百花繚乱の参院選

 よどみに 浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。 

 ということで、今日は7月21日投開票の参院選についてー。

 参院選が終われば、どうってことないお話で、読み返されることはなく、久しくとどまることがないお話です。

 参院選立候補者の顔ぶれを見たところ、色んな方がいらっしゃいます。医者、弁護士、公認会計士、前地方知事、前地方議会議員、大学教授、デザイナー…ま、いいでしょう。

 元ホステス? どんな方でしょう?この方、結構有名な方で、銀座8丁目の高級クラブ「J」のナンバーワンだったとか。「筆談ホステス」という御著書も出版され、区議会の議員もやっていた人でした。

銀座5丁目

 私の職場から歩いて行ける高級クラブ「J」は、明朗会計で、セット料金お一人様3万5000円。サントリー山崎のボトル4万円。「料理」として大々的に公式HPに掲載されているのが、あたりめ4000円、チョコレート盛り4000円など。ホステス様とは、その前に系列店で食事しなければならないので、一晩で37万円ぐらい掛かるようです。安い!今度行ってみますか。(と書いておきます。)

 元国民的アイドルグループのメンバーだった方も立憲民主党から立候補していますね。4人のお子さまを持つお母さんの目線で立候補したそうですが、 彼女にどんな政治理念と政治哲学があるのか興味があります。 元アイドルを押す立憲民主党も有権者に対して何を考えているのか興味あります。

 立憲民主党からは、「恋のから騒ぎ」出身の元グラビアアイドルで、都議会議員の時代に名を馳せた方も立候補されています。また筑波大学付属駒場高~東大法学部~朝日新聞政治部記者の経歴を全面的に押し出している方も立候補してますね。

 東京ではあの野末陳平さんが無所属から立候補していたことには驚きました。御年87歳。歳月日々に疎し。若い人は知らないでしょうね。

 政府自民党は、森永製菓と講談社「ViVi」が全面的に圧倒的な支援をしているので、詳細は略します。

 立候補者が公示された新聞を見たとき、「N国党」とか「安死」とか見慣れない諸派政党がありました。これで、政治に関心ないことがバレてしまいましたね(苦笑)。

 「安死」とは、「安楽死制度を考える会」のこと。北海道から福岡まで全国で10人が立候補しているようです。

 「N国党」とは、「NHKから国民を守る党」のことで、NHKの受信料制度を改廃することを公約に掲げています。今回37人も立候補することから、天下のNHKも、この党について真面目に放送しなければならず、アナウンサーが真面目に党名を言うたびに失笑したくなります。確かに、最近のNHKは、吉本系のお笑いタレントやジャニーズ系のイケメンを番組に多く登場させて、民放と変わらなくなりましたから、受信料に見合う存在意義はないでしょう。

 ネット社会となり、「N国党」を検索すると、早くも離党や除名の話題が囁かれています。

 かつて、政党広報は、厳しくメディアで規制されていましたが、ネット社会になると、規制しようもなく、それに乗じて、自民党も-活字媒体の雑誌にも進出するようになったのかしら?まあ、識者によると、党幹部が期待するほど宣伝効果は薄いらしく、何と言っても、投票率そのものが低いわけですから、どれほどの影響力を持つのか不可知です

 あの人工知能(AI)専門家の新井紀子氏がテレビ番組で「若い人たちの読解力の低下は目に余るほどで、そんな人たちが、選挙公報を読み説く力があるのでしょうか」と心配してましたが、見ていた私は「そこからですか?」と思わず突っ込みたくなりました。

「政友会の三井、民政党の三菱」-財閥の政党支配

やっと、筒井清忠著「戦前日本のポピュリズム」(中公新書、2018年3月10日再版)を読了しました。

 先日、「昭和恐慌と経済政策」(中村隆英著)などに出てきた「帝人事件」などを話を友人の木本君に話したら、「この本にも『帝人事件』のことが出てきたよ。読んでみたら」と、貸してくれたのでした。

 中村教授の本が経済の側面から昭和初期をアプローチしているのに対して、筒井教授の本は、日露戦争終結直後の「日比谷焼き打ち事件」に始まり、昭和初期の「統帥権干犯問題」「天皇機関説事件」など、政治的、社会的事件を扱ったものです。

 筒井教授の著書は、タイトルの「ポピュリズム」にある通り、大衆の群集心理とそれを煽るマスメディアとの関係を描いていますが、ちょっと大衆デモと新聞報道との因果関係を強調し過ぎている嫌いがあります。

 大衆は、インテリ階級が考えているほど無知蒙昧でもなく、案外したたかに計算しており、新聞は、学者が思っているほど堅忍不抜ではなく、また、確固とした主張もなく時流に流され、自分たちの影響力を認識していないケースが多いからです。

 前半では、1905年の日比谷焼き打ち事件、1914年のシーメンス事件にからむ山本内閣倒閣運動、1918年の普選要求と米騒動など、今から100年ぐらい前の事件が登場しますが、100年経っても、世相はあまり変わらないなあと思ってしまいました。

 米国ではトランプ大統領が当選して、移民国家なのに、早速、本人は移民排撃政策を掲げましたが、移民排斥は今に始まったわけではなく、1924年5月15日には、「排日移民法案」が上下両院で可決されています。よく働く日系人たちは、「移民先では脅威と感じられた」からだそうです。この歴史的事実は、今の現代日本人はほとんど知りませんが、当時の反日運動の中で、プールでは「日本人泳ぐべからず」との看板が掛けられたのでした。(日本はその後、1930年代の上海租界で、同じような看板を立てました)

 カリフォルニア州の日系移民排斥の立て看板には「JAPS DONT LEAVE THE SUN SHINE ON YOU HERE   KEEP MOVING」と書かれました。「鬼畜日本人よ ここではお前たちに太陽の恵みを与えてやるものか とっとと出ていけ」とでも訳されることでしょう。つい最近、わずか95年前の出来事です。

 これに対して、日本では同年5月に米大使館前で抗議の切腹自殺が行われたり、東京と大阪の主要新聞社19社が米国に反省を求める共同宣言を発表したり、翌6月には帝国ホテルに60人が乱入して、「米国製品のボイコット」「米人入国の禁止」などを要求したビラを散布したりしました。これも、そのわずか95年後の現在、どこかの国で日本製品のボイコットが叫ばれたりして、何となく、既視感を味わってしまいました。

 さて、1931年9月18日、柳条湖事件をきっかけに満洲事変が勃発します。それまで、一貫して「反軍部」と「軍縮」を主張していた朝日新聞が、大旋回して社論を180度変更します。これまで陸軍批判の急先鋒だった(大阪朝日新聞主筆の)高原操は、10月1日の大阪朝日新聞紙上で「満洲に独立国の生まれ出ることについては歓迎こそすれ、反対すべき理由はない」とすっかり「転向」します。

 この背景には、著者は、朝日の不買運動があったことを挙げています。「満洲事変後、『朝日』に対する不買運動は奈良、神奈川県、香川県善通寺などで拡大、『3万、5万と減っていった』という。これに対して、『大阪毎日』は拡張していった。朝日の下村海南副社長は『新聞経営の立場を考えてほしい』と発言し、10月中旬の重役会で『満洲事変支持』が決定した」といいます。会社ですから、ビジネスを重視したわけです。

 こうして、大新聞は「軍神物語」を書きたてて、1945年8月15日の終戦まで、イケイケドンドンと大衆を煽り立てたわけですね。

◇反対党の家の消火はしません

 この本では、昭和初期の二大政党だった政友会のバックには三井が、民政党のバックには三菱がついており、財閥が政党を支配していたことが書かれています。こんな調子です。

 大分県では、警察の駐在所が政友会系と民政党系の二つがあり、政権が変わるたびに片方を閉じ、もう片方を開けて使用するという。結婚、医者、旅館、料亭なども政友会系と民政党系と二つに分かれていた。例えば、遠くても自党に近い医者に行くのである。…土木工事、道路などの公共事業も知事が変わるたびにそれぞれ二つに分かれていた。消防も系列化されていた。反対党の家の消火活動はしないというのである。(176ページ)

 なるほど、こんな極端のことが起きていたんですね。これを読んで、クーデターを起こした青年将校や右翼団体員たちが、財閥とともに、政党政治を批判していたことがやっと分かりました。

あと、細かいことですが、この本では、満洲事変の前に起きた1931年8月に公表された有名な中村大尉事件のことにも触れていますが、最後まで中村大尉で押し通して、名前が書かれていません。(実際は、中村震太郎大尉)この他にも、何カ所か、名前の姓だけしか表記されていないところがありました。

また、高原操のように、氏名だけしか書かれておらず、相当の知識人や研究者ならすぐ大阪朝日新聞社の主筆と分かるかもしれませんが、大抵の読者はピンと来ません。せっかく一般向けの教養書として書かれたのなら、もう少し簡単な説明や一言が欲しい気がしました。

アンダークラスが国を滅ぼす?

 世間の皆様は、職場や喫茶店や居酒屋などでどんなお話をされているのか、見当もつきませんが、私の周囲は、私に似て(笑)真面目な人が多いせいなのか、政治や経済、社会問題についてばかり話題にします。例えばー。

 「参院選の焦点は、憲法改正ではなく、非正規雇用や年金問題でしょう」

 「今注目されているMMT(現代貨幣理論)は、昭和の高橋是清財政と共通点があるのではないか?」

 「毎日、日替わりメニューのように、高齢ドライバーによる死亡事故と幼児虐待のニュースが続いているなあ」

 といった感じです。馬鹿馬鹿しい、浮いた話はありません(笑)。

 A型日本人のインテリの典型なのか、非情にペシミスティック(悲観的)で、聞いている私も暗い気持ちになってしまいます。

 例えば、今、「アンダークラス」という階層が、社会問題になっていて、将来も経済財政問題に発展するだろうという悲観的予測です。

 アンダークラスというのは、現在30代後半から40代にかけての団塊ジュニアと呼ばれる世代に多く、彼らは「超就職氷河期」でなかなか正社員になれなかった世代です。いわゆる非正規雇用ですから、年金積み立てを払うのも苦しい。つまり、年金を支える世代なのに、納められないとなると、年金制度そのものが破綻する恐れがあるというのです。しかも、非正規雇用者が高齢になると、収入がなくなり、年金も貰えないので生活保護の対象となり、国家財政の負担も莫大になるというのです。

 今は、大企業が、非正規雇用者を安い賃金で使って、内部留保を溜め込んでも、将来は社会全体が機能しなくなるという悲観的予想です。

 彼は、社会全体の問題なら、政治問題にしなければならず、例えば、非正規雇用者が余裕を持って年金積み立てが支払えるように正社員にするべきではないかというのです。

 もう一人は、災害問題です。今はまだ動けるのでいいが、これから30年以内に関東大震災クラスの大地震が必ずやってくる。そんな時、80代を過ぎていて、身体が動けなかったりしたらどうしたらいいものか、東京から引っ越すべきか、心配で夜も眠れないというのです。

 いやあ、確かにその通りですが、それを聞いて私なんか「杞憂」という言葉が浮かんできました。メディアでは「人生100年時代」と、何とかの一つ覚えのように囃し立てておりますが、誰もが80代まで長生きできるとは限りませんからね。

 その方は、最近、人口知能(AI)にも凝っていて、将来、AIによって、今の50%仕事が25年以内になくなるという予想を信じ込んでおり、仕事を追われて、職業がない、社会に役立たない連中は「不要階級」と呼ばれるんだよ、と目をキラキラさせて開陳するのです。

 ハラリの「ホモ・デウス」からの引用らしいですが、人間を役立たずの不要階級に分類するなんて、あんまりですよね?

 インテリさんと話をしていても気分が暗くなってしまうし、面白くないなあ(苦笑)。

 だから、賢い世間の皆様は、政治や社会に関心がなく、参院選にも行かず、行っても、「他の党より良さそうだから」という気分で選んだり、芸能人のスキャンダルに喜んだり、電車の中でスマホゲームに熱中したり、原宿の人気店のタピオカを並んで買ったりしているんですね。

 そりゃあ、暗い気持ちになれるはずがない。。。

 

童話「オズの魔法使い」は経済書だった?

 最近、いろんな本を読んでいると、これまで長く生きていながら、知らなかったことばかり見つけます。

 例えば、万有引力の発見で知られる英国のアイザック・ニュートン。彼は、科学者だとばかり思っていたら、実は経済とも関係があり、英国造幣局の長官を務め、1717年に金と銀の価値比率 を1:15.21とする「ニュートン比価」を定めた人だったんですね。(ただし、ニュートンは市場の銀の金に対する相対価値を見誤ったようで、その後、英国を金本位制に移行する要因にもなったとも言われています)

 もう一つは、世界中の子どもたちが一度は読んだことがある童話「オズの魔法使い」です。1939年に、ジュディー・ガーランド主演で映画化され、知らない人がいないほどの作品です。

 それが、実は、子ども向けの童話ではなく、様々なことが隠喩、暗喩された経済書として読めるというお話なのです。何しろ、オズOZとは、金の重量の単位オンスと同じですからね。知らなかった人はビックリ。御存知の方にとっては「何で今さら?」というお話です。

  著者は、米国人児童文学作家ライマン・フランク・ボーム(1856~1919年、享年62)。この本は、1900年秋の大統領選挙前の5月に出版されました。大統領選は、共和党マッキンレーと民主党ブライアンとの闘いで、1896年に次ぎ、二度目です。 ボームが支持していたブライアンは、金銀複本位制の復活を主張しますが、またも敗れて、マッキンレーが再選します。

 この大統領選挙戦の最中に執筆された「オズの魔法使い」は、19世紀の米国経済が如実に反映されているというのです。

  経済史家らによると、カンザス州の自宅が竜巻でオズの王国に吹き飛ばれた主人公の少女ドロシーは、米国の伝統的価値観を代表し、子犬のトトは、米国禁酒党(Teetotalers)を象徴しているといいます。

 旅の途中でドロシーが出会ったカカシは、黄色のレンガの道で何度も転ぶことから、カカシは、金本位制(黄色のレンガ道)によってデフレに苦しんだ農民の象徴。ハートがないブリキの木こりは、工業労働者を意味し、臆病なライオンは、民主党大統領候補のブライアンのことだといいます。

 このほか、東の悪い魔女は、農民を圧迫するウォール街の金融や工業界を象徴し、第25、27代クリーブランド大統領を示唆し、 西の悪い魔女は、西部の鉄道王、石油王を象徴し、第28、29代マッキンリー大統領を示唆しているそうです。

 さらに、オズ王国には東西南北の4カ国があり、米国に類似しているといいます。それぞれ色によって分類され、東部は工業地帯のブルーカラーから青、南部は赤土から赤、西部はカリフォルニア州で金鉱が発見されたことから黄色。エメラルドの都となる北部ワシントンD.C.はドル紙幣の色から緑で表現されるといいます。

 最後に、ドロシーは、銀の靴の魔力でカンザスへ帰ることができますが、途中で靴をなくして「二度と見つからなかった」。これは、ボームが支持していた金銀複本位制が次第に衰えていく様子を暗示したといいます。

 誠にうまくできた話ですが、児童文学研究者のほとんどは、「ボーム自身はそこまで言っていたわけではない」と否定的な意見も多いようです。

 1973年に大ヒットしたエルトン・ジョンの「 グッドバイ・イエロー・ブリック・ロード」は、「オズの魔法使い」に出てくるあの「黄色のレンガ道」から採られたといわれてます。…もう一度、聴いてみますか。

ショパンの何という曲だったか・・・?

 6月29日付のこのブログで、ポーランド映画「Cold War あの歌、2つの心」の感想文を書きました。

 実は、その中で、映画中に引用されていた、恐らくショパンだと思われるピアノ曲の題名がどうしても思い出すことができず、ブログでは「ショパンの作品」と誤魔化していたのでした。(後で、直しておきましたが=笑)

 私の趣味といえば、音楽ぐらいでして、お小遣いも本かCDばかり買っていた時期がありました。音楽のジャンルは、ロックからポップス、クラシック、ジャズ、ボサノヴァと洋楽中心でしたが、幅広く聴いて、レコードも集めていました。だから、映画に使われるクラシックやポップスなら何の曲か、大抵分かります、と書いておきます。(ついでに、「Cold War」のエンディング曲で使われたのは、グレン・グールド演奏のバッハの「ゴルドベルク変奏曲」に間違いないと思います)

 勿論、ショパンも何枚か持っています。映画を観た後、家に帰って、ショパンのピアノ曲ならタイトルぐらい簡単に分かると高を括くりながら、確認のために、自分の持っているCDをかけまくりました。当初その曲は、エチュードの「革命」か、ポロネーズの「軍隊」かと思い込んでいたのですが、どうやら違うようでした。

 そこで、ポリーニ演奏の「ポロネーズ」「エチュード」「マズルカ」、ポゴレリッチ演奏の「前奏曲」「ノクターン」、そして、ホロヴィッツ演奏の「ショパン・ピアノ曲集(ワルツ、スケルツォ、バラード、即興曲)」を何時間かかけて聴きまくりましたが、どうしても見つかりません。ブログはこうして苦労して書いているのです(笑)。

Copyright par Kyoraque-sensei

 最後の手段として、音楽大学を出て、ピアノ教師をやっていたGさんです。彼女に「この曲、タイトルは何?」と聞くことです。ものの数秒で答えが返ってくると思ったのでした。でも、どう伝えるか?

 頭の中で浮かんでいる例の曲を口ずさんでみましたが、我ながら音痴で、音程が取れず駄目でした。仕方がないので、ラルゴかレントのサビの部分だけ、ギターで弾いてみて、それを録音添付してメールで送ってみました。

 で、結局、私の伝え方が悪かったのか、答えは「よく分からない。お役に立てず、ごめんなさい」でした。実は、私が送ったメールは彼女に届いたのですが、彼女からの返信はどういうわけか私には届かず、再度、電話で確かめてみたのでした。

 電話で、いろいろやり取りして、下手に口ずさんでいくうちに、彼女は「それなら『幻想即興曲』かもしれない…」と言うのです。

 その曲が入ったCDは、家になかったので、ユーチューブで確認しました。…なあんだ、その通り。ごめいさん、「幻想即興曲」でした。ショパンは39歳の若さで亡くなりますが、この曲は死後、出版された遺作でした。プロでも難曲と言われる弾くのにとても難儀する曲でした。でも、大変な名曲です。 タイトルを思い出す間、この曲は、ずっと私の頭の中を回っていました。なかなか思い出せないので、歯がゆくてしょうがありませんでした。

 Gさんから、最近、小生の書くブログは難しくて、ついていけない、なんて言われちゃったもんで、今日はこんな脱線した話で誤魔化しました(笑)。

【後記】

自宅にアルトゥール・ルビシュタイン演奏の「ショパン全集」(RCA Victor)があり、当然ながら「幻想即興曲」はディスク10に収録されておりました。原題は、Impromptus No.4 Op66 in C-sharp mionor “Fantasie Impromptu”

何度聴いてもいいですね。

タモリに学ぶ人生の過ごし方

 人間の悩みの90%は、人間関係だと言われています。親と子、先生と生徒、上司と部下、男女のもつれ、夫婦関係、友人関係、親戚関係、嫁姑…、昨今、通り魔事件も多いですから赤の他人との関係も悩みの種ですね。

 私も人間ですから、嫌になる日が多々あります。思うに、毎日、政治や経済や社会など人間の問題のことばかりについて考えているからなのでしょう。他人は、正義心と自己主張の固まりですから梃子でも動きません。どうにもならないことで悩んでいるわけです。

 そんな時は、宇宙のことを考えます。今から、138億年前に突然「ビッグバン」が起きて、何もなかった所に、急に時間と空間と重力とエネルギーが生まれて宇宙が出現した、なぞという話を聞かされても、俄かに信じがたいのですが、眩暈で気絶したくなるほどです。

 地球が誕生したのは46億年前で、宇宙の歴史を1年のカレンダーにすると、8月30日に当たるそうです。(ビッグバンを1月1日とする)

生命(タンパク質や核酸の生成)の誕生が40億年前(9月15日)。

 少し飛ばして、恐竜の誕生が3億年前(12月23日)

 その恐竜の絶滅が6500万年前。(12月29日)

 やっと、我々の御先祖さまとつながる新人類ホモ・サピエンスが誕生するのが20万年前。(12月31日午後11時37分)

 農耕牧畜の始まりが1万年前(12月31日午後11時58分)

 となると、宇宙から見れば、人間の歴史などたかだか一瞬に過ぎないんですね。それに比べて恐竜さんは、実際、地球上で2億年近くも繁栄していたのですから、大したものです。

 「誰それがどうした」「誰それがあれした」などと、人間に拘っているから、毎日、鬱屈してしまうんですね。

築地「C」 おまかせ丼 1000円

 私はあまりテレビは見ませんが、NHKの「ブラタモリ」はよく見ます。この番組では、その土地の地殻変動や噴火した溶岩や堆積岩など地学、地質学の話がよく出てきます。それが10万年前の話だったり、100万年前の話だったりすることはザラで、中には人類が誕生するはるか大昔の何億年も前の話だったりするのです。

 人間が出て来ず、主人公でもなかったりするのです。番組進行のタモリさんは、学者並みに、異様に地質や地学に詳しいのですが、珍しい岩石に出合ったりすると、人に会った以上に感動したり興奮したりするのです。

 御本人に会ったことがないので断定できませんが、この方は、どうも人間関係はサバサバしていて、恐らく人間関係で悩んだことがない性格に見受けられます。まず、深い意味で、人類自体に興味を持っていない。結晶片岩や蛇紋岩の方がはるかに興味があると思われます。

 となると、人類の歴史の1万年のスパンというより、何千万年、何億年のスパンで物事を洞察しているんじゃないのかと思ったわけです。

 勿論、タモリさんにも悩み事はあるでしょうが、あまり人間だけに捉われていない。彼の目先に拘らない、長い年月のスパンでの物の見方も、見習いたいものだと思いました。

安保ただ乗り論は本当なのか?

  トランプ米大統領が日米安全保障条約の破棄を何度も示唆しているので、日本政府関係者は慌てふためいているかと思えば、極めて冷静です。「大統領選のキャンペーンのためのポーズ」と忖度しているようです。

 FOXビジネスニュースの電話インタビューで、トランプ大統領は「日本が攻撃された時、アメリカは第3次世界大戦を戦い、猛烈な犠牲を払うことになるが、アメリカが攻撃されて救援が必要なとき、日本はソニーのテレビで見物するだけだ」と、本人の持論である日本の「安保ただ乗り」を展開しています。イマドキ、家電界が韓国、台湾、中国製に席捲された日本で、ソニーのテレビを見ている日本人は少ないでしょうけど。

 それにしても、本当に日本は、米軍の「核の傘」の下で、安穏と、ただ乗りしているんでしょうか?

 調べてみると、日本政府が2018年度予算に計上した「在日米軍関係経費」は4年連続過去最大の8022億円。日本に駐留する米軍兵士・軍属は約6万1300人で1人当たりの経費は約1300万円だったということが分かりました。その内訳はー。

▼「米軍再編関係経費」2161億円

▼「沖縄に関する特別行動委員会関係経費」51億円

▼「在日米軍駐留経費」(いわゆる「思いやり予算」)1968億円

▼基地周辺対策費、米軍用地借り上げ料、漁業補償費、提供普通財産(国有地)借り上げ試算など3842億円

合計=8022億円

 この金額で、台頭する周辺覇権国に対する防衛費が賄えれば安いもんじゃないか、と言う人もいるかもしれません。でも、このとてつもない金額は、政治家が払うのではなく、日本人の庶民の血税から支払われていることを忘れてはいけませんね。

 そして、トランプさんが主張するような「ただ乗り」どころではない金額であることは誰でも分かります。それに加えて、金額に表れない騒音問題や日米地位協定による領空権、領海支配や治外法権などもあります。

 何よりも、2004年とちょっと古いですが、米国防総省が発表した米軍駐留各国の経費負担割合です。日本は74.5%と最大で突出しています。韓国は40%、ドイツは32.6%ですからね。

 同じ第2次世界大戦の敗戦国である日本が米軍駐留費の4分の3近くも負担しているのに、ドイツはわずか3割ちょっとで済んでしまっていますからね。同じ敗戦占領国でも、ドイツ人は、トランプさんの祖先を遡れば行き着くらしく、日本人は単なる黄色人種だから、見下されているようにみえます。

 トランプさんは米国の最高権力者ですから、このデータを知らないわけがありません。それどころか、「日本は米軍駐留費の100%負担しろ」と発言もしていますから、あまり人が良い人には見えませんね。

 そもそも、日本人は米国人に対して、一方的に甘い期待ばかり寄せているんじゃないでしょうか。

 敗戦国日本は、戦後復興のために、米国からガリオア資金(占領地域統治救済資金)とエロア資金(占領地域経済復興資金 )などによって救済されました。ということを歴史の教科書で習いました。そのお蔭で、われわれ戦後間もない日本人の子どもたちは、給食の脱脂粉乳で育ち、飢えを免れました。

 戦後教育によって、米国は「白衣の天使」のような存在と崇められましたが、ガリオア資金などは無償貸与ではなく、後から返還要求され、1972年までに完済したというではありませんか。また、脱脂粉乳は、豚のえさにもならず、余っていたので日本に輸出したらしく、この話は真実かどうか別にしてひどく驚いたものです。

 このように、安保条約は敗戦国日本にとっては不平等条約です。ですから、戦勝国が一方的に破棄するわけがありません。こんなことを書いても、なあんの足しにもなりませんが、大手メディアが報道してくれないもので…。

?「Cold War あの歌、2つの心」は★★★★★

  今月上旬に予告編を観て、どうしても、何としてでも観たかったポーランド映画「Cold War あの歌、2つの心」を有楽町で観て来ました。満員でした。監督、脚本は「イーダ」でアカデミー外国語映画賞を受賞したパベウ・パブリコフスキ監督。 同作品は昨年の第71回カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞しました。

 日本人は、「灰とダイヤモンド」や「鉄の男」「カティンの森」などで知られるアンジェイ・ワイダ監督作品が大好きで、ポーランド映画には馴染みがあります。この作品も、私の直感に違わず感動的な映画でした。CGやFXなどを多用するこけおどしのようなハリウッド映画とは一線を画します。製作費をかけられなくても、効果的な音楽が実にいいのです。胸にジーンと、お腹にはズシリと効いて、終わってもしばらく席から立ちあがれませんでした。

 東西冷戦下の1949年から1964年までの15年間の話です。ポーランドの舞踊歌劇団に所属するピアニスト兼音楽監督ヴィクトル(トマシュ・コット)と若い歌手ズーラ(ヨアンナ・クーリグ)が、愛し合いながらも、時代に翻弄される物語です。

 監督のパブリコフスキは、私の同世代ですが、この作品は両親を参考にして製作したようで、「両親に捧ぐ」と献辞られていました。パブリコフスキ監督は、子ども時代、冷戦下で育ったわけで、この映画の中に出てくるように、舞踊歌劇団がソ連・スターリンの政治的プロパガンダに利用されたり、ヴィクトルが強制収容所か監獄に入れられてしまう話などは事実として見聞し、フィクションとして反映したものと思われます。

 さすがに、愛し合う二人の結末がどうなるかは茲では書けませんけど、密告と裏切りが蔓延る冷戦下という非常事態でなかったのなら、あれほど、二人は狂おしいほど燃え上がることはなかったのかもしれません。

 何と言っても、この映画が良かったのは音楽が良かったからでした。ポーランドの伝統的なマズルカのような民族舞踊曲を始め、ヴィクトルがパリに亡命してからのジャズは、当時の時代を見事に再現している感じでした。(ヴィクトルは、あの難曲中の難曲、ショパンの「幻想即興曲 op66」をいとも易々と弾いてましたが、ショパンはポーランドが生んだ大作曲家・ピアニストでしたものね)

 21世紀だというのに、全編モノクロで撮影されていて、最初、何でそんなアナクロな手法をパブリコフスキ監督は取るのか理解できなかったのですが、観ているうちに分かりました。白黒でなければ、1950年代の「ジャズ・エイジ」のパリの雰囲気を表せなかったのではないか、と。(火災に遭う前のノートルダム寺院も出てきました)

 そうなると、ズーラの着る民族衣装も色彩豊かに見え、ズーラの唇には、強烈に派手で真っ赤な口紅が塗られていることが見えてくるのです。

 映画では、ヴィクトルとズーラの二人が別れたり、再会したりする15年間の軌跡を辿っていますが、演じる二人とも見事に老けていくので、メーキャップにしても凄いなあ、と思いました。特に、ズーラ役のヨアンナ・クーリグは、最初は10代の女子高生ぐらいにしか見えなかったのに、最後は、中年太りのために本当に体重を増量して、背中まで肉付きがよくなっていて、同じ人とは思えないくらいでした。

 彼女は、失礼ながら、超美人ではありませんが、華があってオーラがあり、しかも素晴らしい歌唱力もあって、誰でも心惹かれる名女優といっていいでしょう。私もすっかり、ファンになってしまいました。

 恐らく、この映画、日本でも大ヒットするんじゃないでしょうか。そう予言しておきます(笑)。

「昭和恐慌と経済政策」

 ここ半年ほど、1929年のニューヨーク株式大暴落に端を発する大恐慌について、興味を持ち、その関連本としては名著と言われる秋元英一(当時千葉大学教授)著「世界大恐慌」(講談社メチエ、初版1999年3月10日)を読破したのですが、今一つ、理解不足でした。ケインズやニューディール政策などが登場し、字面を読むことはできるのですが、知識としてストンと腑に落ちることができなかったのでした。

 そこで、同書に参考文献として挙げられていた(当然ながら名著の)中村隆英(当時)東洋英和女学院教授の「昭和恐慌と経済政策」(講談社学術文庫、初版1994年6月10日初版、底本は、1967年、日本経済新聞社刊「経済政策の運命」)を読んだところ、日本に特化した大正から昭和初期の話でしたが、すっきりと「経済史」として整理されていて、歴史的流れをつかむことができました。

 この本の主人公は、「金解禁」を実行した民政党の浜口雄幸内閣の井上準之助蔵相です。私のような金融政策音痴の人間が言うのは大変烏滸がましいのですが、何で、世界恐慌最中の昭和5(1930)年1月に、井上蔵相は金解禁を実施したのか、という疑問でした。結局、この金本位制復帰のお蔭で、緊縮財政から銀行倒産など昭和恐慌が激しさを増し、同年11月に浜口首相の狙撃事件(翌年8月死去)が起こり、昭和6(1931)年12月に、政変によって政権についた政友会の犬養毅内閣の高橋是清蔵相によって、金輸出再禁止されたものの、井上準之助は翌7年9月に血盟団の団員によって暗殺されてしまいます。(19世紀以来、金本位制を牽引してきた本場英国は1931年9月21日に金本位制を停止。ポンド大英帝国の没落が始まります)

 考えてみれば、今、上述した浜口雄幸首相、井上準之助蔵相、犬養毅首相(5・15事件で)、高橋是清蔵相(2・26事件で)は全員、テロ襲撃に遭って暗殺されているんですよね。当時の政治家は生命を懸けていたことが分かります。

 しかし、果たして、暗殺した側の右翼国家主義の宗教団体にしろ、軍部の青年将校たちにしろ、知識人ではあっても、当時の国際経済や金本位制などの金融問題、複雑な為替管理操作や公債の発行などといった財政政策などを少しでも勉強したことがあったのだろうか、と疑問に思いました。

 恐らく、彼らは、不況や東北地方の冷害で、娘を身売りしなければならなかった惨状を見聞したり、三井などの財閥が、金輸出再禁止によって円の暴落になるのではないかという思惑でドル買いに走り、大儲けしたことを新聞で読んで義憤に駆られたりしただけで、複雑な経済問題を熱心に勉強していなかったのではないか、と思いました。

 つまり、表面的な政治問題や社会事件だけ見ていただけでは歴史は分からないのです。人間の下部構造である経済をしっかり押さえていなければ、深く理解できないと思ったのです。

 そういう意味で、こういった「経済史」関連本を読むことに大変な意義深さと価値を見いだしました。

 以下は、重複することが多々ありますが、備忘録としてメモ書きします。

・為替レートの維持が困難になった大正13(1923)年3月、東洋経済新報は、新平価解禁を主張した。…円の金価値を1割程度切り下げて解禁を行うべきだというのである。新平価によれば国内経済に打撃を与えないで金解禁を行うことができるというのである。…東洋経済の石橋湛山、高橋亀吉に小汀利得(おばま・としえ、中外商業新報記者)、山崎靖純(時事新報で金解禁反対を唱えたが追い出されて、読売新聞に移籍)を加えたいわゆる新平価解禁四人組の経済ジャーナリストだけが終始新平価解禁を唱えるのである。(50~51ページ)

・大正15(1926)年、大蔵大臣に就任した片岡直温は、金解禁を決意したが、銀行の内容の悪さを知って驚いた。…2億7000万円余の震災手形のうち、実に9200万円余が鈴木商店関係の手形であり、それに次ぐものが久原房之介関係の手形であった。また、震災手形を所有する銀行は、台湾銀行が1億円、朝鮮銀行1500万円をはじめ特殊銀行が1億2200万円、その他普通銀行が約8500万円だった。(56~57ページ)

・日本が立ち遅れていた金本位復帰(金輸出解禁)を決意したのは、昭和4(1929年)7月、浜口民政党内閣が成立し、井上準之助が蔵相に迎えれたときからである。井上蔵相は、旧平価による金解禁後の国際競争の激化に備えて、財政支出を削減し、金利を引き上げ、国民に消費節約を訴えるなど、強烈な引き締め政策を実行した。このため、日本経済は29年秋から急激な景気後退に見舞われた。米国に始まる不況の波及はその直後のことである。昭和恐慌は、金本位復帰のための引き締め政策と、海外の恐慌という二重の原因によってもたらされたのであった。(219ページ)

・井上の悲劇は、…古典的な経済理論が現実から乖離しようとしているのにも関わらず、教科書通りの経済政策を強行しようとした点にあった。…井上の政策が破綻した何よりの原因は、全世界的な金本位制度が行き詰まりに直面している事実を正しく認識しなかったことである。…これに対して、高橋是清は、金本位制の意味をそれほど重くみていなかった。むしろ高橋にとっては産業の発展の重要性あるいは国民の所得水準の維持、向上という目標が強く意識され、金融や財政はそのために協力するべきだという強い考えを持っていた。…高橋は、ケインズの投資乗数理論を思わせるような波及効果をある程度実践したといってもいい。(201~205ページ)

 こうして、健全財政の守り神とされていた蔵相高橋是清は、軍事予算を削減するなどして軍部から反感と恨みを買い、結局、2・26事件で暗殺されるわけです。 

 嗚呼、何か、小難しいことばかり書いてしまいました。これでまた読者も離れてしまうなあ…(苦笑)。

日本工業倶楽部は超が付く社交クラブだったとは…

 皆様御存知の満洲研究家、松岡將氏が体調を回復されて、来月、満洲三部作(「松岡二十世とその時代」「王道楽土満洲国の『罪と罰』」「在満少国民望郷紀行」)を引っ提げて、日本工業倶楽部日本倶楽部で講演会を開催されるということで、おめでとう御座います。御同慶の至りです。

 日本工業倶楽部とは、何の会なのかよく知らなかったのですが、その会員の皆様を見たところ、日本を代表する超一流企業の重役さんや元社長さんらのお名前がズラリ。

 ちょうど、世間の裏情報に精通している経済ジャーナリストの油小路先生が通りがかったので、捕まえて聞いてみました。

 渓流斎 あ、どうも、油小路先生。例の松岡先生が、元気になって、今度、日本工業倶楽部とかいうところで、講演するらしいんですけど、どんな所ですか?日本記者クラブみたいな所ですか?

 油小路 馬鹿言っちゃいけませんよ。そんなものと比べたらいけませんよ。月とスッポンですよ。日本工業倶楽部は、経団連なんかよりずっと古い大正六年、当時の有力実業家らによって東京・丸の内に創立された団体ですよ。初代理事長は団琢磨。あの血盟団事件で暗殺された三井財閥の総帥です。

 へー、そうだったんですか。

日本工業倶楽部会館   屋上には二つの人物像が(同倶楽部のHPより)

 あなたは、何も知りませんね。 日本工業倶楽部会館の正面屋上には二つの人物像が置かれてます。男性はハンマーを持った坑夫、女性は糸巻きを手にした女工さん、当時の二大工業の石炭と紡績を象徴し、彼らに敬意を表しているのです。戦後、日本工業倶楽部の理事長になった日清紡の社長宮島清次郎(1879~1963)は知らないでしょうねえ。経営者として清廉潔白な人で、とても尊敬できる人ですよ。高度経済成長期に、会館の屋上にゴルフ練習場をつくろうという話になった時に、「労働者が働いている時に、経営者が昼間っから、ゴルフの素振りをするとは何事だ。練習場をつくるなら、俺は理事長を辞める」と啖呵を切った人ですよ。

 そして、宮島清次郎は、最後まで勲章を拒否した人でした。「人間はもともと農耕民か、漁民だったんだから、差別はいらない」という考えでした。

 へー、凄い話ですね。

 宮島清次郎は、東京帝国大学時代、吉田茂と同期生だった関係から、財界として資金面で吉田内閣を支えたのです。また、日清紡の社長に若き桜田武を指名したのも宮島です。ご存知の通り、桜田武は後に日経連の会長を務めるなど財界代表として活躍するわけです。

 いやあ、僕は財界について、何も詳しくないので、知りませんでした。

 かつて、日本工業倶楽部には「財界クラブ」があったんですよ。今は経団連ビルにありますけどね。そこで、財界の大物の記者会見があったりして、小生のような経済部の新聞記者たちが取材していたわけです。古参の先輩記者に聞いたら、 その記者クラブがあった所は昔、「車夫馬丁」の控え室だったというではありませんか。今は車夫馬丁は差別用語ですが、昔の新聞記者は車夫馬丁と同等の扱いだったということですよ。

 だから、日本記者クラブと日本工業倶楽部は似て非なるもので、月とスッポンだということですよ。ちなみに、明治の思想家中江兆民は、息子が将来、車夫馬丁になっても困らないよう、名前負けしないように、長男に「丑吉」と名付けたのは有名な話です。

 そうだったんですか。

 入会金も年会費も桁違いですし(法人は入会金50万円、年会費55万円、推薦者2人)、料理の質もレベルも全然違う。40年近く昔の話ですけど、日本工業倶楽部のカレーライスなんて、当時でも3000円ぐらいしましたよ。値段に違わず美味さは比べ物にならないくらいピカイチでしたよ。うまかったなあ~。大手新聞社の記者の中にはタダ飯を食うために来る者もいましたよ(笑)。

 3000円は大袈裟でしょう。本当ですか?

 ま、そんなもんです。あと、当時、日本工業倶楽部内にあった理容店は、「天皇の理髪師」と言われた人がやっていたことで知る人ぞ知る床屋さんでした。何から何まで超一流でしたよ。

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 ということで、日本工業倶楽部の話ばかりで、もう一つの日本倶楽部のことについては、油小路先生からあまり話を聞けませんでしたが、こちらも凄い倶楽部で、昨年創立120周年を迎えました。 明治30年11月、公爵近衛篤麿(1863~1904)、子爵岡部長職(おかべ・ながもと=1855~1925)、鳩山和夫(1856~1911)の3氏が主唱し、翌31年6月に設立された名士の会で、財界だけでなく、政界、官界、法曹界と錚々たるお歴々が集った親睦団体です。

 主唱者の近衛篤麿は貴族院議長などを歴任、戦時中に首相を務めた近衛文麿と作曲家近衛秀麿の父。岡部長職は、岸和田藩の最後の藩主で、明治・大正の外交官、政治家。その三男長挙は朝日新聞創業者の村山龍平の婿養子となって朝日新聞社長になった人。 鳩山和夫は弁護士、政治家で、東京専門学校(早稲田大学)の校長なども歴任。長男一郎、孫の由紀夫氏も首相を務めるなど鳩山一族の基礎をつくったような人でしたね。