スマホがなくなる日、あなたは?

 郵便料金が値上げするそうですね。定型封書が84円から110円(31%増)、葉書の63円が85円(35%増)に値上げされるようです。審議会で承認されれば、即、ではなく、人々が忘れた頃に値上げになることでしょう。(来秋という説も)

 それにしても、大幅な値上げです。一気に上がったという感じです。ネットのメールのお陰で、郵便物が減ったことが原因でしょう。年賀状だって、若い人を中心に出さなくなりました。それだけ、郵便局の収入が減少し、輸送費や人件費も上がり、事業継続のためには値上げするしかない、という悪循環にはまったということなのでしょう。

 郵便料金の値上げは、日本だけではなく、欧米先進国も免れていません。英国では、1994年から2023年にかけて20回も値上げして、現在は4倍の0.75ポンド(約135円)、米国は17回値上げして66セント(約90円)になった、と本日12月19日付の日経が書いております。よく調べとるなあ~。

 ネットの普及のお陰で、郵便だけでなく、新聞も出版も斜陽産業になってしまいました。明治の人は想像もつかなかったことでしょう。当時、飛ぶ鳥を落とす勢いのあった成長産業も150年も経てば、零落するという例証になりました。他に、絹糸や繊維産業、鉄鋼、造船産業…日本の戦後高度経済成長期を支えた産業は世界的競争力を失ってしまいました。

東銀座「中国菜 紹興宛」 ※スマホだけでしか注文を受け付けなかったのはこの店ではありません

 その点、今現在の成長産業と言えば、スマホ関連ということになるのでしょうか。先日、東京・銀座の和食店にランチに行って、吃驚しましたよ。注文しようかと思ったら、店員さんが「そこのバーコードで注文してください」と言うのです。えっ? ヒトが目の前にいても、注文すら出来ないとは!

 幸い、私はスマホ中毒者ですから、バーコード読み取りアプリはしっかりインストールしております。ですから、難なく捌けました。でも、レストランでバーコード注文するのは生まれて初めての経験でした。これ、若い人なら簡単なんでしょうけど、高齢者世代はどうなるんでしょうかね? まさに、置いてけぼりになることでしょう。

 今や、スマホがなければ、仕事も遊び(ゲーム)も食事も、何も出来ない時代になってしまいました。そう言えば、私自身も、スマホで買い物したり、確定申告までしたりしてますからね。

東銀座「中国菜 紹興宛」牛肉と香港ライスヌードル炒めランチ 1100円

 でも、そんなスマホも、そしてパソコンも、2050年にはなくなっているという驚きべき予測があるようです(みずほ産業調査)。スマートフォンは、スマートグラスやスマートコンタクトなどに取って代わられるということらしいですが、私のような旧い世代にはもう想像も尽きません。その頃、生きているかどうかも分かんないし。。。

 当然、2050年ともなれば、産業構造が劇的に変化していることでしょう。時代の流れで、狭い日本列島はもっともっと国際色豊かになっているかも知れませんし、相変わらず、喧嘩や訴訟や戦争はなくならず、人々は毎日、恐怖で怯えているのかもしれません。

 駄目ですねえ。いつもながら、こういった悲観的な予想しか出来ないなんて。。。遺伝子なのかなあ? でも、今のウクライナや中東の状況を見ただけでも、とても楽観的にはなれませんね。

 とはいえ、頭脳を図るIQ調査や、国際的な学習到達度調査(PISA)を見ると、人類学的にも? 東アジア人は知性が比較的高いようなので、優秀な日本人が大いに力を発揮して難局を対処してくれるものと期待しております。過去には全く想像もつかなった将棋の藤井聡太八冠や米大リーグ本塁打王の大谷翔平選手が出現するぐらいですから、夢想なんかじゃありません。何と言っても、彼らのメンタルの強さには脱帽します。

年末ジャンボ宝くじを買うなら京都御所ですか?

 ご覧の写真は、年末の風物詩です。早朝から、「東京で一番当たる」と濃厚な噂と評判がある西銀座チャンスセンターの「億の細道」を並ぶ皆々様方で御座います。

 ご苦労さまです。今年も、1等は前後賞合わせて10億円ですか。。。そりゃ、風雨、嵐、豪雪、極寒はものかは。万難を排してでも、並びますよね。

 でもですね。1等の当選確率は、2000万本に1本と公式発表されています。まさに奇跡が起こらない限り、当選は難しいでしょう。それでも夢を懸ける人が大勢いらはります。くじの収益金の一部は、公園遊具を整備したり、消防車を購入したり、福祉活動にも使われるといいますから、彼らがいなくては困ります。私は密かに、彼らのことを「納税者」と呼んでいますけど。。。

 ところで、そんな宝くじに「大河の法則」があることを御存知でしょうか?

 年末ジャンボ宝くじで、翌年のNHK大河ドラマの舞台になる「県」の宝くじ売り場で購入すると高額当選金が、ウッハ、ウッハ当たるというのです。

 昨年の年末ジャンボでは、今年の大河ドラマ「どうする家康」の徳川家康の出身地三河=愛知県の宝くじ売り場で、1等7億円当選が4本も出たといいます。

 来年2024年の大河ドラマ「光る君へ」は、紫式部が主人公ということで、京都府になります。ということで、京都の御所に近い最も有名で売れている宝くじ売り場で、購入すれば、当たる確率が高いというのです。

 これは、全世界の《渓流斎日乗》のご愛読者の皆様だけにお送りする極秘情報です(笑)。もし、その気のある方がいらっしゃいましたら、今からでも遅くはない。京都御所近くの有名宝くじ売り場に飛んでいかれたら如何でしょうか?

 ※この記事は、出典が銘記されていないので、信頼性に欠けます。

心も環境も遺伝によるものだとは!!=安藤寿康著「能力はどのように遺伝するのか」(下)

 2023年12月6日の記事「大谷翔平、藤井聡太の塩基配列は我々と99.9%同じ!=安藤寿康著『能力はどのように遺伝するのか』(上)」の続きです。

 先日、安藤寿康著『能力はどのように遺伝するのか』(ブルーバックス)を読了しましたが、この本の内容について、誤解を招くことなく、どうやってまとめていいやら随分、悩んでしまいました。

 著者の安藤慶大名誉教授も「あとがき」で書いているように、遺伝について語ること自体をタブー視する風潮は、我が国では依然として根強く、教育現場で「学力は遺伝だ」などと言うと、生徒が勉強する意欲をなくすので、「言ってはいけない」ことになっているそうです。「本書はパンドラの箱を開けてしまったことになるかもしれない」とまで書いております。

 著者が専門の行動遺伝学とは、文字通り、行動に及ぼす遺伝の影響を実証的に研究する学問です。一卵性、二卵性の双子のきょうだいの類似性から実証データを収集する「双生児法」が基本になっていますが、既に150年の歴史があるといいます。その結果-。

・「心は全て遺伝的である」、すなわち人間のあらゆる行動や心の働きに、遺伝の影響が無視できないほど効いている。(51ページ)

・環境も遺伝だというと、詭弁だと非難されそうだが、これも行動遺伝学が見出した重要な発見の一つである。つまり、人が出会い、環境を作り出すときには、その人の行動が関わっている。だから、そこには遺伝の影響が反映されているということである。(151ページ)

・親の社会経済階層(収入)と子どもの教育年数とは相関関係が見られ、昨今流行した「親ガチャ」は正しいことになるが、遺伝の影響はそれとは独立に個人差を生み、貧しい家庭に生まれても本人に遺伝的才覚があればのし上がることが出来る(その逆も然り)。(199ページなど)

 ーなどといった驚くべきことが例証されています。

上野・西郷どん

 行動遺伝学は、「分散の学問」とも言われています。世の中には色んな人がいらはりますが、そのバラつきの原因は何なのか、そこに遺伝の違いが関わっているのか、遺伝で説明できない環境の要因で説明することが出来るのはどれくらいあるのかーといったことを研究する学問だといいます。そこで、遺伝による分散をVg、環境による分散をVeとすると、両者を足し合わせたものが表現型の全分散と考えてVpとなり、以下の数式で表されるといいます。 

 Vp=Vg+Ve

 これは、統計学の「分散分析」と呼ばれる手法となり、まさに、行動遺伝学というのは数学であり、科学であるということが分かります。

 その一方で、データ解析によって、遺伝による学力格差や収入格差などが見出され、それに加えて、障害者に対する差別などの問題も表れることから、科学的分析だけでは済まなくなります。いかに一般大衆にも誤解のないように分かりやすく説明するには「文学(レトリック)」の力が必要とされますし、問題を解決するためには、教育や行政による政策も必要とされます。さらに、最後に残るのは倫理問題になるかもしれません。

 パンドラの箱を開けてしまった著者も、行動遺伝学がもたらした危険性を予言して批判したり、逆にそこから新しい教育制度、政治制度、社会思想などを構築する議論が起こるだけでも、「本書を出版した意義は十分にあると信じている」と最後のあとがきで吐露しておりました。

 読者には、重く深い課題を課せられたようなものです。

 私は政治活動をするようなことは不向きですがら、個人的に、困難な状況や難題に遭遇したとき、「遺伝だからしょうがない」と自分自身を諦める納得の材料にしたり、実に嫌な、生意気で性格の悪い人間に遭遇したとき、「こいつ個人が悪いのではなく、単なる遺伝によるものに過ぎない」と思い込むことによって不快感から逃れる手立てにして、なるべく自分自身を追い込まずに精神障害を発症しない手段にしようかと思っています。

 あ、そっか~。何でも自分自身を追い込む生真面目な性格は、遺伝に過ぎないかもしれませんね(笑)。

新聞・通信在京8社とはどこなのか?=報道とはかなり恣意的なものです

 本日12月12日(火)付毎日新聞朝刊に、「社会部長が選ぶ今年の十大ニュース」(新聞乃新聞社主催)の第1位に「自民党派閥パーティー券問題、岸田政権に打撃」が選ばれたことが報じられていました。まあ、妥当な話でしょう。

 この十大ニュースは、在京新聞・通信8社の社会部長が選出するのですが、毎日新聞は、この8社のことを「毎日、産経、日経、東京、共同通信など」と堂々と報じています。8社のうち5社だけがまるで「代表」です。残る3社は、朝日、読売、時事通信なのですが、毎日新聞をトップに持ってくる辺り、毎日新聞のかなり恣意的な「選別」を感じました(笑)。

 そしたら、産経新聞を見てみたら、全く同じ記事が載っていたのです。産経が頭ではなく、「毎日、産経、日経、東京、共同通信など」の順番も同じです。ハハア、これは共同通信の配信記事だったのか! と分かりました。小生は業界人ですからね(笑)。

 よく見てみると、毎日も産経も日経も東京も、共同通信の加盟紙です! 時事通信は共同のライバルですから、わざわざ、なかったことにして、「記事化」しないことは見え見えです。朝日は共同の外信、外報記事は契約していますが、純然たる加盟紙ではないし、読売と共同は大変仲が悪いことは、戦前の読売・正力松太郎社長と同盟通信時代の関係以来の「伝統」です。となると、やはり、共同通信の記者がわざと朝日、読売、時事通信を排除したことはかなり恣意的であり、意図的だったことが発覚してしまったわけです。

上野 ロダン「考える人」

 随分、レベルが低い話になってしまいましたので、もっと大きな国際的な話題に変えます。先日、12月5日、パリを本拠地とする経済協力開発機構(OECD)が、81カ国・地域の15歳(日本は高校1年)約69万人を対象に実施した2022年の国際学習到達度調査(PISA)結果を公表しました。全3分野のうち、日本は「読解力」が前回18年調査で過去最低だった15位から過去最高の3位に躍進。前回5位だった「科学的応用力」が2位、6位だった「数学的応用力」が5位に上がり、世界トップレベルを堅持したことが報道されました。

 しかし、これはあくまでも「日本向けの報道」で、OECDが公表した資料の10分の1、いや100分の1程度しか報道していません。他国のことについてはほとんど報道していなかったからです。「数学的応用力」「読解力」「科学的応用力」の全3分野で第1位に輝いたのはシンガポールでしたが、これは、前回1位を独占しながら、コロナ禍で学校が閉鎖されて今回不参加だった中国(北京、上海、江蘇省、浙江省)のことを割り引いて考えなければなりません。中国が参加していたら、第1位を独占していたかもしれない、ということです。

 今回、国際ニュースとして注目されたことは、欧州各国のレベル低下でした。例えば、「数学的応用力」で、エストニアが510点で7位、スイスは508点で8位、オランダは493点で10位と大いに健闘しましたが、欧州大国であるはずの英国は489点で14位、ドイツは475点で25位、フランスは474点で26位です。米国となると、465点で34位です。469点で31位のベトナムよりも低いのです。日本は536点の5位ですから、右翼雑誌や国家主義者が「欧米なんか大したことない」と大喜びするような結果です。

 加えて、上位に顔を出したのは、シンガポールと日本以外ではマカオ、台湾、香港、韓国です。いずれも東アジアです。そして、これらの国・地域はいずれも過去に欧米と日本の植民地になった所でしたが、「頭の良さなら、東アジア人の方が欧米人より上だ」とこれまた右翼雑誌や国家主義者が喜びそうな結果です。

 ただし、気をつけなければいけないことは、5位の日本の536点にせよ、34位の465点の米国にせよ、点数はあくまでも「平均点」だという事実です。ということは、個別の最低点は日本の方が上であっても、最高点は米国人の方が上であってもおかしくないのです。つまり、日本人は概ね、最高と最低の差が少なく平準化されていますが、米国ではその格差が膨大だということです。成績が悪い奴のお陰で、平均点が下がっているだけで、賢い米国人は日本人なんかよりも遙かに賢い、ということになってしまうわけです(笑)。

 実は、この話は、先日読了した安藤寿康著「能力はどのように遺伝するのか」(ブルーバックス)に掲載されていた2018年に実施されたPISAの結果から導いた著者の見解を翻案して借用させて頂きました。

 いずれにせよ、報道ニュースに関心を持たれる方は、色々と差し引いたり、疑問に思ったりしながら接することをお勧めします。

「現代のアヘン戦争」フェンタニルから情報問題を考える

  私は毎朝、出勤する前にTBSラジオの「森本毅郎・スタンバイ!」を聴いています。その日の新聞6紙(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京)の都内最終版とスポーツ紙(報知、スポニチ、日刊、サンスポ、東中、デイリー)のニュースをコンパクトにまとめて、日替わりにコメンテーターが解説するスタイルです。

 その5人のコメンテーターのうち、2人も私の会社の先輩、後輩に当たる人なので、一緒に仕事をしたことはありませんが、よく存じ上げている方なので、身近に感じています(笑)。要するに取材方法といいますか、ニュースソースといいますか、情報の取捨選択の仕方がどうしても会社の方式(社風)から抜けきれないので、想像がつくという意味においてです。

 最近は、遅くとも朝7時半には家を出るので放送の全部は聴くことができませんけど、本日(12月7日、木曜日)はたまたま所用で有休を取っていたので、朝8時からのコメンテーターによる「深堀解説」を聴くことが出来ました。この日のコメンテーターは日経BP出身のジャーナリスト渋谷和宏さんで、「現代のアヘン戦争」の話でした。

 「現代のアヘン」というのは、フェンタニルと呼ばれる鎮痛剤のことで、医療用麻酔として本来は使われているのですが、合成オピオイドという麻薬性鎮痛剤なので、乱用すると死に至る危険があるというのです。効果はヘロインの50倍、モルヒネの100倍と言われています。

◇あのプリンスも過剰摂取で死亡

 米国ではこの薬物乱用によって、2020年には5万8000人、21年には7万1000人もの人が亡くなったと言われています。あのロック界のスーパースター、プリンスも、ジョージ・ハリスンとバンドを組んだこともあるトム・ペティも、そしてラップ歌手のクーリオも、このフェンタニルの過剰摂取で亡くなったと言われています。

 このフェンタニルは、中国から輸入されているということで、「現代のアヘン戦争」と米国が騒いでいるわけです。表向きは輸入禁止にしても、密輸の形で入って来るか、メキシコ経由で加工されたものが米国に入って来るということで、先のバイデン大統領と習近平国家主席との会談でも、この問題が取り上げられたというのです。

築地本願寺

 この話、知らなかったですね。私は一応、ジャーナリズムの仕事に携わって、毎日、新聞6紙に目を通し、テレビニュースもフォローしているつもりなんですが、これではジャーナリスト失格です。

 コメンテーターの渋谷氏も、随分よく調べているなあ、と感心しましたが、実は、問題のフェンタニルが、ラジオで音声で聴いただけなので、ペンタミンと言っているのか、フェンタミンと言っているのか、聞き取れなかったのです。仕方がないので、スマホで検索してみました。そしたら、国際情勢アナリストの山田敏弘さんという人が今年4月に、何と、時事通信のJIJI.comに「『現代のアヘン戦争』米中間の深刻な懸念」というタイトルで、このフェンタニルのことを詳細に書いていたのです。しかも、内容は、渋谷氏が話していたものと似通っていましたから、恐らく、渋谷氏はこの記事を参照した可能性があるような気がしました。

 まあ、それを言ったらキリがない話でありまして、時事通信に寄稿した山田氏のニュースソースも、彼が一時在職したことがあるロイター通信や、AP通信やニューヨーク・タイムズやワシントンポストやウォールストリート・ジャーナルやガーディアンの記事だったりするわけです。つまり、彼がバイデン大統領に直接取材して談話を取ったわけではなく、外国メディアからの「引用」だというわけです。

築地本願寺

 私はFacebookを始めとしたSNSにはなるべく近づかないようにしています。YouTubeもそうですが、「興行師」サイドは、SNSを、莫大な収益をもたらす宣伝媒体といいますか、洗脳宣撫活動として使っているからです。ニュースの信憑性には大いに欠けるので時間の無駄です。

 とは言いながら、「現代のアヘン戦争」を書いた国際情勢アナリストの山田敏弘さんについて、よく知らなかったので検索してみましたら、他人のSNSの記事から引用した、推測に溢れた「まとめ」記事が出てきて、思わず騙されて読んでしまいましたよ(苦笑)。でも、内容が全く想像の域を出ていません。素人が書いたからでしょう。

 要するに、他人が書いたあやふやな推測記事を引用したものなので、それらは二次情報であり、三次情報だったりするわけです。一次情報に接することが出来る人は、プロの記者や事件事故の当事者に限られていますが、最近のネット社会では、霞ケ関の省庁や地方公共団体もホームページで積極的に情報を公開するようになったので、普通の人でもアクセスすることが出来るようになりました。素人でも、記者会見などの報道資料を読むことが出来るのです。

 無味乾燥の面白くもない、データ解読に必要な知識を要する読みにくい情報も多いのですが、それこそが真の一次情報なのです。

大谷翔平、藤井聡太の塩基配列は我々と99.9%同じ!=安藤寿康著「能力はどのように遺伝するのか」(上)

 12月1日付の渓流斎ブログ「身も蓋もない議論なのか? 究極の理論なのか?=橘玲、安藤寿康著「運は遺伝する 行動遺伝学が教える『成功法則』」の記事の最後の方で、「(著者の)安藤寿康氏には失礼なことを書いてしまったので、安藤氏の近著『能力はどのように遺伝するのか』(ブルーバックス、2023年6月22日初版)を購入して読んでみようかと思っております。大いに期待しています。」と書いたことを覚えていらっしゃる読者の方が、もし、いらしたら、その人は「通」です(笑)。

 目下、有言実行でこの「能力はどのように遺伝するのか」を読んでおります。何しろ「科学の聖典」を多く出版しているブルーバックスですからね。私が子どもの頃に創刊されたあこがれのシリーズです。学術書なので難解ではありますが、購入して良かったと思っています。前回、安藤氏ご自身が、自分の著書について、ネット上の書評で「言いたいことがあるならはっきり言え」「期待外れだった、橘さんの本で十分」などと批判されたことを「あとがき」に書いていたことをご紹介しました。確かに、この本もなるべく断定的な言説を避けているので、失礼ながら、前述の批判も頭に浮かんだりしますが、そこは、誤謬を嫌うデータ重視の科学者としての誠実で真摯な態度の表明と受け取ることが出来ます。

 私も今、回りくどい言い方をしましたが、この本は名著だと思います。何も知らない初心者でも「行動遺伝学」とは何なのか、理解できるからです。この本を知らずに一生を終わるのは勿体ない、と皆さんには言っておきます。

東銀座「紹興苑」

 このブログを長年お読み頂いている皆様には周知の事実ではありますが、私の人生のテーマは、仏画家ポール・ゴーギャンが描いた「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか」の言葉そのものです。そのために、ここ何年も何年も、古人類学や文化人類学、進化論、宇宙論、量子論、物理学、心理学、数学…と難解で不慣れな書籍に挑戦して来たことは皆様ご案内の通りです。その結果、「我々はどこから来たのか 」は大体分かってしまいました。時間も空間もない「無」からインフレーションとビッグバンが起きて138億年前に宇宙が誕生し、46億年前に地球が誕生し、40億年前に生命が誕生し、中略して、700万年前に霊長類の人類がチンパンジーから分かれて「誕生」し、また、中略して、20万年前にホモ・サピエンスがアフリカで出現して、7万年前にアフリカを出て、3万年前に日本列島にまで到達した、ということでした。

 「我々はどこへ行くのか」も分かってしまいました。身も蓋もない話ですが、滅亡します。地球はあと20億~50億年で寿命で消滅することが分かっていますから、生命はその前に絶滅します。このまま、環境破壊と地球温暖化が進めば、もっと早い時期に滅亡することでしょう。別に脅しでも脅迫でもありません。私が言っているのではなく、科学者ら言っているのです(苦笑)。となると、せめて、生きているうちに幸福を求めて生を謳歌するしかありませんよね?

 その前に「我々は何者か 」が残っておりました。これは、人類学や進化論、宇宙論だけではアプローチ出来ません。そんな中で、偶然出合ったのが、行動遺伝学です。そして、手に入りやすいその代表的な関連書籍が前回の橘玲、安藤寿康著「運は遺伝する 行動遺伝学が教える『成功法則』」(NHK出版新書)であり、今回の安藤寿康著「能力はどのように遺伝するのか」(ブルーバックス)であると言っても過言ではないと思っています。

東銀座「紹興苑」牛すじ煮込みランチと点心(点心は写真に写っていません) 1400円

 さて、前置きがあまりにも長くなってしまったので、本日取り上げるのは「第1章 遺伝子が描く人間像」です。私が一番驚いたことを書きます。今年(2023年)、最も話題になった「天才」として、二刀流の大谷翔平選手と将棋八冠の藤井聡太さんがおりますが、彼らのDNAの塩基配列の99.9%までが我々と同じだというのです。えっ?です。違うのは0.1%だけで、そこに「個人差」の源泉が潜んでいるというのです。もっとも、この後、読み進めていくと、わずか0.1%しか違わないと言っても、ヒトの遺伝子は30億の塩基対から成るので、その0.1%とは300万、つまり、300万カ所に個人差があるというのです。

 なあんだ、ですよね。この後、第2章に入ると「才能は生まれつきか、努力か」という話になり、フィギュアの4回転半ジャンプも、難曲のピアノ演奏も、野球やサッカーや囲碁将棋も、才能によるのか、努力が開花したのか、要するに、遺伝なのか、環境によるものなのか、生まれつきなのか、練習のたまものなのか、といった悩ましい話になってきます。しかし、実に興味深い話です。自分とは一体何者なのか? あの嫌〜な奴は、何であんなにあくどい悪賢い人間なのか?(笑) 何で彼はそんなにメンタルが強いのか? それなのに、自分は何で気弱で、毎日悩み苦しんでばかりいるのか?ーといった難題を解くヒントになります。

 なお、22ページには必須アミノ酸20種類がどんな塩基に対応しているのか(これは「コドン」と呼ばれる)という「DNAコード表」が掲載されています。「AGA」が「アルギニン」、「GGT」が「グリシン」などとなっていますが、これが今の高校の生物で習うとも書かれています。

 えっ?!私が高校生の頃は全く習いませんでしたよ! それだけ、学問は日進月歩、進化しているということですよね。だから、幾ら歳を取っても、勉強し続けなければならない、ということになりますか。

英国人捕虜を連行した憲兵軍曹大山勉は東京外語仏語部出身だった=インテリジェンス研究所特別研究員名倉有一氏の業績(その2)

 全く意図しておりませんでしたが、昨日、この渓流斎ブログに書いた「日本軍捕虜の英国人遺族の娘が78年ぶりに来日した物語=インテリジェンス研究所特別研究員名倉有一氏の業績」の続きのような読み物を本日書くことになりました。

 あれから、また名倉氏から「資料」が送られてきたのです。「駿河台分室物語 対米謀略放送『日の丸アワー』の記録」です。昨日、添付しようとしたら、容量が大きすぎて添付出来なかったことを書きましたが、同じ「駿河台分室物語 対米謀略放送『日の丸アワー』の記録」の中でも、これは別物で、対米ラジオ放送の協力を拒否した英国人捕虜のウィリアムズさんを東京憲兵隊本部へ連行した大山勉・憲兵軍曹の履歴に絞った資料でした。

 送られて来た資料を読んで驚きました。大山勉憲兵は、1939年に東京外国語大学仏語科(当時は、東京外国語学校仏語部文科)を卒業した人で、小生の大先輩に当たる人だったからです。

 こちらの資料は、容量がそれほど大きくなかったので、うまく添付することが出来ました。名倉氏が、小生にわざわざ「大山勉」の資料を送ってくださったのは、私が東京外国語大学のフランス語科のOBだということを存じ上げていたからのようでした。

 東京外語大の仏語科出身の歴史的人物といえば、無政府主義者の大杉栄や詩人の富永太郎、中原中也、それに作家の石川淳らがおり、いずれも、「反体制派」の烙印を押されてもおかしくない人ばかりです。いや、むしろ、体制に準じない反骨の精神を誇りに思っている人が少なくないと言っても良いでしょう。私自身も含めて(笑)。このほか、東京外大出身で、反骨精神に溢れた人物として、作家の永井荷風(清語)、新美南吉(英語)、二葉亭四迷、島田雅彦(露語)を挙げておきます。

 嗚呼、それなのに、体制派べったりの憲兵さんが先輩にいたとは! 勿論、語学力を生かして、外務省に入省したり、総合商社に就職したりする「体制派」の方々も多いのですが(笑)、憲兵さんとなるとどうも異色です。

 名倉氏から送られた資料には、大山勉の学友(同級生)で満鉄東京支社調査室に勤務したこともある武博宜氏の書簡も掲載されていますが、「(大山勉と)私とは昭和10年から14年まで東京外語の仏語部で一緒でした。旧制中学は当時名門だった府立四中(現都立戸山高校)でしたから勉強はよく出来ました。時折、改造社辺りから出版されたブハーリン、トロツキーなどの書籍を小脇に抱えていたのを覚えています。後年、憲兵になったー恐らく志願したのでしょうーことを思い合わせると違和感を覚えます。」と証言するほどでした。

赤羽

 その一方で、池田徳真著「日の丸アワー―対米謀略放送物語 」(中公新書)にはこんなエピソードが紹介されています。

 また時には大山憲兵の部屋にいって、話し込むこともあった。彼の部屋をみるとこれまた不思議である。フランス語の本がずらりと並んでいて、彼自身はゾラやモウバッサンの小説をフランス語で読んでいる。それは私たちの憲兵のイメージとだいぶ違うので聞きただしてみると、彼が言うには「私は仏文卒で、フランス語の勉強を命じられているのです」とのことであった。

 恐らく、仏印などに派遣された時に、現地で尋問や通訳・翻訳としてフランス語を使う場合もあるので、大山も上司に命じられて仏語の勉強を続けていたということなのでしょう。(実際、大山は、日米開戦後は、仏印サイゴンの憲兵隊に転勤した。)

 戦後、憲兵だった大山が、公職追放されたのか、そして、どんな生活を送ったのか、この資料だけでは不明ですが、晩年は宇都宮に住んでいたようです。戦後まもなく、大山は、富士山麓の農民の先頭に立って、米軍の実弾射撃訓練に反対する行動を指導していたという噂があった一方、大山の同級生の武氏は「戦後、大山君が『反米』『反戦』の立場を取っていたかどうかについては、全く心当たりがありません。彼との間でその種の話を交わした記憶はありません」(1998年3月24日付、名倉氏宛て書簡)と証言しています。

 物静かな人だったらしいので、指導者の噂は眉唾ものだったと思われます。依然と、大山憲兵軍曹の履歴は謎に包まれていますが、もし彼が戦争がない時代に生まれていれば、フランス文学者になっていたのかもしれません。

 日本軍捕虜の英国人遺族の娘が78年ぶりに来日した物語=インテリジェンス研究所特別研究員名倉有一氏の業績

 《渓流斎日乗》は、ブログながら「メディア」を僭称させて頂いております。日本語で言えば「媒体」ですので、たまには他人様のふんどしで相撲を取らせて頂いても宜しゅう御座いますでしょうか? 報道機関と呼ばれる新聞社の記者も取材と称して、政治家や専門家の話を聴いて活字にしているわけですからね(笑)。

 本日取り上げさせて頂くのは、インテリジェンス研究所の特別研究員である名倉有一氏の「業績」です。名倉氏はアカデミズムの御出身ではなく、堅いお仕事を勤め上げながら、一介の市井の民として地道に研究活動を続けておられる奇特な方です。

 彼の業績を一言で説明するのは大変難しいのですが、第一次世界大戦の敗戦国ドイツや、第2次世界大戦の連合国(米、英、蘭など)の捕虜たちの日本での収容所の記録を収集し、今日的意義を研究しています。このほか、太平洋戦争中、対米謀略放送「日の丸アワー」などを放送していた東京の参謀本部駿河台分室(1921年、西村伊作らによって創立された「文化学院」が、戦時中に摂取されて捕虜収容所になった。現在は、家電量販店ビックカメラ系の衛星放送BS11本社があるというこの奇遇!)に関する研究もあります。

 このほど、名倉氏から送付された「記録」を以下にご紹介します。

 

 続いて、もう一つ、二つ、名倉氏編著による「駿河台分室物語 対米謀略放送『日の丸アワー』の記録」などを添付しようとしましたが、容量が重すぎて、この安いブログに添付掲載することが出来ませんでした。残念!!(ITに詳しくないのですが、そのため、このブログに写真を掲載する際、容量をオーバーしないように、私はわざと画質を落として掲載しています。)

 仕方がないので、朝日新聞ポッドキャストに掲載された以下の3話をご視聴ください。これは、日本軍の捕虜になった英国人チャールズ・ウィリアムズさん(1918~94年)の遺族である娘のキャロライン・タイナーさんが、今年9月、父親が日本人から譲り受けた半纏を78年ぶりに「返還」した感動の物語です。

 名倉氏は捕虜収容所研究の大家ですから、今回、英国人のキャロラインさんと日本を橋渡しするコーディネーター役として活動されました。(名倉氏は、キャロラインさんの父ウィリアムズさんとは生前に英国でお会いしています。)

 ・ある捕虜の足跡① 「亡き父が大切にしていた1着の上着 敵国の男性からの贈り物だった」 

 ・ある捕虜の足跡② 「『命は保障しない』それでもNOを貫いた イギリスの若者はなぜ長野へ」(名倉有一氏も登場します。)

 ・ある捕虜の足跡③ 「秘密の戦争ビラづくり、家族にも言えなかった 脳裏に残る彼のこと」 

 上記、引用添付には音声のポッドキャストだけでなく、関連記事も掲載されていますので、お読みになって頂ければ幸いです。

浮世の憂さから逃れられる良書=永野裕之著「教養としての『数学Ⅰ・A』 論理的思考力を最短で手に入れる」

 永野裕之著「教養としての『数学Ⅰ・A』 論理的思考力を最短で手に入れる」(NHK出版新書、2022年4月10日初版)を先日、読了しました。この渓流斎ブログでこの本について初めて触れたのが、11月17日に書いた「そうだ、何歳になっても数学を勉強しよう」でしたから、11月の後半は、通勤電車の中でどっぷり数学に浸かっていたことになります。頭の悪そうな老人が、スマホのゲームをしないで、数学の本を読んでいるなんて、さぞかし異様な光景だったことでしょう。

 それでいて、数学を勉強している本人は、一瞬ながら浮世の憂さを逃れる気分になることが出来ました(苦笑)。恐らく、心配したり悩んだりする脳の器官(もしくは部位)と、数学の難問を解く脳の器官は別になってるんじゃないかと思います。

 前回にも書きましたが、数学の勉強をしたのは、予備校時代以来約半世紀ぶりでしたから、すっかり錆びついていた、どころか、完璧に忘れていました。中3で習う二次方程式の解の方程式すら忘れていたわけですから、もう何をか況やです。

 それに文部科学省の「学習指導要領」が半世紀前の昔とは大幅に変わっていますから、我々の世代ではそれほど深く習わなかったか、もしくは理科系の「数Ⅲ」で習うような「集合」や「確率」などが今では「数ⅠA」の段階で教えられていることを知りました。

 それに加えて、19世紀のドイツの天才数学者ガウス(1777~1855年、ナポレオンと同時代人!)の「合同式」(a と b とが法 n に関して合同であることを表記するとa ≡ b (mod n)となる。)なんかも掲載されていて驚くばかりです。

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 この本の趣旨は、数学の公式だけを単に丸暗記するのではなく、それに至るプロセスや問題解決能力を養うことを目的に「論理的思考力」を涵養することにありましたが、その通り、文学的、情緒的、感覚的思考力ではない明晰な思考力が身に着くような気がしました。そういう意味では、大変な良書です。確かに、社会に出れば、殆どの人は、sin、cos、tanも、平方根も、三角関数も、微分積分も、つまり、数学を使うことはないので、役に立たない学問だと錯覚しがちですが、そうではなかったことが分かったわけです。

 17世紀半ばに活躍したフランスの哲学者デカルトは、私も影響を受けた哲学者ですが、彼は代数学全盛の時代に、座標軸を発明し、古代ギリシア時代以来埋もれてしまっていた幾何学を復興した人でした。つまり、デカルトの哲学とは数学的思考によって裏付けられていたというわけです。(その逆も言えます。プラトンは、アテネ郊外に創立した哲学学校の校門に「幾何学を知らぬ者、くぐるべからず」と掲げたそうです。)

 だからこそ、ヨーロッパでは、古代ギリシャの数学者ユークリッドが書いた「原論」を20世紀初頭まで、2000年間も現役の数学の教科書として使われていたといいます。(ユークリッド幾何学は、2次元平面を前提とした幾何学なので、平行線公準は成立しますが、球面上の幾何学では平行線が交わることがあります。こうして、平行線公準を否定することによって、非ユークリッド幾何学が生まれました。)

 とにかく、数学的思考は奥が深いのです。人間としてこの世に生まれてきたからには、数学は、役に立つとか立たないとかいった打算に左右されることなく、論理的思考力を涵養するために学ぶべきだということをこの本で教えられました。いつか、もし、続編の「教養としての『数Ⅱ・B』」が出版されれば、絶対に買います。

身も蓋もない議論なのか? 究極の理論なのか?=橘玲、安藤寿康著「運は遺伝する 行動遺伝学が教える『成功法則』」

昨日は、橘玲、安藤寿康著「運は遺伝する 行動遺伝学が教える『成功法則』」(NHK出版新書)を読了しましたが、あまりにも面白かったことと、専門用語が沢山出来てきたこともあり、もう一度、軽く再読しました。勿論、再読する価値はありました。専門用語とは、GWAS(ゲノムワイド関連解析)とか、MAO(モノアミン酸化酵素)-A遺伝子とか、SES(社会経済的地位)等々です。

  この本については、11月27日にも触れましたので、それと重ならないことを書かなければいけませんけど、ダブったらすみません(苦笑)。行動遺伝学とは、前回ご説明しましたが、行動遺伝学者のエリック・タークハイマーが「行動遺伝学の3原則」の第1番に「ヒトの行動特性はすべて遺伝的である」としていることに象徴されます。つまり、人との出会いや本や趣味などとの出合い、そして事故や病気までもが、全くの偶然ではなく、何らかしら、遺伝的要素によるものだ、ということを治験や双生児らの成長記録などからエビデンスを探索して証明するという学問が行動遺伝学だと大ざっぱに言って良いと思います。

 行動遺伝学の日本の第一人者が、慶応大学の安藤寿康名誉教授で、「言ってはいけない」などのベストセラーになった著作で世間に行動遺伝学なる学問を認知させたのが作家の橘玲氏ということで、この2人による対談をまとめたものが本書ですから、面白くないわけがありません。

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 私が他人に共感したりすることが出来るのは、その人が、他人に見せたがらない、知られたくない自分の「弱さ」を正直に披瀝した時があります。特に安藤名誉教授は、長年、行動遺伝学に関する書籍を出版しても世間から注目されず、50歳を過ぎるまで、自分の学問は何の役に立たないといった劣等感でいっぱいだったことを告白しています。50歳を超えて色んな経験を積んだことでようやく自分の居場所に気づけたといいます。安藤氏は大変、正直な人で、「あとがき」で「実は『橘玲』の名前はよく目にしていたものの、私が苦手で無関心とするお金儲けの話や、人の心を逆なでするようなタイトルの本ばかり出すという先入観で、申し訳ないが手に取って読んだことがなかった」とまで書いちゃっています。勿論、この後には、行動遺伝学を世間に知らしめた橘玲氏の「言ってはいけない」を読まざるを得なくなり、読んでみたら、教え子の学生や研究仲間以上に実に正確に深く理解して持論を展開していたので、感服したこともちゃんと書いています。

 安藤氏は、橘氏の著作について、「偽悪的芸風の行間に垣間見られる愛」と喝破し、自分の芸風については「偽善的とも受け取られるような姿勢」と自認していますから、本書は、「偽悪」対「偽善」の対談ということになりますか?(笑)。というのも、行動遺伝学そのものが、もともと悪の学問である優生学を同根としているからだと安藤氏は言います。誰だって、「年収や学歴や健康は遺伝によるもので、環境(子育て)の影響はさほど大きくない」などと言われれば、身も蓋もないと感じることでしょう。その半面、両親に収入も学歴がなくても、「鳶が鷹を産むことがある」とか、「作曲家・指揮者レナード・バーンスタインの両親は全く音楽の才能がなかったのに…」といった例が挙げられたりしています。

 勿論、安藤氏は学者としての誠実さで科学的知見を披露しているだけなのですが、ネットの書評では「言いたいことがあるならはっきり言え」「期待外れだった、橘さんの本で十分」とまで書き込まれる始末です(苦笑)。

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 一方の橘氏は、確かに作家的自由奔放さで、大胆な仮説をボンボン提案しています。例えば「ADHD(注意欠如・多動性)が発達障害とされるのは、…現代の知識社会が、机に座って教師の話をじっと聞いたり、会社で長時間のデスクワークをする能力が重視されているからです。環境が目まぐるしく変わる旧石器時代にはADHDの方が適応的だったはずだし、だからこそ遺伝子が現代でも残っているのでしょう」と発言したり、「攻撃性を抑制して高い知能を持つようになった東アジア系は、全体的に幼時化していったと私は考えています。社会的・文化的な圧力で協調的で従順な性質に進化していくことを『自己家畜化』といいますが、…『日本人は世界で最も自己家畜化した民族』だということを誰か証明してくれることを期待しています」などと、持論を展開したりしています。同感ですね。このような発言を読んだだけでも、頭脳明晰な橘氏が相当、行動遺伝学の関連書を何十冊も読み込んで、持論にしていることが分かります。確かに、「橘さんの本で十分」かもしれません(失敬!)。

 安藤氏には失礼なことを書いてしまったので、安藤氏の近著「能力はどのように遺伝するのか」(ブルーバックス、2023年6月22日初版)を購入して読んでみようかと思っております。大いに期待しています。