなものだというのです。

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 繰り返しになりますが、岩井氏は「人間は他人に評価されない自分自身の領域を持つことが重要で、それが人間の自由となる。自分で自分の目的を決定できる存在は、その中に他の人が入り込めない余地がある。そこが人間の尊厳の根源になる」と言うのです。

 つまり、今のようなGAFAが世界中を席捲しているネット社会で、フェイスブックの「いいね」や、何かを買うと「あなたのお薦め」が次々と表示されるアマゾン方式などによって、本来、目的を選ぶのに自由であるはずの人間が、こうしたAI(人工知能)によって操作され、結局は人間の尊厳が失われる可能性がある、と岩井氏は警告するのです。

 これは慧眼です。

番組では、ノーベル経済学賞を受賞したスティングリッツ氏の「アダム・スミスの”見えざる手”は、結局存在しなかったんだよ」という断定発言には驚かされました。また、古代ギリシャのアリストテレス「政治学」や、「社会契約論」のジョン・ロックらも登場させ、利潤追求の数字の世界だけでない哲学までもが引用されているので、非常に深みがあり勉強になる番組でした。

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 恐怖に駆られる人間の性(さが)のせいで、強欲な人間が増え、格差社会が拡大しています。しかし、皮肉屋のスティングリッツ氏は「資本主義がもっているのは、お金に興味がない人がいるおかげ」と発言していたので、これも非常に目から鱗が落ちる発言でした。

 確かに、人間は恐怖と欲望で出来ているのかもしれませんが、私自身は、数年前に病気になった時に、睡眠欲も食欲も性欲も全くなくなったことがありました。欲望がないので、お金に興味がないどころか、禁治産者のように、お金が目の前にあっても、勘定することさえできませんでした。それでいて、毎日、恐怖に苛まれていたので恐ろしい病気に罹ったものです。

「貨幣論」から、随分違った話になりましたが、これも人間の自由、つまり、AIに操作されることなく、書きたいことを書くという「人間の尊厳」なのかもしれませんね(笑)。

「ZAITEN」は最後の反権力雑誌?

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「今のメディアは駄目ですね。すっかり大政翼賛会化してしまい、権力者のご機嫌ばかり伺って批判さえしない。実に嘆かわしい」と憤慨しているのが、名古屋にお住まいの篠田先生です。

 「どこのテレビも新聞も週刊誌も安倍首相を全く批判しないで、外国ばかり批判している。まるで大本営発表ですね。せめて『反権力』を貫いているのは、『ZAITEN(ザイテン)』ぐらいですよ。今月発売の9月号では学者政商『竹中平蔵』を批判する記事を掲載しています。書かれた本人は屁とも思わないでしょうけどね」

 「『ザイテン』って何ですか?」と私。

「昔は『財界展望』と言ってましたがね。2006年10月号からリニューアルしたようです。1956年創刊の老舗経済誌です。まあ、最初は総会屋的な雑誌でしたが、『噂の真相』がなくなった今では唯一といっていいくらい、大手企業の経営者や政治家、官僚らを批判しているメディアですよ」

 「いやあ、ビジネス誌なら、『東洋経済』や『ダイヤモンド』などの週刊誌はたまに買いますが、月刊誌は、どうも経営者のヨイショ・インタビュー記事ばかり載っているイメージがあるんですよね。買ったことはないし、昔、ゴルフ場のラウンジでザッと見たぐらいですよ」

「月刊経済誌の老舗中の老舗は、三鬼陽之助が1953年に創刊した『財界』(隔週発行)でしょうなあ。三鬼陽之助(1907~2002年)はもともと、ダイヤモンドと東洋経済で記者、編集長などを歴任した人です。『財界四天王』の造語をつくるなど経営評論家として名を成しました。もう一つは、『経済界』(同)です。佐藤正忠(1928~2013)が1964年に創刊しました。佐藤正忠は、リコーの市村清社長の私設秘書を務め、あの銀座4丁目の三愛ビルの用地確保のために、最後の酒屋の敷地を買収することに成功した人です。こんなことブログに書いちゃ駄目ですよ」

「へー」(と曖昧な返事)

 ということで、初めて「ZAITEN」なる経済誌を買ってみました。1080円。

 確かに、「まだいた!学者政商 『竹中平蔵』の新世界」を読むとよく取材されています。感想は「酷い人だなあ」の一言です。

 小泉政権の下で、経済財政政策担当大臣などを歴任し、非正規雇用をドカスカ増やして格差社会をつくった元凶としてますね。しかも御本人は、江戸時代に「人買い人足」と呼ばれた派遣業界の会長に就任して、雇用の規制緩和をしているわけですから、胴元が賭場で、自分が作ったルールで好きなように儲けているようなものです。

 こういう人を国民は国会議員として選出し、今でも、安倍政権の「民間議員」として森林ビジネスに暗躍し、大手マスコミは「識者」として採用しているわけですかぁ…。(肩書は東洋大学教授ながら、「本職」のビジネス稼業が忙しいので、ほとんどキャンパスに現れず、学生らから「いかがなものか」とツイッターや立看板などで抗議が出ているそうな)

 他に「三菱重工が辿る『東芝の来た道』」「ヤマト運輸 休みは増えたが減らない仕事、現場は昼飯を食う暇もなし」といった硬派記事もあれば、経営者の私生活や近況などを暴き、「あの人の自宅」というタイトルで写真付きで紹介するちょっと趣味の悪い連載記事などもあります。

 一体どういう人がこの雑誌を定期購読されているんでしょうか?少しだけ興味があります。

ハイエクと親交を結んだ田中清玄

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 8月のお盆の頃は、マスコミ業界では「夏枯れ」と言って、あまり大きなニュースがないので、「暇ネタ」ばかりを探します。

 今年の場合は、あおり運転をして真面目な市民を殴ったチンピラ(失礼!彼は天王寺高~関学~キーエンスの元エリートでした)の捕り物帖ばかりやっていて、いい加減、嫌になりましたね。普段なら三面記事の片隅にベタで載るような事案でも、テレビはニュースからワイドショーまで繰り返し垂れ流していました。文化人類学者の山口真男(1931~2013)は「マスコミは、存在自体が悪だ」と喝破したそうですが、長年マスコミ業界で飯を喰ってきた私自身も耳が痛いですね。

 マスコミはもっと信頼を回復して頑張らなければいけませんよ。今はマスコミより、ネットの方が怖い時代になりましたからね。 あおり運転のチンピラに同乗していた女容疑者を、変な正義感を持った若者が、間違って関係のない善良な市民をネットに拡散したため、被害者は、業務上でも精神的にも大変な目に遭われました。

 私も変なことは書かないよう気をつけます。

 さて、先週読了した大須賀瑞夫編著「田中清玄自伝」(文藝春秋)の余波がいまだに続いています。

 「26年ぶりの再読」と書きましたが、当時(1993年)は今ほどインターネットも発達しておらず、情報も不足していて「憶測」ばかり氾濫していました。

 今では検索すれば、簡単に「田中清玄」は出てきます。でも、ウィキペディアには「CIA協力者」と書かれていて驚いてしまいました。「自伝」を読む限り、田中清玄ほど反米主義者はいないと思ったからです。(戦前は共産主義者だったものの、スターリンに対する不信は筋金入りでしたので、反ソ主義者でもありました)日本政府の対米追随政策を絶えず批判したり、「ジャップの野郎が」と威張りくさる米国人と高級バーで喧嘩しそうになったり…。何と、彼は「そのうち、『アメリカ・イズ・ナンバーワン』と言う大統領が出てくる」と予言までしてますからね。

 「自伝」によると、田中清玄は、戦後まもなく昭和天皇に謁見したり、先の天皇陛下の訪中を実現させたり、まさに黒幕として活躍しました。外務省や右翼団体からの抗議などを乗り越えて、 戦前から親交のあった鄧小平が中国の最高実力者となったため、 個人で外交を成し遂げたのは大したものです。

 また、韓国やインドネシア、フィリピンでの利権を独占しようとする岸信介=河野一郎=児玉誉士夫=矢次一夫ラインとは最後まで敵対しました。

 自伝の最後の方では、ノーベル経済学賞を受賞したフリードリヒ・ハイエク教授との交流にも触れています。ハプスブルク家の家長オットー大公から紹介されたらしいのですが、ハイエクはハプスブルク家の家臣の家系だったそうです。

 ハイエクは、戦前からマルクス経済もケインズ経済も否定して、新自由主義経済を提唱した人です。彼が設立したモンペルラン・ソサイエティー(共産主義や計画経済に反対し、自由主義経済を推進する目的に仏南部のモンペルランに設立)に田中清玄も1961年から参加しましたが、間もなくして、フリードマンらシカゴ学派が大挙加入し、田中清玄は「彼らはユダヤ優先主義ばかり唱えるのでやめてしまった」といいます。

 それでも、ハイエク教授との個人的交流を生涯続け、京都大学の今西錦司教授と対談会を開催したりします。

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 私は、哲学者でもあるハイエクについては名前だけしか知らなかったので、彼の代表作である「隷属への道」をいつか読んでみようかと思っています。マル経も、そしてケインジアンまでも否定したため、両派から集中砲火を浴びながら一切怯まず、学説を曲げなかったところが凄い。田中清玄とは意気投合するところがあったのでしょう。

「西洋の自死」=日本も手遅れなのか?

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 ダグラス・マレー著、町田敦夫訳「西洋の自死」(東洋経済新報社、2018年12月27日)が世界的なベストセラーになっているということで、手に取って読んでみました。

 著者は若手、とは言っても、今年40歳になる気鋭の英国人ジャーナリストです。

 内容については、この本の「脇見出し」を引用させて戴くと、「欧州各国が、どのように外国人労働者や移民を受け入れ始め、そこから抜け出せなくなったのか」「マスコミや評論家、政治家などのエリートの世界で、移民受け入れ懸念表明が、どうしてタブー視されるようになったのか」「エリートたちは、どのような論法で、一般庶民からの移民政策の疑問や懸念を脇にそらしてきたのか」といったことが書かれています。

 ちょっと、まどろこしく書かれていますが、移民問題は結局、文化や言語、宗教の問題にまで行き着き、もともといた地元の人たちは、移民の人口増により、少数派に追いやられることが書かれていて、それを言うと「人種差別者」だのと糾弾されると、著者は言いたかったと思えます。

日本語訳版だけでも500ページ以上あり、全て読み通すのには難儀します。この10年近くで欧州で起きたさまざまなテロ事件や移民問題などを具体的に事実として取り上げている書き方で、著者の感慨はあまり挟もうとしません。 でも、斟酌はできます。

 例えば、2017年11月に「ビュー・リサーチ・センター」が公表したところによると、スウェーデン(2016年のイスラム教徒人口は8%)では、今後全く移民を受け入れなかったとしても、2050年にはイスラム教徒人口が11%になり、「通常の」流入があった場合は21%、近年の大量移民が維持されれば31%になるといいます。

 この後で、著者は「1950年のスウェーデンはほとんど移民がいない、民族的に同質の社会だった。それが1世紀後の2050年には、見た目が一変しているだろう。…もしかしたら、それでも構わないかもしれない」といった、思わせぶりな書き方です。

 この本に関しては、日本ではあまり報道されませんでしたが、かなり賛否両論の渦が欧米で巻いたようです。それは、他人事ではなく、その波は、近いうちに、日本にも押し寄せてきます。

 もう、マスコミが言うような「移民排斥=極右、非寛容な人種差別主義者」「移民受け入れ=リベラリスト、寛容な人道主義者」といった単純な図式ではないのです。

 最近、このブログも随分アクセス数が増えました。どなたがお読みになっているのか想像もつきません。襲撃されたくないので、私はか弱い人間ですから、卑怯者と言われようが、自分の意見は茲には書きません(苦笑)。扇動者にはなりたくないというのが本音です。悪しからず。

移民問題は、自分たち個人の問題だと考えるべきだと思っています。

ケインズ「雇用・利子および貨幣の一般理論」をついに読破=漫画ですが…

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1929年の大恐慌や、ナチスの台頭につながる第1次大戦後のドイツの賠償問題などを勉強していると、どうしても外せないのが、ジョン・メイナード・ケインズの経済理論です。

 いつぞやの話、国際金融アナリストの元山氏に、ケインズの代表作「一般理論」は難しい?と聞いたところ、彼は「君には無理だね。アインシュタインの『一般相対性理論』と同じぐらい難しいんじゃないかい」と断定するので、さすがに、心の中で「ムッ」としましたが、彼の忠告には従っておりました。

 あれから半年。彼から「君にふさわしい本があったから貸してあげるよ」と貸してくれたのが、漫画でした。

 ケインズの原作を漫画化した「雇用・利子および貨幣の一般理論」(イースト・プレス)でした。

 私は、漫画は中学生の頃までは熱中しましたが、それ以降はご無沙汰です。「えっ?漫画かい?」と思いましたが、これがなかなかよく出来ていて、原作を読む前の「取っ掛かり」というか、予備知識になることは確かでした。

 私自身、経済を専門的に学んだわけではなく、大学の教養課程の単位として「経済原論」を取った程度の知識しかありませんが、この原作の漫画化の中には、「有効需要」だの「限界消費性向」「流動性選好理論」だの、昔学んだ懐かしい用語がたくさん出てきて、易しく解説してくれます。ばかにできませんね(苦笑)。大変失礼致しました。

例えば、「債券の利率が購入時より下がれば、実質価格は上がり(この時この債権を売れば得)、逆に、利率が上がれば、債券の価値が下がる」といったややこしい文章も、数式と漫画で描いてくれるので、すっと頭に入りやすい。

 また、私なんかよく間違える「ブル(牛)とベア(熊)」理論も、漫画に出てくるということは、ケインズの「一般理論」の中に出てくる話だったんですね。牛と熊を闘わせたら、熊の方が強いから、ベアが強気、ブルが弱気と私なんか勘違いしてしまうのですが、ブル(牛)は下から上に攻撃することから、債券価格が上昇するということで「強気」。ベア(熊)は、上から下に攻撃することから、債券価格が下落するということで「弱気」と命名されたことが漫画で描かれ、この箇所を読んで分かり、これからは間違えることはないだろうな、と思った次第です(笑)。

 確かに、最初から無謀にも原作に挑戦して、途中で白旗をあげるよりも、無理をしないで漫画から入ったことは大成功でした。漫画とはいっても、内容は難しいことは難しいですからね。この漫画を貸してくれた元山氏には感謝申し上げます。

政府と吉本興業との関係は如何に

与太郎 ご隠居さま、御無沙汰しちまってます。

ご隠居 お、与太か、ま、こっちに入(へえ)んな。何かあったんかい?

与太郎 いえ、ね、最近の巷で騒ぎになってるお笑い芸人と芸能事務所とのいざこざ、何で、世間はそんなに騒ぐのか、ちっとも分かんねえもんで…。

ご隠居 吉本興業の話かえ? そりやあ、あったぼうよ。他人事じゃねえからよ。俺たちの懐も痛む話だってえことよ。

与太郎 えっ? それは一体、どういうこって?

ご隠居 まったく、お前さんも、相変わらずおめでたいねえ。安倍政権が2013年につくった官民ファンド「クールジャパン機構」を聞いたことないかい?政府、つまり元を正せば我々の税金がこの機構に約586億円出資されいるんじゃが、2014年と18年には吉本興業が関わる事業に計22億円を投入されちょるんだよ。今年は、吉本興業がNTTと組んだ教育と称する事業に対して、段階的に最大100億円を出資することまで決まっちょる。教育ったって、 何やら、吉本は、沖縄にアミューズメント施設を作って、お笑い芸人を出演させるらしいよ。

与太郎 へー、そうだったんすか。

ご隠居 安倍首相が吉本新喜劇の連中を官邸に呼んで、選挙前の人気取りに利用したりしたのを、お前さんは知らなかったのかい?

与太郎 あら、そう言えば、時の最高権力者の吉本への接近ぶりは異常でしたよね。

ご隠居 そう、つまり、吉本興業は、単なる一(いち)民間のお笑い芸能事務所というわけじゃないんだよ。それは支那事変(日中戦争)勃発後の昭和13年(1938年)に、国家事業として中国大陸に派遣した戦地慰問演芸団 「わらわし隊」のように、政府との結びつきは吉本の伝統でもあるわなあ。

与太郎 さすが、ご隠居、よく御存知で。

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ご隠居 知らないのはお前さんぐらいだよ。それより、今の政権ほど、文化事業に介入している与党政権はないんじゃないか。道徳教育と国家主義を標榜する右翼雑誌にも政府資金が流れているという噂じゃないか。

与太郎 ほんとですか?

ご隠居 単なる噂だけど、政治家指導による国民の税金の使い道は、納税者である国民自身がしっかり見届ける義務があるんじゃないかい?

与太郎 そう言えば、こないだ7月の参院選投票率はたったの48・80%で、24年ぶりに50%割ったらしいじゃないですか。日本人の政治意識の貧困さが表れているんじゃないすか?

ご隠居 おや、お前さんにしてはよく知ってるね。見上げたもんだよ。

与太郎 えへへへ、瓦版にそう書いておりやんした。受けおりっすよ(笑)。

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アンダークラスが国を滅ぼす?

 世間の皆様は、職場や喫茶店や居酒屋などでどんなお話をされているのか、見当もつきませんが、私の周囲は、私に似て(笑)真面目な人が多いせいなのか、政治や経済、社会問題についてばかり話題にします。例えばー。

 「参院選の焦点は、憲法改正ではなく、非正規雇用や年金問題でしょう」

 「今注目されているMMT(現代貨幣理論)は、昭和の高橋是清財政と共通点があるのではないか?」

 「毎日、日替わりメニューのように、高齢ドライバーによる死亡事故と幼児虐待のニュースが続いているなあ」

 といった感じです。馬鹿馬鹿しい、浮いた話はありません(笑)。

 A型日本人のインテリの典型なのか、非情にペシミスティック(悲観的)で、聞いている私も暗い気持ちになってしまいます。

 例えば、今、「アンダークラス」という階層が、社会問題になっていて、将来も経済財政問題に発展するだろうという悲観的予測です。

 アンダークラスというのは、現在30代後半から40代にかけての団塊ジュニアと呼ばれる世代に多く、彼らは「超就職氷河期」でなかなか正社員になれなかった世代です。いわゆる非正規雇用ですから、年金積み立てを払うのも苦しい。つまり、年金を支える世代なのに、納められないとなると、年金制度そのものが破綻する恐れがあるというのです。しかも、非正規雇用者が高齢になると、収入がなくなり、年金も貰えないので生活保護の対象となり、国家財政の負担も莫大になるというのです。

 今は、大企業が、非正規雇用者を安い賃金で使って、内部留保を溜め込んでも、将来は社会全体が機能しなくなるという悲観的予想です。

 彼は、社会全体の問題なら、政治問題にしなければならず、例えば、非正規雇用者が余裕を持って年金積み立てが支払えるように正社員にするべきではないかというのです。

 もう一人は、災害問題です。今はまだ動けるのでいいが、これから30年以内に関東大震災クラスの大地震が必ずやってくる。そんな時、80代を過ぎていて、身体が動けなかったりしたらどうしたらいいものか、東京から引っ越すべきか、心配で夜も眠れないというのです。

 いやあ、確かにその通りですが、それを聞いて私なんか「杞憂」という言葉が浮かんできました。メディアでは「人生100年時代」と、何とかの一つ覚えのように囃し立てておりますが、誰もが80代まで長生きできるとは限りませんからね。

 その方は、最近、人口知能(AI)にも凝っていて、将来、AIによって、今の50%仕事が25年以内になくなるという予想を信じ込んでおり、仕事を追われて、職業がない、社会に役立たない連中は「不要階級」と呼ばれるんだよ、と目をキラキラさせて開陳するのです。

 ハラリの「ホモ・デウス」からの引用らしいですが、人間を役立たずの不要階級に分類するなんて、あんまりですよね?

 インテリさんと話をしていても気分が暗くなってしまうし、面白くないなあ(苦笑)。

 だから、賢い世間の皆様は、政治や社会に関心がなく、参院選にも行かず、行っても、「他の党より良さそうだから」という気分で選んだり、芸能人のスキャンダルに喜んだり、電車の中でスマホゲームに熱中したり、原宿の人気店のタピオカを並んで買ったりしているんですね。

 そりゃあ、暗い気持ちになれるはずがない。。。

 

童話「オズの魔法使い」は経済書だった?

 最近、いろんな本を読んでいると、これまで長く生きていながら、知らなかったことばかり見つけます。

 例えば、万有引力の発見で知られる英国のアイザック・ニュートン。彼は、科学者だとばかり思っていたら、実は経済とも関係があり、英国造幣局の長官を務め、1717年に金と銀の価値比率 を1:15.21とする「ニュートン比価」を定めた人だったんですね。(ただし、ニュートンは市場の銀の金に対する相対価値を見誤ったようで、その後、英国を金本位制に移行する要因にもなったとも言われています)

 もう一つは、世界中の子どもたちが一度は読んだことがある童話「オズの魔法使い」です。1939年に、ジュディー・ガーランド主演で映画化され、知らない人がいないほどの作品です。

 それが、実は、子ども向けの童話ではなく、様々なことが隠喩、暗喩された経済書として読めるというお話なのです。何しろ、オズOZとは、金の重量の単位オンスと同じですからね。知らなかった人はビックリ。御存知の方にとっては「何で今さら?」というお話です。

  著者は、米国人児童文学作家ライマン・フランク・ボーム(1856~1919年、享年62)。この本は、1900年秋の大統領選挙前の5月に出版されました。大統領選は、共和党マッキンレーと民主党ブライアンとの闘いで、1896年に次ぎ、二度目です。 ボームが支持していたブライアンは、金銀複本位制の復活を主張しますが、またも敗れて、マッキンレーが再選します。

 この大統領選挙戦の最中に執筆された「オズの魔法使い」は、19世紀の米国経済が如実に反映されているというのです。

  経済史家らによると、カンザス州の自宅が竜巻でオズの王国に吹き飛ばれた主人公の少女ドロシーは、米国の伝統的価値観を代表し、子犬のトトは、米国禁酒党(Teetotalers)を象徴しているといいます。

 旅の途中でドロシーが出会ったカカシは、黄色のレンガの道で何度も転ぶことから、カカシは、金本位制(黄色のレンガ道)によってデフレに苦しんだ農民の象徴。ハートがないブリキの木こりは、工業労働者を意味し、臆病なライオンは、民主党大統領候補のブライアンのことだといいます。

 このほか、東の悪い魔女は、農民を圧迫するウォール街の金融や工業界を象徴し、第25、27代クリーブランド大統領を示唆し、 西の悪い魔女は、西部の鉄道王、石油王を象徴し、第28、29代マッキンリー大統領を示唆しているそうです。

 さらに、オズ王国には東西南北の4カ国があり、米国に類似しているといいます。それぞれ色によって分類され、東部は工業地帯のブルーカラーから青、南部は赤土から赤、西部はカリフォルニア州で金鉱が発見されたことから黄色。エメラルドの都となる北部ワシントンD.C.はドル紙幣の色から緑で表現されるといいます。

 最後に、ドロシーは、銀の靴の魔力でカンザスへ帰ることができますが、途中で靴をなくして「二度と見つからなかった」。これは、ボームが支持していた金銀複本位制が次第に衰えていく様子を暗示したといいます。

 誠にうまくできた話ですが、児童文学研究者のほとんどは、「ボーム自身はそこまで言っていたわけではない」と否定的な意見も多いようです。

 1973年に大ヒットしたエルトン・ジョンの「 グッドバイ・イエロー・ブリック・ロード」は、「オズの魔法使い」に出てくるあの「黄色のレンガ道」から採られたといわれてます。…もう一度、聴いてみますか。

タモリに学ぶ人生の過ごし方

 人間の悩みの90%は、人間関係だと言われています。親と子、先生と生徒、上司と部下、男女のもつれ、夫婦関係、友人関係、親戚関係、嫁姑…、昨今、通り魔事件も多いですから赤の他人との関係も悩みの種ですね。

 私も人間ですから、嫌になる日が多々あります。思うに、毎日、政治や経済や社会など人間の問題のことばかりについて考えているからなのでしょう。他人は、正義心と自己主張の固まりですから梃子でも動きません。どうにもならないことで悩んでいるわけです。

 そんな時は、宇宙のことを考えます。今から、138億年前に突然「ビッグバン」が起きて、何もなかった所に、急に時間と空間と重力とエネルギーが生まれて宇宙が出現した、なぞという話を聞かされても、俄かに信じがたいのですが、眩暈で気絶したくなるほどです。

 地球が誕生したのは46億年前で、宇宙の歴史を1年のカレンダーにすると、8月30日に当たるそうです。(ビッグバンを1月1日とする)

生命(タンパク質や核酸の生成)の誕生が40億年前(9月15日)。

 少し飛ばして、恐竜の誕生が3億年前(12月23日)

 その恐竜の絶滅が6500万年前。(12月29日)

 やっと、我々の御先祖さまとつながる新人類ホモ・サピエンスが誕生するのが20万年前。(12月31日午後11時37分)

 農耕牧畜の始まりが1万年前(12月31日午後11時58分)

 となると、宇宙から見れば、人間の歴史などたかだか一瞬に過ぎないんですね。それに比べて恐竜さんは、実際、地球上で2億年近くも繁栄していたのですから、大したものです。

 「誰それがどうした」「誰それがあれした」などと、人間に拘っているから、毎日、鬱屈してしまうんですね。

築地「C」 おまかせ丼 1000円

 私はあまりテレビは見ませんが、NHKの「ブラタモリ」はよく見ます。この番組では、その土地の地殻変動や噴火した溶岩や堆積岩など地学、地質学の話がよく出てきます。それが10万年前の話だったり、100万年前の話だったりすることはザラで、中には人類が誕生するはるか大昔の何億年も前の話だったりするのです。

 人間が出て来ず、主人公でもなかったりするのです。番組進行のタモリさんは、学者並みに、異様に地質や地学に詳しいのですが、珍しい岩石に出合ったりすると、人に会った以上に感動したり興奮したりするのです。

 御本人に会ったことがないので断定できませんが、この方は、どうも人間関係はサバサバしていて、恐らく人間関係で悩んだことがない性格に見受けられます。まず、深い意味で、人類自体に興味を持っていない。結晶片岩や蛇紋岩の方がはるかに興味があると思われます。

 となると、人類の歴史の1万年のスパンというより、何千万年、何億年のスパンで物事を洞察しているんじゃないのかと思ったわけです。

 勿論、タモリさんにも悩み事はあるでしょうが、あまり人間だけに捉われていない。彼の目先に拘らない、長い年月のスパンでの物の見方も、見習いたいものだと思いました。

安保ただ乗り論は本当なのか?

  トランプ米大統領が日米安全保障条約の破棄を何度も示唆しているので、日本政府関係者は慌てふためいているかと思えば、極めて冷静です。「大統領選のキャンペーンのためのポーズ」と忖度しているようです。

 FOXビジネスニュースの電話インタビューで、トランプ大統領は「日本が攻撃された時、アメリカは第3次世界大戦を戦い、猛烈な犠牲を払うことになるが、アメリカが攻撃されて救援が必要なとき、日本はソニーのテレビで見物するだけだ」と、本人の持論である日本の「安保ただ乗り」を展開しています。イマドキ、家電界が韓国、台湾、中国製に席捲された日本で、ソニーのテレビを見ている日本人は少ないでしょうけど。

 それにしても、本当に日本は、米軍の「核の傘」の下で、安穏と、ただ乗りしているんでしょうか?

 調べてみると、日本政府が2018年度予算に計上した「在日米軍関係経費」は4年連続過去最大の8022億円。日本に駐留する米軍兵士・軍属は約6万1300人で1人当たりの経費は約1300万円だったということが分かりました。その内訳はー。

▼「米軍再編関係経費」2161億円

▼「沖縄に関する特別行動委員会関係経費」51億円

▼「在日米軍駐留経費」(いわゆる「思いやり予算」)1968億円

▼基地周辺対策費、米軍用地借り上げ料、漁業補償費、提供普通財産(国有地)借り上げ試算など3842億円

合計=8022億円

 この金額で、台頭する周辺覇権国に対する防衛費が賄えれば安いもんじゃないか、と言う人もいるかもしれません。でも、このとてつもない金額は、政治家が払うのではなく、日本人の庶民の血税から支払われていることを忘れてはいけませんね。

 そして、トランプさんが主張するような「ただ乗り」どころではない金額であることは誰でも分かります。それに加えて、金額に表れない騒音問題や日米地位協定による領空権、領海支配や治外法権などもあります。

 何よりも、2004年とちょっと古いですが、米国防総省が発表した米軍駐留各国の経費負担割合です。日本は74.5%と最大で突出しています。韓国は40%、ドイツは32.6%ですからね。

 同じ第2次世界大戦の敗戦国である日本が米軍駐留費の4分の3近くも負担しているのに、ドイツはわずか3割ちょっとで済んでしまっていますからね。同じ敗戦占領国でも、ドイツ人は、トランプさんの祖先を遡れば行き着くらしく、日本人は単なる黄色人種だから、見下されているようにみえます。

 トランプさんは米国の最高権力者ですから、このデータを知らないわけがありません。それどころか、「日本は米軍駐留費の100%負担しろ」と発言もしていますから、あまり人が良い人には見えませんね。

 そもそも、日本人は米国人に対して、一方的に甘い期待ばかり寄せているんじゃないでしょうか。

 敗戦国日本は、戦後復興のために、米国からガリオア資金(占領地域統治救済資金)とエロア資金(占領地域経済復興資金 )などによって救済されました。ということを歴史の教科書で習いました。そのお蔭で、われわれ戦後間もない日本人の子どもたちは、給食の脱脂粉乳で育ち、飢えを免れました。

 戦後教育によって、米国は「白衣の天使」のような存在と崇められましたが、ガリオア資金などは無償貸与ではなく、後から返還要求され、1972年までに完済したというではありませんか。また、脱脂粉乳は、豚のえさにもならず、余っていたので日本に輸出したらしく、この話は真実かどうか別にしてひどく驚いたものです。

 このように、安保条約は敗戦国日本にとっては不平等条約です。ですから、戦勝国が一方的に破棄するわけがありません。こんなことを書いても、なあんの足しにもなりませんが、大手メディアが報道してくれないもので…。