世の中、平気で嘘をつく人たちが支配する殺伐とした雰囲気になりましたので、気分を洗いたくなり、東京・上野の国立博物館で開催し始めた「名作誕生」に足を運びました。
週末だというのに、始まったばかりなのか、それとも、民度が到達していないのか(笑)、意外と空いていてゆっくりと観賞できました。
ラッキーでした。
これでも渓流斎翁は、御幼少の砌から、東博には足を運んで、芸術作品を鑑賞したものです。
当時は、専ら「泰西名画」です。泰西名画といっても、今の若い人は分からないかもしれませんが、とにかく、泰西名画展のタイトルで盛んに展覧会が開催されていて、ルーベンスからゴッホ、モジリアニに至るまで、欧米から高い借り賃を払って運ばれた西洋の生の絵画を堪能してきたものです。
しかし、歳をとると、DNAのせいか、脂ぎった洋画はどうも胃にもたれるようになってしまいました。
たまには、お新香とお茶漬けを食べたいという感じです。
ということで、最近は専ら、日本美術の観賞に勤しんでおります。
本展でも、雪舟から、琳派、若冲、狩野派、等伯まで、しっかり神髄を抑えており、確かな手応えと見応えを感じました。
今まで、雪舟という名前だけしか掲示されませんでしたが、最新の研究成果からか、最近は「雪舟等楊」と掲示されるようになりましたね。
「名作誕生」ですから、影響を受けた中国の宋や明などの画壇の長老を模写した日本人絵師の作品が展示されてましたが、伊藤若冲ともなると、完璧にオリジナルを超えてました。
国際主義者と言われるかもしれませんが、若冲は、技量の面で、西洋絵画も超えてます。
それなのに、明治革命政権は廃仏毀釈をしたり、「平治物語絵巻」など国宝級作品の海外流出を黙認したりしていることから、若冲の偉大さに気づいていなかったのでしょうね。
米国人収集家によって、再発見、再評価されるのですから、何をか言わんですよ。
東博
本展で、最も感動した作品を一点挙げよと言われれば、迷うことなく長谷川等伯の「松林図屏風」です。
霧の中に浮かぶ松林が、黒白の墨絵で描かれ、近くで見ると分かりませんが、遠くで見ると見事に焦点が結ぶという、これ以上単純化できない、全ての装飾を剥ぎ取った究極の美を感じます。
東博所蔵で、もちろん「国宝」です。
何度目かの「再会」ですが、この作品を見られるだけでも足を運んだ甲斐がありました。