WST National Gallery Copyright par Duc de Matsuoqua
まさに「政治とカネ」の疑獄に焦点を当てた名越健郎著「秘密資金の戦後政党史」(新潮選書、2019年12月20日初版)を今、読んでいます。先日読んだ室伏哲郎著「実録 日本汚職史」(ちくま文庫、1988年2月23日初版) の続編みたいな感じです。
室伏氏の本が明治以来の日本の政界の「伝統」である贈収賄事件のことを扱っているのに対して、名越氏の本は、副題に「米露公文書に刻まれた『依存』の系譜」とあるように、もっと国際的視野から「政治とカネ」の問題にアプローチしています。
著者の名越氏は、時事通信社のモスクワ、ワシントンなどの特派員、外信部長などを歴任した後、現在、拓殖大学教授です。小生の大学と会社の先輩に当たり、よく存じ上げている方なので、この本を取り上げるのは依怙贔屓かもしれません(笑)。しかし、この本は力作です。米国とロシアの公文書館で公開史料を探訪した労作です。驚くべき事実が描かれています。このブログをお読みの全ての皆様にお薦めします。
著者は序章でこう書いています(引用文は入れ替えなどあり)。
1990年代以降、米国の情報公開や91年のソ連邦崩壊に伴う文書公開により、冷戦期に活動した日本の主要5政党のうち、公明党を除く自民、民社、社会、共産の4党が外国から非合法に資金を導入していたことが判明した。
通常、個人や企業、団体が政治家や政党に寄付する場合、何らかの見返りを期待するケースが多い。外国の組織が日本の政党に政治資金を提供する場合、当事国の戦略や思惑も絡んで国家の主権や安全保障を危うくするリスクを伴う。
もう序章でこの本の結論を書いているようなものです。この後、いつ、誰が、どの政党が、どれくらいの金額をもらっているのか、示唆するような形で暴いています。これらは、マッカーサー駐日大使(マッカーサー最高司令官の甥)から国務省への公文書や米アリゾナ大学のマイケル・シャラー教授ら研究者の著書などを引用して書かれているのですから、信憑性は高いのです。
例えば、米CIAの対日秘密工作として自民党などへの資金援助の総額は分からないとしながらも、マイケル・シャラー教授の「『日米関係』とは何だったのか」(草思社、市川洋一訳、2004年)を引用して、1958年頃から少なくとも10年間続いた援助額は、毎年200万ドル(7億2000万円)から1000万ドル(36億円)に上ったとしています。
ただし、「昭和の妖怪」と言われ、CIAとの繋がりが濃厚で、日米安保条約の締結に命を懸けた元首相の岸信介(安倍首相の祖父)に関するCIAなど情報機関が作成した個人ファイルは、いまだに、ほとんど「不開示」のため、具体的な数字が出てこないのが実情だといいます。
とはいえ、岸信介は、マッカーサー大使と極秘に頻繁に会っていたほか、岸の実弟で、岸政権の蔵相だった佐藤栄作(後の首相)が米国に露骨に資金支援を求めたり、佐藤が資金受領を自民党幹事長だった川島正次郎に任せたことなどが公文書に具体的に実名で出てきます。
一方、旧ソ連から社会党、共産党に流れたとされる秘密援助も毎年変化しますが、その中で、ソ連を中心とする東側から1955年に日本共産党に提供された資金は25万ドル(9000万円)とソ連共産党公文書に記載されているとし、「CIAの支援額とは桁が違っている」と著者は書いています。
まあ、随分、生々しいお話だこと! 情報公開した米国とソ連の英断も讃えたくなります。公文書を改ざんしたり、破棄したり、シュレッダーにかけたりするどこかの国とえらい違いですね。
私は若い頃から政治家には不信感を抱いて生きておりましたが、これでは、右翼も左翼も、みんな売国奴じゃありませんか。自民党(そして、社会党右派から分裂した民社党も)は米国からお金をもらい、社会党と共産党はソ連からお金をもらい、政権維持や票集めの道具に使っていたわけですからね。となると、お金をもらっている日本の政党は、米国やソ連の傀儡に他ならなくなります。
今は露骨な資金援助はないでしょうが、何か別の形で援助が来ているのではないかと私は疑っています。こんなんでは、自主独立国家と世界に胸を張ることはできませんよね?それとも、国際世論はとっくに、日本は米国の属国だと思っているのでしょうか?
「そんなことはない」と、日本の政治家の皆さんには率先して訴えてもらいたいです。